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信じること

「いつも駅で待ち合わせしてるから見られちゃったかなー。」

と美喜は笑顔で言っていた。


 私の思考力はショートした。

「そっか。」

とだけ言って、私は廊下から教室へ入った。

 だが美喜の席は私のすぐ後なので、どうしても彼女との空間を避けられない。


 とりあえず私は秋世に相談してみた。


 秋世は

「ええ!嘘でしょう!?」

と驚いてから

「駅に行ってみるか。」

と言った。


 結局秋世自身も彼氏と喧嘩の仲直りデートを控えていたので、そちらを優先してもらい暇そうな宮本と放課後に駅へ向かった。




 学校の近くの駅は木がまばらに立っており、その間に背の高い草が繁っていた。

 私達は駅の少し手前で自転車を降り、そのすぐ横から草むらに入って駅の方向へ歩き、遠目に美喜が駅のベンチに座っている姿を確認して身を潜めた。


 私は一生懸命周囲に人の気配がないか伺った。


 結構な時間が経過したと思う。


 私はずっとどきどきしていた。




 すると宮本が

「なあ真田マジでくんの?」

と言いながら面倒くさそうな顔で腕をはたいた。


 ふと私は我に帰った。


 全くである。

 元々美喜は電車通学をしているので、今も電車を待っているだけかもしれない。

 それに今日来るとは限らないし、だいたい真田君は来ないかもしれない。


 まして宮本にしてみたら自分は関係無いのにこんな草むらにしゃがんで虫と戦っているのだ。


 しかも私達の行動は明らかに怪しく、人様のプライベートをひっそり覗くというあまり褒められたものではない。




 先程までは不安でなりふり構わずだったが、それに気付くと自分の必死さに笑えてきた。


 何より宮本がかわいそうだ。


 私が笑いながら

「ごめんごめん。帰るか。」

と言ったその時




「おそーい。」

という美喜の声がして、誰かがベンチに近付いた。


 宮本は思わず身を乗り出しそうになった私の頭を押さえて声が呼ぶ方を見た。




「あれ。真田だわ。」




 宮本が言った。




 私も真田君だと間違いなく確認した。




 そして真田君と美喜は一緒にどこかへ移動した。






 私達はしばし無言で草むらの中にいた。


「ごめんごめん。帰るか。」

 私は今度は少し呆けたテンションで言うと立ち上がり、草むらから出た。

 そして先程とは違い堂々と、しかしぼんやりと道を歩いて自転車へ向かった。


 宮本は何も言わず私の後についてきて、自転車に乗った私の頭をくしゃくしゃして

「ちゃんと寝ろよ。」

と言った。

 私は何となく笑った。


 私達は今日はそのまま解散する事にした。




 正直かなり参った。


 冴子ちゃんの時も相当参ったが、美喜はもっと私に近い。

 教室の座席がすぐ後ろの現クラスメイトで、卒業後の進路まで同じだ。




 無い思考力を回転させ、少し整理する事にした。


 私と彼は喧嘩はしても別れ話はしていない。

 でも美喜は付き合っていると言っていて、先程も美喜が言う通りに待ち合わせていた。


 冴子ちゃんの時とは違う。


 最初は真田君の事ばかり考えていたが、その後美喜に対して疑問がわいた。


 彼女は何を考え何を思って私に笑顔を向けるのだろうか。




 この時も真田君には考えがあったのだが、私にはその可能性が見えない。

 恐らく駅に見に行ったのが間違いなのだろう。


 自分の目が見た事実が、私の中の信じる力を凌駕しようとする。


 やはり真田君は美喜と付き合ったのだろうか。

 ならば私は現在真田君にとって何なのか。

 辛くなってきた。




 今思い出すと何故さっさと本人に聞きに行かなかったのかと心底思うのだが、当時の私の思考力はこれが限界だった。






 しかし私には疑問で理解不能な出来事が続くことで、悲しんではいられなかった。


 その日以来美喜はやたらと私に絡んでくるようになったのだ。


 トイレへ向かう時も移動教室の時もついてくる。


 私は加奈子と話している事も増えたが、元々クラスでは優子といつも一緒に生活してきた。

 美喜は二年生になって初めてできた友人の一人ではあるが、それ程行動を共にしてきたわけではない。

 美喜はお昼などは同じグループだが違う女子達といつも一緒にいたはずだった。


 さらに私が秋世や幸と話している所にも、まるで昔ながらの友人かのように入ってくるようになった。

 二人とも全く接点が無いので驚いていた。

 秋世はそれとなく対応したが、幸は嫌悪感を顕にした。


 こうして私が友達の誰かと歩いていると

「置いていかないでよー。

 ひどーい。」

と言ってついてくるという、よくわからない状況になった。




 そして服装検査の日に限界が訪れた。


 検査の際、元々色素が薄い私の髪の毛はよく染毛のラインとして利用されるがひっかかる事は無い。

 美喜の髪の毛は同じくらいの色だが染めてパーマをあてているので毎回ひっかかる。

 今まではそれだけだったというのに今回は検査が終わると突然

「良いなあ育の髪はひっかからなくて。

 肌も綺麗だよねー。」

などと言いながら私の髪や顔を撫で回したのだ。




 鳥肌がたった。




 本当に真田君と付き合っているというのならば、このタイミングで彼女が私に近づいてくる理由がどうしても分からなかった。


 そして彼女は私の気持ちを考えた事があるのだろうか。

 それとも考えた上であえてこのように接してくるのか。

 もしそうなのだとしたら私はどうすれば良いのか。


 私はまるで押し付けられるかのように初めて人の裏側を考えなければならなくなった。




 優子と加奈子は

「だから言ったじゃんヤバいって。」

「誰も言わないけどヤバいと思ってる子多いと思うよ。」

と言っていた。




 実はこの頃には真田君ファンからの嫌がらせが完全に途絶えていたのだが、私は全く違う種類の恐怖に滅入っていて気付いていない。




 美喜は流行りに敏感でお洒落で明るい美人女子だ。

 一年生の時は男子の間にファンクラブがあった程だ。

 これまでは、これ程までの女子に言い寄られたら真田君も悪い気がしないのだろうかと考えてしまっていたが、回転の悪い思考力が珍しく何か違和感を感じた。






 そして事件が起きた。


 私が美喜から逃げる事に全力を注いでいたある日の放課後、担当場所の掃除を終えて優子と教室に戻った時だった。


 大人チーム番長の加奈子とバスケ女子部の主将が美喜に

「美喜は何をしたいんだ?」

「何を考えている?」

と詰め寄っていたのだ。


 少し離れた席で久美ちゃんがハンカチで目を押さえている。

 泣いているのか。






 この詰め寄り事件で私は様々な事実を知る。

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