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恋(ノン・フィクションVer.)

『現実は小説より奇なり』



 なことがたまに起こるから、現実に生きるってのは楽しいなぁなんて、たまに思う。



 それは、たとえば、二年前の十月。憂木くんと“なろう”に小説を投稿してみよう、なんて名目で集まったあの日。たまたま下着ドロボウを見つけちゃって、二人で協力して捕まえることになったあの出来事とか。


 プロの小説家さんに本を読んだ感想をメールで送ったら返事が来て、その人が実は同じ街に住んでいたことが発覚したというあの出来事とか。



 「そんなことって、ある?」ってことがたまに起こるから、楽しいなぁ、なんて。思う。



 だから、



「友達としてなら……」



 そんな返事が返って来た時には、本当にびっくりした。




     *




 何においても、“最後”が近づきつつあるとき、っていうのは、時間の流れを速く(・・)感じるものだ。特に今回は、二つのタイムリミットが迫っていたのだから、なおさら。


 一つは、六年間勤めたバイト先である書店を辞める。それまでの残り一ヶ月。


 もう一つは、すきになった女性、彼女に告白する予定の日までの、残り一ヶ月。



 あと一ヶ月。あと二週間。来週。


 あと三日。明後日。明日。



 今日。



 そんな風に、その日はやってきた。



 シフト表を見て、その日しか無いとわかっていた。時間的に、メンバー的に。チャンスはそこしかない。帰り、駐輪場にて。自転車の所まで行ったら、彼女がそれに乗ってしまう前に。タイミングを見計らって、言う。「俺さ……」



 何度も、何度も、頭の中で行われてきたシミュレーション通りに。



 私は、口を開いた。



「俺さ……みんなには言ってないんだけど……あと一ヶ月で、ここ、辞めるんだ」



 みんなには言ってないんだけど。でも、仲の良い後輩三人は知っているんだけど。……店長も責任者も知ってるんだけど。でも、まぁ“みんな”ではないから。嘘ではない。


 というか、今はそんなことどうでもいい。



 彼女は「えっ」と驚くと、「そうなんですかぁ」とセリフを挟む。シミュレーションでは無かったリアクションだったが、そりゃそうだ。



「うん。だから……辞める前に、○○さんに、話しておきたいこと、っていうか……聞いて欲しい話が、あるんだ……」



 ここで一つ。言っておきたいのだけれど、私は今、その時の事をよくよく思い出して、書き記している。どんな心境かといえば、とても恥ずかしい。その時も、書いてる今も。思っていたより恥ずかしかった。でも、緊張はあまり無かった。これは、繰り返し行われた脳内シミュレーションの賜物だと思われる。



「俺さ……○○さんのことが、すきなんだ……」



 彼女は少し驚いて、照れたように顔を伏せ、「そんな……」といったようなことを言った。



 ここでもう一つ。言っておきたいことがあるのだけれど。上の私のセリフを見てもらえば分かる通り、なかなかにセリフをつっかえ、モジモジと話している様子が見てとれるだろう。小説としてかいた「恋」の告白シーンと見比べてみてほしい。


 これは実際にはじめて、面と向かって人に「すきだ」と告白したからこそわかったことであって、大いなる成果だと思っていることなのだが、つまりそれはどういうことかと言うと、まず一つは『めちゃくちゃ恥ずかしいぞ』ってことで、更に言えば、小説やドラマのそれのように芝居がかった口調で、真剣な顔で、「君のことが、すきだ!」だなんて言うのは、自分とそのシチュエーションに酔いしれてるみたいでもっと『恥ずかしいぞ』ってことなんだ。


 そこはシミュレーション通りにはいかなかった。いや、シミュレーション通りにスラスラとあんなセリフを現実に言っていたとしたら、めちゃくちゃキモチワルイことになっていただろうと思う。それはやはり現実だったからわかったことであって、私は相手のリアクションなどに合わせて、なるだけ理性をしっかり保ち、アドリブを効かせながら告白を続けた。



