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高校2年生 春

 二年生のクラスには、一年生の時に同じクラスで仲が良かった女子がいなかった。

 冴子ちゃんも文系組なので教室がかなり離れてしまった。


 それでもパンツ事件のお陰で私はすぐに名前を覚えてはもらえた。


 しかし早いうちからクラスの友人を作ろうと思いつつも、やはり私は幸のクラスへよく行った。




 幸のクラスへ遊びに行って知り合ったのが秋世だ。


 秋世はとにかく元気で、真田君とも中学の同級生だった。

 あまり口数が多くなく私の前では笑わない真田君も、秋世と話すといっぱい笑っていた。


 嫉妬は全くしなかった。


 何故なら秋世が出す雰囲気はお日様のようだったから、私も幸も秋世と話すと笑ってしまうのだ。


 秋世との最初の会話は

「真田と付き合ってるんでしょ。

 凄く良いカップルだよね。」

だった。

 何よりも嬉しい言葉だった。




 私は真田君もそうだが、幸と秋世に会いに足しげくG組へ通った。




 クラスでは優子と美喜とまずは話すようになった。

 優子はお洒落な美人で勉強が好きな優等生だった。

 美喜もまたお洒落な美人で流行に詳しい明るい女子だった。






 パンツ事件以来自転車が使えるようになると、私は真田君と一緒に帰るようになった。


 真田君は毎日部活動が終わってから三十分かけて私を家まで送り、三十分かけて自宅まで帰っていった。

 絶対に疲れているはずなのに毎日続けてくれていた。

 今考えるとあまりに過酷で、無理にでもやめさせるべきだったように思う。


 たまに部活動が早めに終わると、私の家の近くの公園でお喋りをして帰ったりした。




 部活動が無い日は真田君はほとんど友達と遊びに行っていて、夜に電話をしてくれていた。


 だから映画や買い物などのデートらしいデートというものはしなかった。

 実はデートしたいというのが本音ではある。


 しかし、雪が溶けるとサッカー部はテスト期間中位しか部活動の休みが無いので、束縛するのは気の毒に思ったのだ。


 これが独占欲試練その1である。


 しかし私もクラスの友人と買い物へ行くなど交流の時間が持てたため、この時期の距離的には良かったのだろう。






 気付いたら真田君と付き合ってから半年近く経っていた。




 高校二年生も慣れてくると、いたる所からピンクな話題が飛び込んでくるようになった。


 やはり二年生のクラスにも大人な女子がいるのだが、私も彼氏がいるくくりで大人チームのイメージを持たれていたのには驚いた。

 今思うと私の高校のカップル達は、半年続くと長い方で、一年続くとまるで既婚者チームであった。

 三カ月と半年でピンク色の壁にぶつかる事で破局する人達が多いと聞いた事がある。


 その点では私と彼は非常に清く正しい交際で、実は手を繋いだこともなかった。


 大人チームからは驚かれたが、当時私はあまり問題に思っていなかった。






 そんなある日、いつものように真田君と自転車置き場へ向かっている時に視線を感じて振り返ると、ある男子がこちらをじっと見ていた。


 私が最初に付き合った男子先輩だった。


 その時部活動で一緒の女子先輩から聞いた話しを思い出した。

 私達が付き合っているのは何故か先輩達の間でも話題になったらしい。

 その時件の男子先輩が

「なんで自分とはうまくいかなかったのに、あいつら続いているんだ?」

と呟いていたというのだ。


 女子先輩はその男子先輩をあまり好きじゃないようで

「あいつ連敗中で落ち込んでてさ、気にする必要はないけど、面白かったから教えた。」

と言っていた。




 しかしああもじっと見られると流石に私も気になった。

 自転車に手をかけてからまた振り返ってみるとまだこちらを見ているのだ。




 真田君はその様子に気付いてから

「行こう。」

と私に声をかけた。


 私と真田君は男子先輩をそのままに家路へと向かった。




 道の途中

「今日は少し公園によろう。」

と真田君が言った。




 私達は街灯が少ない真っ暗な公園のベンチに座った。


 今日は部活動が早く終わったわけではない。

 恐らくあの男子先輩の事だろう。


 心から間違ったと焦った。

 恋人に過去の相手の話はタブーなのが私ですらも分かるわけで、困ってしまった。

 どうしたら良いのか無い思考力をフル回転させて俯いていると


「おかしいくらいずっと見てたろ。

 何かあってからじゃ遅いからちゃんと教えて。」

と言われた。




 私は観念しておそるおそる重い口調で話しはじめた。

 振り返らなければ良かった、間違ったのだと後悔していた。




 前に男子先輩と付き合ってた事、しかし私に恋愛感情がなかったから押し倒されたとき逃げ出した事、避けていたらフラれた事、女子先輩が言っていた事


 言いたくなくて言いたくなくて、やっと言い終わった時には疲れて肩が下がってしまった。


 もっと前に話しておくべきだったのか、それとも振り返った事が一番の間違いだったのか。


 いや、一番の間違いはあんなに軽い気持ちで男子先輩と付き合った事だ。




 私は終始俯いて真田君の顔を見る事ができなかった。

 真田君は私を見て黙っている。




 軽蔑されただろうか。

 嫌われたりフラれたりするのだろうか。




 私の思考力では現状打破の策が浮かばなかった。






 私は沈黙に耐えきれず

「遅くなるから帰ろう。

 ごめんね真田君。」

と立ち上がり、彼の方を見ないで自転車に向かって歩いた。






 すると急に後ろから腕を引っ張られ体が反転した。




 気付いたら私は真田君の腕の中にいた。




 私は思考がパニック状態になった。


 私達は手を繋いだ事もろくにデートした事もない。

 まさかこのタイミングでこの展開になるとは夢にも思っていなかったのだ。




 壊れそうな心臓の音が頭まで響いてきた。


 不安なのか驚きなのか。




 少し間をあけて私はおそるおそるたずねた。




「なんで?」








 すると真田君は小さな声で答えてくれた




「なんとなく。」




 真田君はそう言うと私を抱きしめる腕に力をこめた。


 それから片手を離し、私の髪の毛をなでながら私の頭にキスをした。




 真田君は身長がのびたようで私の視線は彼の鎖骨のあたりだった。


 ぎこちなく彼の背中に手を添えて鎖骨に頭を寄せてみると真田君の心臓の音がした。




 同じだと思った。




 あんなに沈んでいた私は一瞬にして天国へのぼった。


 時間が止まって欲しいと、本当に思った。






 数日後の全部活動が休みになった日の放課後、真田君と幸の彼氏が友人達と遊びに行くところに、私と幸は自転車置き場で出くわした。


「夜電話する。」

と真田君が一言だけ言って自転車をこぎだそうとした時に、幸の彼氏が振り返って大きな声で叫んだ。




「真田は育実ちゃんと結婚するまでHしないんだってよ!」




 真田君は見たことが無い位に驚いた顔をして幸の彼氏の頭を殴り

「バッ…!いくぞほら!余計な事いうな!」

と言っていなくなってしまった。


 幸と幸の彼氏は大笑いしていた。


 でもなんだか嬉しかった。






 高校二年生の夏はもうすぐ。

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