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厳しい試練

 卒業アルバムの写真撮影用に久しぶりにバレーボールのユニフォームに袖を通した。


 三年生のみで写す部が多い中、私達の部は二年生も共に写る事となった。

 彼女達の中に当時のレギュラーが数人いた事もあるが、私達は一年生から三年生まで皆仲が良く、幸が

「記念だから一緒に写っちゃおう。」

と声をかける事で実現したのだ。

 本来なら一年生とも共に写りたかったのだが、人数が多過ぎるという事で叶わなかった。


 何枚か撮影したのだが、途中で監督が私達の背後の窓に向かって

「こら!お前達は向こうへ行きなさい!」

と声を発したので、私達の撮影に写り込もうとした人達がいたようだった。


 私達は笑った。


 そのお陰か皆良い顔で写る事ができたように思う。


 その後私達はその場で正式に引退挨拶をした。

 このタイミングはバレー女子部の伝統なのだ。

 監督の

「たまに指導手伝いに来いよ。」

という言葉と、後輩達の

「このまま卒業は寂しいです!」

という声に後押しされ、それからも私と幸は稀にではあるが部活動の様子を見に行った。






 この時期に私と真田君は一度険悪ムードになる。

 原因を特定できなかったのだが些細な事だと思う。


 以前までならどうにか嫌われないようにと顔色を伺っていたのだろうが、主将のブレザーに包まれながら私は少しずつ変わっていった。

 この頃になりようやく愚痴をこぼし始めた事を幸はよく覚えていた。




 何故これ程詳細に私が思い出せるのかというと、幸のタイムカプセルならぬタイムボックスのお陰なのだ。

 幸は私がこれまで授業中に書いていた、おしゃべりだけでは消化しきれなかった近況報告や思いなどの詰まった手紙を、大人になってもずっと大切に保管してくれていたのだ。

 毎日のように書かれた手紙は膨大な数で、それはまるで私の日記のようだった。

 確かに私は思考力が弱いので、その場で言葉にするのには回転が足りない事が多く、大事な事や大事な思いは手紙に書いていたのだ。




 というわけで、その手紙にも残らないような些細な理由で、私達は初めて喧嘩状態になった。


 彼は無口だが意外に短気で頑固なところがある。

 その上こうなると中々自分から話しかけられないという弱点もある。

 今回は私も着火してしまう事で仲直りをするにはかなりの時間を要した。




 そしてこの期間の出来事も致命的な間違いの一つとなる。






 一緒に過ごす事もなければ廊下で話す事もなく、お互い露骨に無視を決め込んでいた。

 幸も秋世も優子も心配してくれていた。

 加奈子は入学当初から付き合っている彼氏がいる熟年夫婦チームで

「喧嘩くらいで駄目になるようならそれまでだよ。

 でも育達は大丈夫でしょ。」

と言っていた。


 いつものようにお互いが避けている様子に気付いた美喜が

「喧嘩してるの?」

と声をかけてきた。

 私は

「まあ。ちょっとね。」

とばつが悪い感じで答えた。

 美喜はその時

「ふうううん。私が仲直り取り持とうか?」

と言ってきたので、私は気持ちはありがたいけどこれは私達の問題だからと断った。






 数日後私は衝撃的な話しを一つ聞いた。

 真田君が真田君ファンの人達とフットサルチームで交流を始めたのだ。


 正確にはサッカー部の主将だった田中君が彼女とチームを作り、そこにサッカー部が数人混じったという形だった。

 田中君の彼女は私に嫌がらせをしてきた田中君ファンと真田君ファンの女子と仲が良いので、そのチームの女子は自然とそういう面子にはなる。


 そこで初めて知ったのが、美喜がそのグループにいたという事だ。

 どうやらそのグループには美喜と一年生時にクラスが一緒だった人が多くいたらしい。




 かなり後に聞いたのだが、このあたりから真田君は私に尖ってはいなかった。

 彼も彼なりの考えと思いがあったのだ。




 しかしそれを知らない私はかなり動揺した。

 これがまさに無口な彼と思考力が弱く言葉にする事が苦手な二人が生み出した負の連鎖である。




 この事件前後あたりから優子と加奈子は

「正直美喜は何考えているのか分からないよね。あいつヤバいかもよ。」

と言っていた。


 私はおめでたすぎるのと、悪口が嫌いなのと、人の気持ちの裏を考えるのが不得手だったため、その発言に対して深く考えなかった。

 しかしこのトライアングルアタックは情けないことに私自身を敵にまわし、私を苦しめるのだ。




 私達は夏が終わり、お互いに少しずつ近寄ったが、私は彼が友達と遊ぶのを束縛するような事はしたくなかった。

 何しろ私が辛い時に支えてくれたのは友達であり、世の中は私達二人で構成されている訳ではないのだ。


 だから今回の出来事も私の中では筋が通っていて、そこをつつくのは私の意思に反するところがある。


 しかし私も流石に不快感は感じていた。

 私に嫌がらせをしていた女子達と楽しんでいるなんて。


 その時に加奈子の

「付き合っているからこそ不安だけど、信じる事ができるのも彼女の特権だ。」

という言葉を思い出し、私は信じる道を貫く事に決めた。

 こうして私は文系組女子の地味な嫌がらせと戦いながら、真田君がこちらを見て笑う日がくる事を信じて待つ事にした。


 今にして思うとそこまで我慢せずにさっさと自分から折れて謝れという話である。

 思考力が弱い女子は本当に間違いが多い。






 ある日久しぶりに廊下で大谷君に会った。

 すると大谷君がクラスの女子が話していたと、最大級に衝撃的な事を口にした。


 その話の内容に私はかなりショックを受け、正直なところトラウマが蘇った。

 いや今後を考えるとある意味こちらの方が酷く、流石に無回転思考力も危機を感じた。




 しかし私は文化祭の前夜祭以後、真田君に別れ話をされた記憶が無い。

 あくまで噂でしかない可能性が高い。




 悩んだ結果私は美喜に直接聞く事にした。


 こんな事口にもしたくない。

 しかし真田君とは拗れたままだし、万が一真田君が肯定したら私はきっと崩れてしまう。






「美喜って真田君と付き合う事になったの?」


 美喜はそれを聞き、私を見て笑顔で


「えー!何で知ってるのー?」


と答えた。




 私は戦慄した。






 信じると決めた私だが試練としては厳しすぎではないかと思った。

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