高校3年生 夏
何故悪い事は重なるものなのか。
ただでさえ真田君ファンから暴言を吐かれたりしてきたのだが、新たな問題が発生した。
どこからか私が田中君に告白されたという情報が乱舞し、真田君ファンのみならず田中君ファンからも嫌がらせを受けるようになった。
サッカー部はファンが多いようだ。
真田君は冴子ちゃんと付き合い、田中君の事を好きなわけではない私は面食らった。
文化祭どころではなかった。
夜中に「死ね」と一声聞かされ直ぐに切れるいたずら電話を何度もされたり、通りすがりの人に睨まれながら
「まじ殴りてー。」
と突然言われた時には高校が物騒過ぎて驚いた。
他にも数々の嫌がらせがあった。
一番辛かったのは、私が秋世やクラスメイトや幸の悪口を言い歩いているという噂を流された事だった。
全くそんな事実は無いのだが、流された方はたまらない。
全て文系組女子からの猛攻撃だった事を幸から聞いて知った。
幸い理系組の女子は私の事を信用してくれている女子がいたため、クラスでも
「噂とか気にすんなって!」
と声をかけてもらえた。
だが、
「噂きいた?どう思う?」
「育が言うわけないじゃん。」
「そうなのかな。」
という会話を運悪く女子トイレの個室で聞いた事があるため、どれ程の人が私を本当に信じてくれたのかは正直分からない。
幸は怒っていた。
幸は文系組の田中君ファンに囲まれ
「あんた悪口言われてるのにあの女と友達なの。」
と言われたようだ。
そして
「あいつ田中君に告白されて調子に乗ってみんなに言い回ってるって聞いだけど、あんたはあの女から何て聞いたの?」
と聞かれたらしい。
幸は
「噂とか集団で調子に乗る女とかだいっきらいだ!
私は育を信じるに決まってるだろ!」
と言っていた。
実は私はたった一人にしか田中君の事を話していない。
真田君の件でそれどころではなかったのだ。
誰かに聞かれるような場所で話してもいない。
幸にすらも話していない。
色んな方面に焚き付けた人間がいて後に発覚するのだが、思考力無しでおめでたい私はまだ気付いていない。
私はもう大分疲れていた。
この一連の出来事が、真田君と冴子ちゃんの事件と同時に起きたのだ。
我ながら当時の自分をよく頑張ったと褒めてあげたい程に大変だった。
何が起きたのか何を信じれば良いのか。
ある日のお昼過ぎ、私は午後の授業に出たくなくなり玄関へ向かっていた。
そこへ秋世がやってきて
「なに。さぼり?」
と声をかけてきた。
私は
「秋世もさぼろう。」
と力なく笑った。
すると秋世は
「オッケーちょっと待ってな。」
と言って荷物を取ってきた。
私は秋世に促され、学校からそれ程離れていない所にある高台へ登った。
高台には何も無かった。
見下ろすと下には住宅地と奥に高校が見える。
初めての風景と、風が何にも邪魔されずに吹いているこの場所の空気に、重かった気分が少し軽くなった。
秋世は
「良い場所でしょう。」
「高校に入ってからは来てなかったんだけど、私小学校中学校の頃色々あってね。
そんな時よくきたんだよ。」
そして私の方を見て
「私の辛い事を、ここの風と宮本が分かち合ってくれたんだよ。
育には辛い事や悲しい事分かち合う場所がある?」
と聞いてきてから
「まあ噂ばらまかれると信用できる人が分からなくなるんだけどね。」
と笑った。
秋世は続けて
「育は自分が思っているより好かれているから安心しなよ。
私も幸もいるしさ。
私達は育のそういうの分かち合える人達なんだから、無理せず弱音吐きなよ。」
と言ってくれた。
私が原因で多くの友人やクラスメイトに不快な思いをさせている事には違いなく、だから私は誰かに弱音を吐いたり泣きついたりはしていなかった。
私はここでの秋世の言葉に大分救われた。
私は思考力が弱いのでうまく言葉に表現できないのだが、多分久々に良い顔をしたのではないかと思う。
その後秋世の家へいくと、二階の秋世の部屋の窓に宮本がしがみついていて驚いた。
「だってお前さぼりって聞いたから、何して遊んでるかと思って。」
と言っていた。
その日の夜に優子から電話がきた。
意外に元気な私の声を聞いて
「良かった。」
と言っていた。
「育が私を信じられるか分からないけど、私は育を好きだという事は伝えておこうと思ってね。」
と言ってくれた。
こうして私は、秋世と宮本と、学校では優子と幸と一緒にいる事が多くなる。
夏休み直前にこの出来事は意外な解決の道を見る。
私はある事ない事で相当数の文系組女子の敵として認識されたのだが、この女子達も数が増えると噂の仕方が大胆になったようだ。
ある日私の教室に文系組の大谷君が来て大きな声で私に聞いてきた。
「うちのクラスの女子がお前の事ぐちぐち言っててうるさいんだけど!
お前はそんな事をされるほど何かしたのか!?」
私は圧倒されたが
「してないよ。」
とだけ答えた。
大谷君は
「よしわかった!」
と言っていなくなった。
その日の昼休みに秋世が走って私の元に来た。
「あんた大谷になんか話した!?
大谷がしでかしたみたいでさ!
こういうの私も経験あるけど、男子絡むとこじれるよ。」
秋世は心配していた。
私は大谷君との会話が、話したとか話していないとかの次元の問題なのかが分からず、何が起きたのかも分からずただ困惑していた。
しかし秋世の心配とは裏腹に事態は違う方向へ進む。
私のクラスから去った後に、大谷君はクラスの女子に大きな声で
「でけえ声で悪口言ってんじゃねえぞ気分悪い!
しかも育実何もしてねーじゃん!
お前らクソだな!」
と言ったらしい。
すると友達が多い大谷君の取り巻きが
「でけえ声で悪口とかほんと気分悪いわー。」
「こいつら見てて気持ち悪いよな。」
と口々に言い出した。
他のクラスから友人がきていた宮本も
「俺もそういう奴嫌いだわ。」
と言う事でその友達も
「マジ最悪だよな。
うちのクラスの女子も最近かなり気持ち悪いんだよな。」
など言ったのだとか。
大谷君は男子から人望があり宮本は女子から人気がある。
この二人の反応がきっかけで私に嫌がらせをしていた文系組女子チームは解体される事になったらしい。
田中君ファン真田君ファンと口にしてはいても、他に本命がいたり「付き合い」で乗っかった女子が多かったのだ。
だから本命との成就や今後の学校生活を考えると、大谷君や男子の皆と険悪になるのは得策ではないと考えたらしい。
ついでに何故か私には大谷君に太いパイプがあるとかなんとかで敵にするべきではないと言う人もいたとか。
秋世は笑った。
「こういう解決の仕方は中学じゃ無理だったろうなあ。」
こうして私への嫌がらせは激減する。
夏休み直前はあまりに目まぐるしく、休まる瞬間が少しもなかった。
私はあれからまだ一度も泣いていない。




