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短編集<そこから物語は生まれる>文学編

箱庭

作者: papiko

 箱庭に【命】というものをプログラムしてから、なんだかうまくいかないなと彼は思っていた。特に人間という種族が生まれてからは、箱庭の状態がよくない。他の種族たちがよく滅ぶ。

 その逆に、ゆるやかな進化をしていた者たちが急速な変容を遂げ始めてもいる。


 彼は悩んだ。

 人間の歴史に何度か介入してみたものの、それは逆に人間たちが互いに諍ういさか生き物にしていった。人間は諍いを繰り返すことで、まるで自分たちを実験台にでもしているかのように進化を続けている。

 ところが、近頃は自ら【命】を絶つものが増えている。特に、物があふれ、情報があふれ、生きてゆくのに不自由のない社会で……。その一方で、兵器による殺し合い。


 いったいこいつら何考えてんだよと彼は思った。


 確かに自分がランダムに派生していく【命】のプログラムを設定したことに間違いはない。変化していく箱庭を眺めているのは楽しかった。退屈な永遠を生きなければならない彼にとっては、とても楽しい退屈しのぎだった。それが今では悩みの種だ。


 箱庭を壊して、作り直すことは大した作業ではない。だが、本当にそれでいいのだろうか。気に入らないから、面倒になったからといって、今まで何度も壊してきたけれど。この人間という奇妙な【命】の行く末を見ずに壊すのも、なんだか惜しい気もするのだ。ほんの少し前までは、人間は彼を神とあがめていた。

自分たちの創世の物語を口伝え、文字にし、歴史を編んでいた。


 ほんのちょっと、ピンセットでつついただけで、人間たちは自分たちを作ったものがいると考え始めた。それまでは、他の【命】と大差なく、生きること、子孫を残すことを最優先させていたのに。


 彼は余計な介入をしてしまったのだろうかと頭を悩ます。


 しかし、今更、この人間という種族に何の介入をすべきなのか思いつかない。

人間は彼が思うよりも早く変化していく。一秒たりとも目が離せない速度で。目を離したら、滅んでいたなんてこと、容易にありそうだし、実際、何度かそんな危機的な状態におちいってもいるが……。


(しぶといんだよな)


 他の【命】と違って、この種族はやたらとしぶとい。箱庭に設定されている災害のリズムの中で、必ず生き残るものがいるのだ。いったい、どこまで変化して、どんな終わり方をするのか。彼はそれが気になって、箱庭を壊せないでいた。そして、何より不思議なのが人間が生み出したとしかいいようがない想像力と好奇心だ。


 彼はそんなプログラムを入れた覚えはない。ランダム設定の【命】は発生について設計されたものであり、変化については補足程度に組み込んだだけである。

環境に順応するという項目を一つ設定しただけなのだが。


 彼はじっと箱庭を眺める。人間のすることに、頭を悩ませながら。矛盾だらけで、しぶとくて、変化にとんだ種族。


 彼は次はいつピンセットでつついてみようかなどと考えるが、当分は箱庭の災害リズムの狂いを調整しなくてはならないことに思い至る。とりあえずのメンテナンスが終わったころに、人間はどうなっているだろうか。


 彼の中の楽しみは、どうやらそのあたりにあるようだ。



【終わり】


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