仲直り
真田君がフットサルチームに入ったのは、付き合いもあるが考えがあっての事だった。
私に嫌がらせをしたという女子の様子を知りたかったらしい。
そしてこの環境なら元を断つ事も可能なのではないかと考えている時に、元である美喜が接触してきたそうだ。
美喜という人間はあのままなので、無口で友人思いの真田君には扱い辛い女子だっただろう。
真意を探る事もできず、私を思うと邪険にもできず、そのままずるずると美喜のぺースに引っ張り回されたそうだ。
引っ張り回されているうちに付き合ったような話を美喜が言い出しチームがごたついて、他にもトラブルが重なり田中君の苦労を思うと離れる事ができなかったようだ。
これが真田君のこの時期の出来事なのだが、私がここまで知るのはかなり先になる。
暫くの間私は真田君と相変わらずのまま過ごしていたが、大谷君から
「なんだ別れてねえんじゃん。
もっと喧嘩して別れちまえ。」
とちゃかされた事で、私はまだ真田君の彼女だという事を確認し安堵する。
これでもまだ自分から仲直りをしに行くという考えが浮かばない思考力ゼロ娘は、こうしている間にも真田君と過ごす事ができる残り時間が刻々と経過してしまっている事に気付かない。
しかし逆に真田君と少し離れたこの状態だからこその出来事もあったように思う。
ある日帰宅のために学校を出たところで冴子ちゃんに声をかけられた。
「ちょっと時間もらえるかな。」
と言われ、私達は学校の裏手にある小さな公園へ向かった。
晴れてはいたが空気がとても澄んでいて、もうすぐ雪が降る気配を感じさせていた。
途中の自動販売機で温かいカフェオレを買ったので、公園のベンチに座って缶の口をあけた。
私は夏の件があるにも関わらず、何故か気持ちは落ち着いていて冴子ちゃんに嫌悪感も抱かなかった。
「ごめんね。
育と話さないまま卒業したくなくて。」
と彼女は言った。
彼女の表情は夏前に見たような辛く悲しい表情ではなかった。
「聞いたかもしれないけど、あの時期ね」
冴子ちゃんは私の知らない空白の時間について話し始めた。
山崎君は冴子ちゃんと付き合っている時に二年生あたりから少しおかしくなってきたらしい。
どうおかしくなったかは人に話すべきではないという事だったが、それが原因で冴子ちゃんは好きだけど別れたくて苦しんでいた。
そんな時、偶然その事を知った真田君が冴子ちゃんに手を差しのべて、色々話し合った後、山崎君と冴子ちゃんを完全に切るために二人は付き合う事にしたようだ。
山崎君の友達の真田君と付き合う事で、山崎君の冴子ちゃんに対する執着も無くなるのではないかと考えたのだとか。
「私自分の事ばかり考えていて、育の気持ちを傷つけてしまった。
ごめんなさい。」
私は何も言わなかった。
肯定しても否定しても後戻りしてしまう気がしたのだ。
「助けてくれた真田の事を大事にしようと思ったんだけど、夏祭りの日に気付いたんだ。
真田が私を助けたのは、私に育を見たんじゃないかって。」
私は何故か分からないため目を丸くした。
「私と育って身長も同じくらいだし、後ろ姿も似てるって言われるじゃない。」
初耳だった。
こんな大人っぽい素敵女子と後ろ姿とはいえ似ていると言われるとは、少し嬉しかった。
「夏祭りの時に育が倒れて真田が走った時、この関係は間違いじゃないかと思ったんだ。
気付くの遅くなってごめん。」
冴子ちゃんは頭を下げた。
山崎君はそれ以来冴子ちゃんから完全に手を引いたらしい。
真田君には本当に感謝していると話していた。
「私今付き合っている人いてね。
これがバカなんだけど幸せなんだよ。
これも真田と育に迷惑かけて掴んだ幸せだから、お礼も言いたかったんだ。
ありがとう。」
そう言って冴子ちゃんはまた頭を下げた。
この時私は心が晴れた気がした。
ずっと靄がかかって道の先を隠していたのが見えてきたような思いだった。
私は訊ねた。
「今の彼氏ってどんな人?」
それから冴子ちゃんは笑顔で彼氏の話しをたくさんしてくれた。
本当に幸せそうに話していた。
私達はかなり長い間話しこんだ。
久しぶりに冴子ちゃんと笑いあった。
その後冴子ちゃんとは話す機会を持てなかったが、この時私に声をかけてくれた事は大きな出来事だった。
好きだった友人を失ったままで卒業しなくて良かった。
そして冴子ちゃんはこの時期の私と真田君を心配してくれていたようにも思う。
彼女はそういう人だったから。
次の日
私の気分は軽かった。
恐らく昨日冴子ちゃんと話ができたからだろう。
真田君と喧嘩中にも関わらず、一日をご機嫌に過ごした。
下校するために玄関で靴を履いて帰宅しようとすると、私のクラスの下足箱に寄りかかっている真田君がいた。
彼は私に気付くと
「今日家に来ない?」
と言い、私は少し間をあけてから
「うん。」
と答えた。
あんなに長い間離れていたのに、あまりに自然に仲直りしてしまった。
好きだから仕方ないのかな、なんか情けないななど考えながら靴を履いて顔を上げると
チュッ
と軽くキスをされた。
あまりに突然で驚いた私は頭に血がのぼり固まった。
私の顔をのぞきこんでいた真田君の目はいつもの優しい目だった。
私は心臓がきゅうと絞られ、また彼を大好きなのだと確信させられる。
真田君が先に玄関を出たので私は慌てて後を追う。
少し歩くと彼は振り返り私に右手を差し出す。
私はその手に左手を伸ばした。
私達はこの離れていた期間の話をしなかった。
しなくても良いとその時は本当に思っていた。
話していたら未来は変わっていたかもしれない。
間違いなのか正解なのか。
次第に登校する三年生がかなり減る。
私の高校は出席日数さえ足りるならこの時期からは登校の強制をしない学校だった。
県外へ出る生徒が多いため、既に進路が決まった者達の準備期間やこれからセンター試験を受ける者達の受験対策を考慮しての事だろう。
かと言って地元推薦組は登校しないと注意を受けるので、私は真面目に登校した。
机は空席が目立ち空気が閑散とし、寂しさを覚えた。
優子とはこの頃から受験勉強の追い込みのために話す時間が激減し、真田君と幸と加奈子は進路は決定しているが卒業後の準備の関係でまた休みがちになる。
私と秋世と宮本は、たまに暇そうな人を誘いながら公園で本気で鬼ごっこをしたり、トランプや花札でかなり酷い罰ゲームをかけて勝負するなどをして笑いながら過ごした。
秋世の彼氏がヤキモチをやいて喧嘩になった事もあり、少し申し訳なかった。
雪が降り始めた。
高校三年生の冬が来た。




