ブレザー
時間が止まった。
私の思考力も止まった。
私が知るのはかなり後になるのだが、彼は本当に冴子ちゃんを助けたかったのだ。
冴子ちゃんは私が考える事とは違う次元の内容で救いが必要だった。
幸はそれを「ふいた」と言ったが、私はちゃんと理解する日がくる。
しかし真田君はそれ以上言葉を繋げずに黙って俯いている。
しばらく時が過ぎてから私は聞いた。
「冴子ちゃんはどうしているの。」
「あいつは納得してくれた。」
真田君は答えた。
少しずつ私のエンスト中だった思考力が回転をはじめた。
最初に浮かんだ思いは「なんて勝手な事を言っているんだろう。」というものだった。
私は皆にたくさん支えられてようやく前へ進もうと考えられるようになったのだ。
あの文化祭の前夜祭に訳が分からないまま突然別れを告げられた瞬間を思い出し、真田君へ言いたい事が脳内に山のように吹き出した。
何気なく横を見た時に、まだクローゼットに片付けていなかった主将のブレザーが目に入った。
私は少し震えながら、とりあえず乾いた喉を少し潤そうとストローを口にした。
先程持ってきたはずのグラスは、まるで先程までの私のように汗をかいていた。
ストローを吸ったのだが口の中にはほんの僅かしか液体が流れてこなかった。
「私も色々あってね。」
「うん。」
彼は顔をあげ、私が話す事を私から目をそらさずに聞いた。
「私両膝を壊しちゃって幸やみんなに迷惑かけちゃってね。」
「うん。」
「文系組の女子から嫌がらせされてね。」
「うん。」
「そんな時真田君が冴子ちゃんといなくなっちゃってね。」
「うん。」
そこまで言うと声が出なくなってしまった。
私はこれまで愚痴や弱音をあまり話さない事で、自分が考えている以上にストレスとして溜め込んでいたようだ。
もっともっと文句とか言いたい事があるのに、喉が焼けたようにつまる。
唇どころか顎までがくがく震える。
私はそんな自分の顔を真田君に見せたくなかった。
彼の顔から目を離し下を向いた。
すると涙が下にポタポタ落ちた。
一度涙が落ちてしまうと制御は難しい。
それでも堪えようとすると体が震えて顔が赤くなってきたのが分かる。
「っく。」
息をするのも難しく思わず変な声がもれた。
もう止まらなかった。
顔を両手の平で抑えて
「うううっ。」
と声を出して私は泣きだしてしまった。
色気もへったくれもなかったと思う。
嬉しいのか悔しいのか悲しいのか怒っているのか自分でも分からない。
もしかしたら全部かもしれない。
「そっちに行って良いですか。」
と聞かれ、私は下を向いて顔を覆い体を震わせ変な声を出しながら頷いた。
真田君は私の隣にきて座った。
私は同じ体勢のまま変な声を出しながら震えていた。
「抱き締めても良いですか。」
と聞かれ、私は同じように頷いた。
彼は座ったまま私を横から抱き締めた。
その瞬間私は
「わああああ」
という声が出た。
「わあああああん」
「うわあああん」
私は大きな大きな声で泣いた。
そうだ私本当はずっと泣きたかったんだ。
「ごめんな。本当にごめんな。」
彼は私を強く抱き締めながら何度も何度も何度も謝った。
「うわあああ」
「うわああああん」
真田君
みんな私を助けてくれたよ
凄く嬉しかったよ
でも
私やっぱり辛かったよ
苦しかったよ
悲しかったよ
泣きたかったよ
私やっぱりあなたの事好きなんだよ
「うああああ」
「うわあああん」
主将のブレザーに見守られながら私は泣き続けた。