「○○さんはとてもかわいいと思う。容姿も……声も、仕草も……」



 私のセリフに相槌をいれるように、「そんなことないです……」などと、手を振ったりなんかして謙遜する。やはりかわいい。



「ここを辞めて、それっきり会えないだなんて、嫌だと思ったんだ。まだ○○さんと話したりしたいし、食事に行ったり……鎌倉にだって行きたい」



 なんで私がここで「鎌倉うんぬん」などと言っているのかというと、先日一緒にレジに入った時、紫陽花の写真が目に入って、「鎌倉、行ったことある?」「いや、それが学校の遠足とかで行ったっきりで……」「鎌倉イイよ。鎌倉には三大紫陽花寺ってのがあって、長谷寺、明月院、成就院ってのがあって、特にオススメなのは成就院なんだけど、どうイイか、っていうと(ry」といった会話をしていたのだ。


 成就院から見える景色を、彼女に見せてあげたい。そんなことを、最近は思っていたのだ。



 ちなみに私の告白は他にもなんかしら言っていたのだが、もう恥ずかしいので割愛させていただく。



「だから、良かったら………………」



 ここで一つ。発見したことがある。



 映画やアニメなんかの告白シーンといえば、そりゃあもう大事なシーンであって、主人公の男の子がヒロインの女の子に「すきだ!」だなんて言おうものなら、スローモーションになったり、周りの雑音全てがミュートになったり、女の子の顔のアップになったり。するだろうと思う。何度も脳内シミュレーションを行ってきた私の頭の中には、そんな脚色された、映像作品ナイズされた告白シーンが出来上がっていたのだ。


 ……しかし、現実にはそれがない! 俺がどんなに気持ちを込めて、勇気を振り絞って「すきだ」っていっても、スローモーションにはならないしミュートにもならない。時間は冷酷に、淡々と流れるのだ。これが現実の怖いところ。言葉に詰まって黙ろうものなら、気まずい沈黙がタラタラ流れて焦る。……当たり前だが、でもこれは実際告白してみないとわからない、感じられなかったことだ。これは収穫だった。



「付き合ってくれませんか」



 私がそう言うと、彼女は少しだけ言葉に詰まって、



「気持ちはすごくうれしいんですけど……」



 と話し始めた。



 ここは、もうシミュレーション通り。(あっ、フラれはじめている)冷静に、そう思った。



「わたし、大学の単位も結構ヤバくって……」



 「あ、うん、そうだよね。忙しいよね。○○さん、バイトだって三つ掛け持ちしてるし。忙しいだろうなぁ、ってのは、わかってたんだ。……ゴメン」と、私は何故か言い訳がましいことを口にする。



「男女の付き合いみたいなのも、私よくわからなくって……興味がない、っていうか……」



(あぁ、フラれている。フラれたんだ)



 そんな実感を沸かせる私は、次の彼女のセリフを聞いて、純粋に驚いた。



「だから、友達としてなら……」



(えっ……?)



「木下さん、映画とか詳しいし……わたし友達少ないので。友達になってくれたらうれしいです」



 「鎌倉も行きたいし……」そう続ける彼女。



 その発想は無かった。ここまで「すきだ」、「かわいい」と言ってしまったなら、あとはなく、『フラれてサヨウナラ』か、『ハイ、付き合いましょう』のどちらか二択だと思っていたのだが。


 そんな第三の答え、全く想像していなくって、うろたえた。



「えっ、いやっ、うれしい。友達としてでも。……全然。えっ、てか、いいの?」




 その後は向こうから「アドレスを交換しましょう」と言ってくれて、私は素直にスマートフォンを取り出し、連絡先を交換してその日は別れた。その次の日――昨日はバイト先で会う最後の日で、何事も無かったかのように話をして、彼女が夏休みに入ったら鎌倉に行こう、といった旨の話をした。




 結局、フラれはしたけど、友達にはなってくれた。私は元々、気持ちを伝えられればそれで満足だったし、でも告白するからには「付き合ってください」と、そこまで言うべきだろうと思って言ったので、これは最悪の結果ではなかったと言える。


 ……まぁ、付き合えればそれはそれで最高だったわけだけれど。でも、彼女がそういうことに興味が無いというのなら仕方がないし、私もすきな人の嫌がるようなことは絶対にしたくはない。


 もう彼女を困らせてしまうようなことは二度と言わない。そう誓いながらも、夏に行けるかもしれない鎌倉は、密かに楽しみなのであった。



 そして、すきになった人にちゃんと「すきだ」と言えたことが、少しだけ、誇らしかった。

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