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祝福

 神聖で厳かな空気の中にパイプオルガンの音色とコ―ラスが響き出すと同時に、重厚な両開きの扉が開き光が射し込む。


 ヴェールに隠された秋世の顔は少し俯き目が伏せられていたが、閉じた口元の微笑みがこの結婚式に対する思いを語る。


 あれほど賑やかな秋世がエスコートされながら一歩一歩淑やかに進むバージンロードは、これまでの秋世の道が思い出されて心が打たれる。

 既に私は涙が溢れそうだ。


 秋世が向かう先で待っている新郎は今日初めて会った人なのだが、とても優しい笑顔で秋世を見つめていた。


 新郎と秋世が並ぶ後ろ姿を見た時、高校時代からの秋世が走馬灯のように頭を過った。


 クラスで笑う秋世

 廊下で怒った秋世

 夏祭りで肩車される秋世

 雪に埋まって鼻血を出している秋世

 いつも私の傍にいてくれた秋世


 お祝いの席で思い出すのには少し気の毒な事もあるのだが、それも含めて歩いてきた道が彼女の今日を作り上げたのだと思うと全ては決して間違いではない。




 そう。間違いではない。




 私は幸のタイムボックスに心から感謝した。

 今こうして秋世のこれまでの道と、これからの道にちゃんと祝福を贈る事ができるのは間違いなく幸のおかげだ。


 教会の神聖な空気は私が先日思い出した記憶をより一層色鮮やかなものにし、秋世のこれまでを思い出しながらこれからの健やかな幸せを願う私の心をも強く大きく膨らませた。


 秋世が誓いのキスをした時には秋世の事を思う私の涙腺は限界に達し、ハンカチで目元を押さえた。


 それから讃美歌を歌い秋世はライスシャワーの中退場したのだが、秋世は終始私が見た事の無い幸せな「女」の顔をしていた。


 その後秋世のお母さんは私の隣に来て

「ようやく行ってくれたわ。」

と晴れやかな笑顔を見せて話しかけてきた。

 新婦の母親というのはとても忙しいらしく、感動などしていられないと言って笑っていた。







 式が終わると披露宴があり、そこに高校時代の秋世のクラスメイトと優子が来た。

 少し遅れて大谷君と宮本も来て私達は懐かしさにはしゃいで、席次の通りに同じテーブルにつき近況を語り合いながら秋世の披露宴を楽しんだ。


 優子は北海道の大学を卒業して実施経験を積んだ後地元の病院に凱旋していた。

 宮本と大谷君はどちらも地元で働き未婚で、大谷君は会社を興していた。

 大谷君は

「育実は童顔だからあまり変わらないな。」

と笑っていた。




 今日参列していない高校時代の友人達の現状などにも花が咲き

「真田は」

と秋世のクラスメイトが言いかけたところで、彼女は私を見るとはっと息を飲み口をつぐんだ。

「気にしないで良いのに。

 もう10年以上も前の話だよ。」


と私は笑って言ったが、彼女は遠慮をして続きは話さなかった。




 秋世の披露宴は堅い仕事の二人のイメージを崩さない上品なものであった。


 宮本が高砂席のドレス姿で微笑む秋世をじっと見つめ

「あいつすげえ綺麗だな。」

と呟いて大谷君に肩を抱かれていた。






 二次会は地下にあるお洒落なワインバーだった。

 二次会の席でついに酔っぱらってしまった宮本が

「くっそ。

 あいつ売れ残ったら俺と結婚するって言ってたのに。」

と言い出した。


 新郎の友人達もいるので私達は慌てて宥めようとしたが


「なのになんだよあいつ。

 超綺麗じゃん。」


と俯いてしまった。


 秋世が気付いてこちらに来たが、大谷君が笑いながら

「宮本違う店行こうぜ。」

と宮本を立たせお店の外へ促した。


 秋世は寂しそうに泣きそうな表情で店を出る宮本の背中を見ていたが、何も言わなかった。

 様子を見ていた優子が、笑顔で秋世の手を取り違うテーブルへ連れて行った。




 その時大谷君が


「俺高校の頃育実の事好きだった。

 でも育実と真田はよく似合っていたから見てるだけで良かった。

 真田は結婚したよ。

 お前も幸せにな。」


と言うとあの頃の笑顔を見せてから宮本の背中を追いかけて行った。






 私は急に胸の中に湧いた思いを吐き出したくなり、急いで通路に出て幸に電話をした。




 この度の帰省にあたって、秋世の結婚式への参列の次に私を落ち着かなくさせていた事に対しての回答が得られたのだ。






「もしもし幸!真田君が結婚してた!

