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前夜祭

 膝を壊したからとチームメイトに苦労をかけてばかりではいられない。


 私は監督からサーブのコーチを任された。


 一年生二年生の今後のためにも私は一生懸命指導をした。

 サーブの成功率とパワーは自主的に頑張ってもらい、打ち分け方や変化のかけ方を丁寧に教えた。

 今回の大会だけではなく、それこそ私達が去った後、彼女達の力になれば良いと考えたのだ。

 私達との部活動も残り少ないと知る彼女達は、一生懸命吸収しようとしてくれたので、良いサーブを打てる選手がかなり増えた。


 これがどれ程影響したかは分からないが、後の現二年生は最後の大会でベスト8入りし、現一年生が決勝まで進んだ時には、私は大喜びをしてこの時の彼女達を思い出した。


 高校の記憶を閉じた私が残した数少ない記憶の一つだ。






 今年の夏の高校総体県大会の会場は地元だった。


 開催地の生徒は開会式と閉会式に参加するのだが、スケジュール的に屋外競技は閉会式後も続く見通しとなり、室内での競技選手が閉会式の方へ参加する事になった。




 私達はベスト8を狙ったが、今年度優勝校に敵わず敗退した。


 皆頑張ったが、やはり強豪校は強かった。

 パワーはそれほどではなかったが、高さを活かしたテクニックとミスの少なさに脱帽した。

 私の怪我の有無以前に、実力差が開き過ぎていて仕方のない結果だった。


 私達三年生より二年生の方が泣いていた。

 その姿を見て、この苦境の中でも私達ともっとプレーをしたいと、諦めずに頑張ってくれていた事に改めて感謝した。




 幸はその場で次の主将を指名した。


 現在ライトとしてレギュラーを担っている二年生が次の主将になった。

 彼女は気が強いが真面目で責任感のある子だった。

 負けん気の強い子が多い二年生以下を纏めるにはこの子が良いだろうと、私達三年生が満場一致で決めていた。

 彼女は赤かったがしっかりとした力強い目で

「頑張ります。」

と言った。




 惜敗した昨年とは違い、三年生達の顔は皆晴れやかだった。




 閉会式場では懐かしい中学時代の友達やチームメイトを見かけた。


 中学の卒業式前に元気が無くなってしまっていた彼女は、ハンドボールの優勝旗を手にその高校の先頭に並んでいた。


 隣に並んだのはバレーボール女子順優勝の高校で、中学時代のチームメイトが数人いた。

「インハイいきたかったわー。」

と笑いながら話してくれたが目が潤んでいた。


 多くの学校の生徒が集まって、かなりの人数がすし詰めに並んだ。


 当然だが優勝旗を手にしていない高校の方が多く、私達も含めここにいる多くの人達の高校生活の部活動がこの瞬間に終わるのだと思うと、感慨深いものがあった。






 学校へ帰ると様々な部活動の人達がいて、私達三年生は結果を報告し合った。


 中には決勝まで進んだ部活動もあり、泣き笑いしながら報告をしてくれた人もいた。


 私達は最後に皆

「おつかれ!」

とハイタッチをした。




 結局インターハイ出場を決めた部活動は一つだけだった。




 こうして野球部とサッカー部とインターハイを決めたテニス部以外の私達三年生の高校生活の部活動は、幕を閉じた。




 私は膝を庇う事で腰を痛め、これも後々に響くのだが、この時は

「よく最後までもってくれた。」

と安堵した事を覚えている。






 高校総体が終わると数日も待たずに文化祭が始まる。


 どうやら野球部とサッカー部は今年も難しいようだった。

 それでもこれまで頑張って来たのだから、真田君が一日も長くサッカーを続けられると良いなと思い、心から応援していた。




 私達は文化祭の準備に勤しんでいた。

 運動部に所属している人以外で大分進めてくれていたので、私達は彼らから指示を受けながら作業をしていた。

 クラスの皆と笑いながら机や暗幕を運んだり、看板を作っていた。

 楽しいクラスメイトばかりで、私は久々に心の底から笑っていた。




 そこにサッカー部主将の田中君が来た。


 今日の試合を勝ってベスト8に残ったと報告を受け、皆は喜んだ。




 そのすぐ後

「育実さんちょっときて。」

と田中君に呼ばれ、少し皆と離れた。


 私は真田君に何かがあったのかと緊張が走った。


 しかし田中君の言葉は全く違う衝撃を私に与えた。




「好きです。付き合って下さい。」




 私は正直な所、この人は何を言っているのだろうかよく分からなかった。




「え。あの。私真田君と付き合ってて。」



 と言うと田中君はさらに衝撃の言葉を口にした。




「だってあいつ、冴子と付き合うよ。」






 私は時間が止まった。

 何を先程からこの人は言っているのだろう。


「何だか良く分からないけど、私真田君の事が好きだからごめん。」


 動揺のあまりこれだけしか言えなかったが、思考力が弱い割には的を射た返事をした。

 どういう状況であってもこれは変わらないのだ。




「分かった。」

と彼は言っていなくなった。






 私の様子がおかしい事に気付いた美喜が私の元へやって来た。

 私はかなり動揺しながら一部始終を話した。


「まさかそんな事あるわけないじゃん。」

と美喜は言ってくれた。






 しかし、悪夢は現実となる。






 前夜祭終了後、真田君と冴子ちゃんが二人で私の元に来た。




「冴子と付き合うから別れて欲しい。ごめん。」

真田君に言われた。


 冴子ちゃんも

「ごめん。」

と言っていた。






「分かった。」

 私はそれ以上二人の前で言葉が出なかった。




「じゃあみんな待ってるから。」


私は踵を返してクラスの皆が花火をしている所へ帰った。


 私は振り返らなかった。


 だから二人がどのタイミングでいなくなったのかも分からなかった。


 クラスの人に知られたらせっかくの前夜祭が台無しなので、私は笑いながら優子と美喜の元へ駆けて行った。




 優子が

「酷い話だわ。」

と呟いて私の肩を抱いた。


 私は足元がふらふらしていた。


 涙は出なかった。


 何が悲しく、何がショックで、何が起きたのか全く分からなかった。


 皆の笑い声や花火の明かりを見つめていたが、なぜか遠くに感じた。




 突然自分の中のたくさんのものを抜き取られたような感じだった。




 優子の腕の温もりしか感じなかった。




 サッカー部の今年の夏はベスト4で終わったらしい。






 まだまだ高校三年生の夏は終わらない。

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