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想いを長押にひっかけて

 電車に揺られること二時間。昨日、秋川渓谷あきがわけいこくに行ってきた。



 秋川渓谷とは、東京都あきる野市にある観光スポットである。その名の通り、緑の山々が連なるその間を、秋川という透明な川が、時に静かに、時に岩肌にその身をぶつけ激しく、流れている。


 秋には紅葉が、春には桜が。夏にはバーベキューや、川釣りが楽しめる。そして、年間を通して入れる、温泉がある。都内でありながら自然を満喫できる、スポットだ。


 ……といっても、私は昨日行ってみるまで、その場所のことを知らなかった。高校時代の友人S氏に誘われて、「全部任せる」と伝え、ただついて行ったのである。なにより私はその友人を信頼しているし、それに、実際行ってみたとしてそこが予想していたよりも残念なガッカリスポットだったとしても、その友人と過ごせる時間であるならば、私にとってそれは無駄な時間にはならない、と考えたからだ。お互いお喋り好き同士、場所と時間さえあれば、楽しめる仲なのだ。決して、「めんどくさい」とかそんな理由ではない。



 八時に待ち合わせをして、電車に乗る。近況報告や、高校時代の友人の、最近の状況なんぞを聞いていたら、あっという間に着いてしまった。最終目的地である『瀬音せおとの湯』という温泉施設へ行くバスもあったのだが、あえてそれには乗らず、ひたすらに歩いた(何キロかはわからないが、五時間はかけた)。東京二十三区内で育った私達にとって、山の見えている風景というのは新鮮だった。


 「突然、こういう所に住んでみたいね。今ある人間関係を、一切断ち切って」


 「そうだねぇ。俺は将来、こういう所で余生を過ごしたいよ」


 そんな年寄り臭い話をしながら、今年二十五になる男二人は町中を進む。周りには、築数十年の古い家々が立ち並ぶ。土地を贅沢に使った、庭の広い平屋があったりする。そんな風景を楽しみながら、ひたすらに歩く。



 家々は無防備に窓を開け放って、太陽の光と風とを取り込んでいる。ある家の窓の向こう、長押なげしに、写真が立てかけてあるのがちらと見えた。


 また、違う家の長押に写真。成人式のものらしき、着物姿の女性の写真だ。また、ある家には――孫のものなのか――赤ん坊の写真。――結婚式。――七五三。家々の、窓向こうの風景が、一瞬一瞬、目に写る。



(あぁ、どの家も、誰かの実家なんだ)



 ふと、そんなことを思った。どの家も、どこかの誰かの実家で、その誰かの、帰って来れる家なんだ。



 私の祖母の家の長押にも、写真が立てかけてある。私の両親の結婚式のものもあるし、私が生まれたばかりの弟を抱いている写真もある。子の写真、孫の写真。サイズの違う写真がごちゃごちゃと、乱雑に並ぶ。そんな家に、私の祖母は一人で暮らしている。


 みんなやることは同じなのだなぁ、と思った。みんな、自分の住む家の、自分がいつもいる居間の長押に、愛するものの写真を立てかけて、それに見下ろされながら、見上げながら。毎日を、過ごすのだ。



 その後は、橋を渡ったり、川で子どものように石投げをしたり、たまたま見つけたレストランで食事をしたり(これがまた大当たりでウマかった!)、温泉に三時間も入っていたりなんかして、帰ってきた。


 どれもたのしく、素晴らしい思い出になったけれども、私の頭に最も印象を残した風景は、長押に写真をひっかけた、家々の窓だった。

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