 大谷君が私にも幸せになれって!」




 すると幸は教えてくれた。


 真田君は結婚していて子どももいるらしい。


 実は幸と彼は最近連絡を取りはじめたらしく、顔を合わせる事もあるようだ。


「真田君の奥さんはとても良い人そうだった。

 真田君は相変わらず格好良かったよ。」







 そこまで聞くと私は涙が止まらなくなった。






 良かった。

 彼が幸せで。

 本当に良かった。




 口には出さなかったが、先日記憶を取り戻した私が一番最初に願ったのは彼の幸せだった。


 私は最後に彼の事を一切考えなかった。

 私にあんなにたくさんの思いを教えてくれたのに、私の青春を素敵なものにしてくれたのに。


 彼は今幸せでいるのか。どうか幸せでいて欲しい。




 そう強く思ったのだ。






「良かった。良かった。」


 私は涙が止まらなかった。


 幸はうんうんと頷いてから

「私達高校時代、楽しい事も辛い事もいっぱい頑張ったよね。」

と卒業式前のバレー女子部の監督と同じ事を言った。


「育実は気付いていないでしょう。

 育実が真田君のために可愛くなると育実も男子からモテたんだよ。

 だから真田君も色々あって苦労していたんだよ。」


 そんな事考えた事もなかった。

 しかし大谷君が先程話してくれた事が事実なら、もしかしたら本当なのだろうか。


「育実と真田君は皆が羨む素敵なカップルだったんだよ。

 憧れた人もいっぱいいたんだよ。

 私は二人のファンだったから、二人共幸せでいてくれると嬉しい。

 育実があの頃の思い出を幸せだったと思い出せて良かった。」









―――――




 後日私は新幹線に乗り都心へ戻った。

 楽しみにしていた新作の本を開たいが、やはり頭の中にはただの文字しか入ってこないので、私は本をそのままに目を閉じた。


 目を閉じた私の瞼に浮かぶのは、幸せな秋世の顔と式場で再開した友人達と卒業アルバムの最終ページにあった「頑張れよ」の文字。


 既にたくさんの思い出と幸せとときめきとが私の心を満たしてくれていた。




 高校はもうすぐ無くなってしまうが、私の青春の記憶はもう色褪せる事はないだろう。






―――――




 自宅に入り

「ただいま。」

と声を発すると仕事部屋から

「おかえり。」

という声がする。


 後ろ姿のまま仕事部屋のパソコンの前でくわえ煙草の彼は


「良い声だ。

 良かったな。」


と言った。


 私は着替えもせずそのまま夢中で彼の背中に結婚式の話と実家の話と友人達の話をした。

 相変わらず回転不足の私の言葉は決して聞きやすくはないはずなのに、彼は楽しそうに聞いている。


 暫く私の話を聞いた後彼は

「ハヤシライス作っておいたから一緒に食べよう。」

と微笑んで振り向いた。




 彼は全てにおいて凄く優しく私を大切に思ってくれている。

 思考力が弱いありのままの私の喜怒哀楽は、彼にとって重要なものであり娯楽の一つでもあると笑って話す。


 私はそんな彼に絶大な信頼を持ち、私が私のままに過ごせる事に感謝し、そしてまた私も彼をとても大切に思っている。




 私はもうすぐ仕事を辞める。

 彼の希望で家庭を守る事に専念するのだ。




 私の全てを知り、それでも




「人生はある意味間違いだらけで、でもその間違いがあって今の育実がいるのなら、それは正解なんだよ。」





と言ってくれた彼と

私は今後の人生を共に歩んでいく。






 人生も青春も間違いが多いけれど、きっといつか正解になる時がくるのかもしれない。

 これまでの、これからの青春が皆に幸せを運んでくれる事を私は信じたい。






出会った全ての人に、この物語を読んでくれた全ての人に祝福をこめて





FIN

最後まで読んで下さって本当にありがとうございます。


勢いで書いた初めてのものですので、読みにくい部分が多々あったかと思います。

気付いたらエッセイ部分が多くなりすぎてしまい、分かる人には身バレするような内容になってしまいました。


きっかけは友人幸とはまった北海道を舞台とした某少女漫画でした。

自分の高校時代の記憶を掘り起こそうとしても全く思い出せず、現実で幸のタイムボックスのお世話になりました。


そしていざ文章にまとめようとすると自身のトラウマ的な部分にも触れたため、物語は決まっているのに完結させるのにも相当苦労しました。


このような駄文でも最後まで読んで下さった方には、どうか、自身の青春を大切に、そしてたまには思い出して下さい。


もう届く事はありませんが、真田君にも感謝をこめて。


皆さまの青春の記憶が健やかでありますように。

本当にありがとうございました。

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