高校卒業
この日は雪が少しちらついていた。
私達は胸に小さな花飾りをつけて、卒業式は厳かに、しかしたくさんのすすり泣きが聞こえる中滞りなく進行した。
最後の校歌斉唱は、これまで聞いた事のない声量で、皆最後はちゃんと歌おうと思ったのだろうと感じた。
A組から順に在校生や父兄の拍手の中退場をしたのだが、C組のあたりでクラッカーが鳴った。
宮本や大谷君達が隠し持っていたようで、歓声と笑い声が上がった。
本来なら大目玉なのだろうが先生方は笑っていて、今日は見逃してくれそうだ。
あちらこちらから色々な歓声や笑い声があがり、泣いている人達もいたが、この頃には退場する三年生は笑顔の人達の方が多かった。
退場時に在校生の横を通り過ぎると
「育実せんぱーい!」
と声を揃えて叫ぶバレー女子部の数人の塊が点々と見えた。
二年生の彼女達が叫びながら泣いていているのを見てうっかり泣きそうになったが、指をさして笑ってから皆に手を振った。
同様にバスケ女子部主将も名前を叫ばれて、あちらこちらへ手を振っていた。
同じような光景は全ての卒業生が見えなくなるまで続く。
退場時にこれ程たくさんの歓声があがるのは、恐らく部活動が盛んな学校だったからなのではないかと思う。
私達は教室に戻り、先程渡された卒業アルバムの最終ページへ寄せ書きの交換を始めた。
久美ちゃんがカラフルなペンをたくさん持ってきてくれたので、私達のアルバムの最終ページは華やかになった。
その後担任の先生の最後の授業を受けた。
いつも賑やかな人達も静かに先生の言葉に耳を傾ける。
最後に先生が
「卒業おめでとう。」
と言うと歓声と拍手が鳴り、かなりの人数が先生に駆け寄り写真を写したり卒業アルバムに寄せ書きを書いてもらっていた。
私も書いてもらった。
時計を確認してクラスの男子が二人教室の前後の出入口扉に立ち
「あけるぞー!」
と声をかけ扉を解放すると、教室の前で待機していた後輩達が拍手や指笛を鳴らしながら歓声をあげた。
三年生は全クラス同時に扉を解放した。
そして私達は他のクラスの人達や後輩達と抱き合ったり言葉を交わしたり、寄せ書きを交換する。
幸や他のバレー女子部員と記念写真を撮っているところにバレー女子部の後輩達が来た。
私達は花束と、以前に卒業アルバム用で撮影したが採用されなかったうちの一枚の写真を中心に置いた、後輩達の寄せ書きの色紙を貰った。
写真を準備してくれたのは監督だったそうだ。
その写真をよく見ると、後ろの窓で真田君や幸の元彼氏や大谷君達がピースをして写りこんでいた。
私と幸は驚いて大笑いした。
そして後輩達は私達に「記念に」「思い出に」と、ありとあらゆる物をねだり、卒業式だというのに私と幸はブラウスと後輩が準備したジャージという、あられもない姿にむかれてしまった。
まさか制服を全て持って行かれるとは思いもよらず、暫し茫然としてからまた大笑いした。
優子や加奈子達クラスの友人も私達を見て大笑いした。
秋世はそんな私達を写真に撮って笑っていた。
たくさんの人達と話をしたり挨拶したり、新しい住まいの連絡先を教えてもらうなどをした。
皆笑っていた。
去年の卒業生の廊下がキラキラしていたのは皆笑顔だからなのだと知った。
大分時が過ぎ、私と幸はその上からコートをはおり、花束と色紙とアルバムなどのプレゼントを抱えて玄関へ向かった。
玄関につくと上着を取られた真田君と幸の元彼氏が私達の出で立ちを指さし、驚いて笑っていた。
私達も彼等を指さして笑った。
そして玄関で会った友人達とまた抱き合って、私達は在校生が校舎の窓から見送る中手を大きく振って高校を後にした。
皆の前途が、後輩の前途が幸多くありますようにと目を閉じて心の中で願った。
卒業式後私を家まで送ってくれた真田君は、少しだけ部屋にあがった。
お互いに打ち上げがあるので長居はできないのだ。
そして彼は私が着替えをしに部屋を出た時、私の卒業アルバムの最終ページにメッセージを書いてくれていた。
私が後輩から貰った色紙を彼に見せると、彼は写真を見て喜んで笑っていた。
たくさん笑った後ふと目が合った瞬間に軽くキスを交わし、また笑った。
こうして私達は高校を卒業した。
そして卒業生達の7割は各々の新しい生活の場所へ旅立って行った。
真田君も旅立って行った。
私は彼と交わる未来を目指すと心に決めて彼を見送った。




