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詰め寄り事件

 優子が

「ちょっと。どうしたのよ。」

と割って入った。


 すると加奈子が

「我慢できなくなってきたから一回聞いてみようと思って。」

と言った。


 話の発端は、久美ちゃんが先日の打ち上げで好きだと言っていたクラスの男子と美喜がデートをしていた事が始まりらしい。

 そこにいる久美ちゃんは、どうやら制止したにも関わらず大事になったショックから泣いていたようだ。


 まずここから驚いた。

 美喜は真田君と付き合っているのではなかったのか。

 そして何故美喜が打ち上げの時に初めて覚えた久美ちゃんが好きな男子とデートをしたのか。




 美喜は眉毛を下げて

「ごめーん。」と言った。



 どうやら私がおめでた過ぎるのと自分の事でいっぱいいっぱいに過ごしていたためか、知らなかったのだが他にも色々あるらしい。


 久美ちゃんの件と似たような事が美喜と他の女子との間でも起こっていたというのだ。


 美喜はまた

「ごめーん。」

とその女子へ言った。


 男子の件だけではなかった。

 体育祭の打ち上げの時に待ち合わせ場所に来ないで一時間以上遅れて来た女子が数人いたのだが、彼女達はどうやら美喜に待ち合わせの場所が変更になったと嘘の情報を聞かされたのだ。

 今のように携帯所持が基本ではなく連絡手段がない彼女達は、ずっとそこで待っていたが誰も来なかったためおかしいと思い、店に直接行くと打ち上げはもう始まっていて、一時間以上経過した後だったらしい。


 何故嘘を教えたのか訊ねると、美喜はまた同じ口調でその彼女達に

「ごめーん。」

と言った。


 文化祭の打ち上げ時にも同様の事があり、それに対しても

「ごめーん。」

と言った。




 美喜は「ごめーん。」と口にはするが、訊ねられた事については全く答えない。




 加奈子は続けた。

「前にあの子が貸した12枚のCDは本当に無くしたの?

 12枚全部?」


 美喜はそのCDの持ち主の子にも全く同じように

「ごめーん。」

と言った。




 加奈子の口から発せられる数々の言葉から、私が最近感じていた違和感と恐怖の謎がなんとなくほどけてきた気がした。

 そして自分がいかに周りを見ずにおめでたく過ごしてきたのかにショックを受けた。


 ただ美喜の事が理解不能なのは変わらない。




 するとしばらく口を閉ざしていたバスケ部主将が

「育の件もそうだよ。」

と言った。


 私は皆に現状を話した訳ではないのだが、流石に文系組で話題になったとすると、このクラスに情報が入っていてもおかしくはない。

 真田君と美喜が付き合ったなどという話だろうと思い、いざ名前を出されて当事者の立場となると緊張して少し背筋が伸びた。




「文系組女子にあることないこと言って煽ったのも美喜でしょう。

 私達を分裂させたかったの?

 何が目的で私達と一緒にいる?」




 私は思わず

「は?」

と声が出た。




 鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている私にバスケ部主将が説明してくれた。


 美喜は真田君ファンに、私が彼女達の事を皆に言いふらしてバカにして鼻で笑っていると言ったらしい。

 田中君ファンにも同様の事を言ったらしい。

 さらに私がクラスメイトや幸や秋世の事をバカにしているという噂を文系組に撒いたのも美喜だというのだ。


 文系組女子達は、私と美喜がクラスメイトで共に過ごす姿を見る事でその話を信じたのだろうか。


 バスケ女子部員は文系組の方が人数的に多く、田中君ファンや真田君ファンの中にバスケ女子部員がいたので知ったのだと言っていた。


 バスケ部主将は男気あふれるイケメン女子で、曲がった事が大嫌いな人だ。

 クラスで一番最初に

「噂なんて気にすんな!」

と言ってくれたのは彼女だった。




「蒸し返して悪いけど、最近になって全部繋がったんだ。

 忘れたかったのなら謝る。すまん。」

と彼女は言った。


 私は息をする事を忘れたまま立ち尽くしていたが、首を何度も横にふり脱力して近くの椅子に座った。




 美喜は私の方を見てこれまでと同じように

「ごめーん。」

と言った。


 ここでようやく私は、田中君に告白された事を話してしまったのは、直後に動揺している私のもとに来た美喜にだけだという事に気付いた。




 詰め寄りは続き、余罪がぼろぼろ出てきた。


「何故そういう事をしたの?」

という問いには一切答えず、美喜は全ての件に対してまるでオウムのように

「ごめーん。」

を繰り返した。




 加奈子がキレた。

「ごめんじゃねえんだよ!

 何でこういう事すんのか聞いてんだよ!

 てめえバカにしてんのか!?あ?」


 優子とバスケ部主将が加奈子を宥めた。


 美喜は表情をあまり変えず首をかしげた。

 そして

「皆が嫌な気持ちになったなら謝るのが一番大事じゃん。」

と言った。




 場は凍りついた。




 バスケ部主将が

「美喜は私達に不快な思いをさせたいのか?

 私達は美喜が何故一緒にいるのかわからないんだよ。

 怖いんだよ。

 卒業まであと少しなのに下らない事でもめたくないんだ。

 皆で笑って卒業したいじゃん。

 だから頼むからもう私達に構わないでくれ。」

と言った。


 美喜はまた

「ごめーん。」

と言った。




 加奈子はまたキレそうになったが、優子が廊下へ連れて行った。






 そしてバスケ部主将の号令と共に詰め寄り事件は幕を閉じた。


 さあ帰ろうと皆が準備をして教室を出る時、美喜が詰め寄り事件の中にいた帰り道の方向が同じ女子達に駆け寄り

「ねえマック寄っていこうよー。」

と笑顔で何度も誘っている姿を見た。

 断られても無視されても彼女達の隣を笑顔で歩いて帰っていった。




 私は何かが分かって、ますます分からない事が増えた。


 つまり美喜はそういう人間なのだ。


 そうでなければ説明の言葉が浮かばない。


 恐らく彼女の理屈は私以上に独特で、私以上に自己中心的なのだろう。

 だから彼女の思考や行動は私のように思考力が弱い人間に限らず、理解する事は難しいのではないだろうか。




 短大を卒業してからもかなり経つが、今でも彼女の事だけは分からないままである。


 かなり後に一年生時の美喜のファンクラブが解散になったのは、美喜が原因だったと聞いた。






 その後田中君のフットサルチームの女子メンバーが随分と入れ替わった。

 新しいメンバーの中に美喜はいなかった。

 フットサルチームの女子達は内部分裂したらしい。


 当時理由についてはなんとなく想像ができるし知りたいとも思わなかったため、幸が持っている手紙にも詳細は記録されていない。


 取り巻きの女子の中で「美喜の舞」の被害にあった一人が

「育実さんの気持ちが分かった。」

と言っていたと秋世から聞いた。




 このような人間と出会うことで私は初めて人の裏側の可能性を考えはじめる。




 私は進学先が彼女と同じ事を心底後悔した。

 そして実際にそれは卒業後の私にとって災厄の一つとなる。






 もうすぐ雪が降る。

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