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夏祭り

 私は夏休みに入ってようやく少しだけ真田君と冴子ちゃんの事を考えた。


 冴子ちゃんは私よりずっと良い女だ。

 中身も落ち着いていて大人でお洒落で視野が広い。

 どう考えてもダブルスコアで私の負けである。




 ふと山崎君を思い出した。


 終業式日の下校時に玄関を出た私は真田君と冴子ちゃんに出くわした。

 二人とも誰とも目を合わさず何も言わず、少し時間差で自転車置き場へ向かった。

 私はぼんやりその後ろ姿を見ていた。


 すると少し離れた所で私と同じように見ていた山崎君が私の隣にきて

「参ったな。」

と言って寂しそうに笑った。


 私は何も言わなかった。




 山崎君は真田君と同じ中学出身で同じ部活動にいた仲間だった。

 私も冴子ちゃんとは友達で、真田君と付き合う後押しをしてくれた人だった。


 私は冴子ちゃんと友達でいられるのか?

 真田君を忘れられない私はきっと冴子ちゃんに嫉妬をしてしまうだろう。

 実は少し裏切られたという気持ちがあるのも否めない。

 やはり友達でいるのは難しい。




 真田君と冴子ちゃんは、お互いをお互いの友達以上に大切に思ったんだろうか。

 二人の結び付きは強いのだろうか。




 終業式前に幸が言った。

「育が来るとすぐわかる。

 真田君が辛そうな顔をするんだよ。」


「私は育の親友で真田君の友人だ。

 なるべく二人共贔屓目なく接したい。

 そんな私が思うに、多分真田君は育を忘れていないよ。

 まだいっぱい考えているよ。」

そして

「真田君は育の方が似合う。

 冴子さんに吹き込まれて真田君は動いちゃったんだろうけど、いい加減気づいて欲しいよなあ。」

と言った。


 真田君が何を思うか、何を吹き込まれたかは分からないが現実は変わらない。

 真田君は冴子ちゃんを選んだのだ。


 私はいつか真田君の事を忘れられるのだろうか。

 初めて好きになってずっと真田君しか見てこなかった。

 忘れるなんて全く想像ができなかった。

 この先忘れられるまで二人の姿を見ては苦しむのだろうか。




 真田君を好きな子もきっと苦しんだのだろうと思うと、不思議と私は数々の嫌がらせに怒りがわかなかった。






 夏休みだが私に悲しみに浸る間はあまりなかった。


 秋世と宮本から毎日朝早くから連絡がきて、遊びに行っていたのだ。

 秋世の家に行ったり宮本の家に行ったり私の家にきたり、海で遊んだりカラオケに行ったり。


 あまり受験勉強に追われていない大谷君や優子や、秋世と宮本の他の友達もたまに合流した。


 思えば私が悲しまないように秋世と宮本が気を使ってくれていたように思う。

 二人に聞くと

「楽しいから遊ぶんだよ。」

と笑って言っていた。




 私達は疲れると三人川の字になって昼寝をするほどに仲が良くなった。




 おかげで私は夏休み中にたくさん笑った。

 今まで高校では見せた事がない位に笑っていた。





 他にもちょっとした出来事があった。


 真田君の妹から電話がきたのだ。

「どうしても育先輩と焼き肉食べに行きたい。」

 と言われ、流石に断ったのだが拝み倒されて行く事にした。


 お店につくと真田君のお母さんがいた。

 私は驚いたのだが

「最近来ないからどうしているのか気になったのよ。」

と優しい笑顔を見せていた。


 私はもうお別れしてしまった事を話した。


 するとお母さんは

「通りで違う子がきてたのね。」

と言ってしばらく考えてから

「今日の焼き肉は、あの子の小遣いから引いておくわ。」

と言い、それを聞いた妹は大笑いしていた。


 真田君のお母さんは最後に

「私達は今こうしてお話しする仲になったのだから、息子の事は関係なく家に遊びにいらっしゃい。」

と微笑んでくれた。


 もちろん行けるわけが無いのだが、私は嬉しかった。






 夏休みのある日

「今年の街でやる夏祭りはみんなで行こうよ。」

と秋世が提案した。


「良いね。浴衣とか着ようよ。」

と優子が言った。


 私はその夏祭りに行った事が無かった。

 このあたりでは一番大きな夏祭りで、凄く大勢の人が集まるとは聞いていたのだが、部活動にばかり向いていて興味を持たなかったのだ。


 大谷君や宮本の友達も一緒に行こうという事で、かなりの大所帯になった。




 いざ夜に集合してみると15人程になっていた。


 女子は浴衣を着て屋台を覗きながら歩き、男子は山車や囃子の列に飛び入りで交じったりなど賑やかだった。

 歩き慣れないのと、祭りの活気と人の多さに少し目眩がした。


 手を繋いでいないとはぐれそうなほどの人の波だった。

 私は優子と手を繋いだ。

 秋世が踊り手の列に宮本と混じり、大谷君に肩車をされて口笛や歓声を浴びているのを見て笑った。

「浴衣の下には短パンをはいた方が良いよ。」

と言っていたのはこれだったのだと思った。

 もみくちゃにされながら秋世が帰ってきて、私達はまた笑った。




 その時


「あれ真田じゃん。」

 と誰かが言った。


 振り返ると真田君が冴子ちゃんと二人でいて、私達と行動を共にしていた男子の1人が声をかけていた。




 私は心臓がドクンと跳ね、見えないように隠れた。

 見たくない気持ちの方が大きかったかもしれない。




「真田も一緒しようぜ。

 人数多い方楽しいじゃん。」

 誰かがそう声をかけていた。


 優子がそれを見て、私を握る手に力をこめた。


 そして秋世が言った。

「あんたは何も悪い事してないんだからいつものように堂々としてな。

 私達の大事な友達としてここにいるんだから。」

優子も私の手を握り直して、私の目を見て頷いた。


 私は不安だったが、二人に支えられてなんとか気を落ち着けようとした。




 こうして大所帯は膨らみ、祭りと屋台を見ながら歩いていた。


 私は前の方を優子と手を繋ぎながら、真田君は後ろの方を冴子ちゃんと歩いていた。


 秋世と宮本と大谷君は私達の近くの踊り手の横で、知らない人達とはしゃいでいた。


 その様子を見ていると私は段々楽しい気持ちが戻ってきた。

 優子が私の手をしっかりと握って大笑いし、私もそれにつられて笑い始めた。






 その時後ろを歩いていた知らないおじさんが、凄い勢いで私に体当たりをしてきて私は前に倒れた。


 周辺は人でごった返していて、そのままドミノのように私は複数の人達の下敷きになってしまった。

 頭の方にも人が倒れ込み、胸の圧迫と頭の圧迫で真っ暗な視界の中気が遠くなっていった。






 優子が悲鳴に近い声で私の名前を叫んでいた。

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