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高校3年生 冬

 この地域の学校は冬休みが長い。

 南関東とは夏休みと冬休みの期間が真逆である。


 この年から私は秋世と宮本とスノーボードを始める。

 かなり昔なのでゲレンデでスノーボードを楽しむ人は稀な時代で、乗る事ができるリフトも限られていた。

 スキーは昔からやっていたのだが、スノーボードはスキーとは訳が違う。

 まず進む方向に慣れないのでエッジの使い方に苦労するのだ。


 私と秋世は宮本に騙されて急勾配コースのリフトに乗せられ、泣き笑いしながらの初滑りだった。

 最初の頃はリフト一本分滑る事にも苦労をしたが、上達するととても楽しくなり次第にジャンプもするようになった。

 とはいえ本格的なコースやジャンプ台が無い時代なので、せいぜい180位しかできなかったのだが。


 こうしてむこう数年間の私の趣味はスノーボードになる。


 残念ながら真田君はスノーボードに興味を持たず、専らフットサルだったので一緒に雪山へ行く事は無かった。






 雪が積もった頃から私の家は暇なクラスの女子のたまり場になった。


 雪が降る直前に、我が家は私の高校の近くの新築に引っ越しをしたのだ。

 弟の高校はかなり遠くなり気の毒だったが、それでも新築の木の香は気持ち良いもので喜んでいた。




 冬休み中に何人かの女子が泊まりにきた。


 加奈子あたりはトイレへ行くと言って部屋を出て、寝ている弟の部屋に忍び込み、弟の悲鳴が上がり部屋を覗くとベッドに入り込もうとしている加奈子がいたという事件を起こしたこともある。

「ついムラっとして。」

と加奈子は笑っていた。




 そんな明るい加奈子だが、冬休み直前に長い間付き合っていた彼氏と別れた。


「学生みたいな若い男とは付き合うものじゃないな。」

と寂しそうに言っていた。


 私が加奈子の事を強く覚えているのは、ある出来事があったからだ。




 私の家に泊まりに来たある日、加奈子に頼まれて共にお寺へ行った事がある。


「一人で行くのが辛いんだ。」


と言った彼女は、震える手で私の手を握りながらお寺の敷地に足を踏み入れ、お札を貰って何かを書いて捧げた後に手を合わせた。


 帰る際に同じクラスの男子が一人お寺の入口に立っていた。

 加奈子の彼氏とは違う人だ。


「あいつは来なかったのか。」

と声をかけられ

「うん。でも育実がついてきてくれた。」

と答えていた。


 その男子が顔を真っ赤にし怒りを顕に

「行ってくるわ。

 ここで待ってろ。」

と言ったが加奈子は慌てて彼の腕にしがみつき

「もういいんだよ。

 仕方ないんだよ。」

と、まるで限界まで張りつめた水風船が激しく弾けるように泣いた。


 私はこんな風に泣く女子を見た事がなかった。




 その男子は身長が150センチ程しかない小柄な加奈子を抱きしめて、小声で何かを語りかけていた。

 加奈子は何度も頷いていた。


 暫くして


「育実帰ろう。」

と涙をそのままに加奈子は笑顔で振り返った。


 その男子は私に

「加奈子をよろしくな。」

と言っていなくなった。


「あいつにも心配かけちゃっているんだよね。

 ちゃんとしなかった私も悪いのに。」

と涙を拭きながら笑った。




 加奈子の彼氏はクラスメイトだった。

 お寺の入口にいた男子は彼氏と仲の良い友人だった。

 そして加奈子と彼氏は仲がよく、熟年夫婦扱いだった。

 彼氏とお寺の入口にいた男子と三人で過ごしている姿が多く、二人に挟まれ両腕で彼等と腕を組み笑っている加奈子の記憶が強く残っている。




 冬休み直前、そんないつも一緒の加奈子と彼氏の間に子どもができた。

 加奈子の親は

「高校卒業後結婚するのなら生むのを許す。」

と言ったそうだ。

 加奈子は大好きな彼氏の子どもを生みたかった。


 でも彼氏はその後加奈子に別れを告げた。

 それ以来会ってもくれないし電話にも出てくれないらしい。




 加奈子は家族と話し合い、彼の子を天へ送って今日この水子の供養で有名なお寺に来たのだ。


 電話に出てくれない彼氏に、せめて供養だけでも一緒に行きたいと手紙を書いたが彼氏は来てくれなかった。


 件の男子はこの事をきっかけに彼氏に失望して殴った事があるらしい。

 それを聞いた時、件の男子を突き動かした思いは何が一番大きかったのだろうかと、ふと考えた。




「口では良い事言っても、十代の男子に現実は厳しいんだよね。

 私次はおじさんに恋するんだ。」

と加奈子は言った。




 彼女はよく私の家に泊まりにきた。


 そして私や他の泊まりに来た子といつも手を繋いで寝た。


 彼女は時々私に

「ぎゅってして。」

と言っていた。

 体が寒くて恐くて人の温もりが欲しくなると言っていた。


 私は加奈子をよく抱きしめてあげた。






 私は初めて性についてちゃんと考えた。


 耳年増な私は女性と男性では違うと聞いた事がある。


 女性は気持ちにより様々な事が変化する。

 一概には言えないが、思いや気持ちがたかぶる事で性欲を覚え、相手を求め、登っていく傾向が強い。


 男性のそれは違うと聞いた。

 そして一度体を重ねる事を覚えると繰り返し求め、違う人をも求める傾向もあり、複数の女性を同時に愛する事すらできるとも聞いた。


 男性は気持ちや思いと性欲はなかなかリンクしないのだろうか。


 真田君はどうなのだろうか。


 最初の頃は間違いなくリンクしているのを感じたが、果たして今は?


 もしかすると加奈子と彼氏の未来が違えてしまったのも、ただ経済力や将来性だけではなく、体を重ねる上での気持ちや思いがすれ違った可能性もあるのではないだろうか。




 加奈子は

「真田君はちゃんと考えてくれそうだよね。」

と言っていた。






 考えているのかな。

 それとも考えていないのかな。


 そんな事を考えて彼を見つめると

「何考えてる?」

と聞かれて口付けられる。




 そして私は思う。


 加奈子の事を知り色々考えても尚、彼の腕に包まれる事で切なくなりながら求めてしまうのは恐らく女の本能なのだろう。




 端からは愚かしく思われるかもしれないが、もがこうとしても、どれだけ聞かされても、どれだけ頭で考えても止められない。


 それはまるで底無し沼のように






 私はそれが大好きな大好きな人と体を重ねる事だと知る。



 間違いなのかもしれないが正解であって欲しい。






 真田君や皆との別れの日は着々と近付いていく。

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