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高校3年生 春

 また風が雪融け後のアスファルトと土の香りを運ぶ季節が来た。

 私達は高校三年生になった。


 三年生になって変わった事といえば、運動部を退部する人達が出てきた。

 全ての人に当てはまる訳ではないが、受験対策が始まったのだ。

 レギュラーになれない、もしくはユニフォームを着られる可能性が低いと考えた人達が部活動に見切りをつけたようだ。


 確かに運動部に所属しているとその点では時間の消費が激しい。

 しかし残る者は、できる事なら皆最後まで共に過ごしたいのが本音だった。


 サッカー部も山崎君をはじめ数人が退部した。


 声をかけそびれたのだが、部活動へ向かう際に何度か冴子ちゃんを見かけ、凄く寂しげな表情に見えて気になった。




 クラスにも変化があった。


 半分位のクラスメイトが既に本命の進学先を定め、休み時間も参考書を広げる人が増えてきた。

 私達の人生の選択肢がここで決まるのだから、皆不安を抱えていたと思う。




 私や幸や秋世は進路は違えど推薦組なので悠長にしていた。

 成績がとても良い優子も絶対的な安全圏を確保していたため、割と平和そうに過ごしていた。


 美喜が

「育がそこにいくなら私も行こうかなー。」

と進路を決めた事には驚いた。

 人それぞれなので特に反対もしなかった。

 それに進学先に友人と共に進めるのなら嬉しいと思ったのだ。




 このあたりからまた部活動が忙しくなるのだが、三年生の他の部活動同士の交流が増えた。

 よく部活動が休みの日にサッカー部主将の田中君の家やラグビー部主将の大谷君の家に、大勢で入れかわりたちかわりで集まり、部活動の事や下らない話をするようになった。


 人数はかなりのものだったと思う。

 夏の総体のあたりになると、他校の様々な部活動の選手も来ていたようだ。


 私と幸も真田君と幸の彼氏に連れられ、その集会のようなものに参加した事がある。


 学生運動とまで熱いものではないが、それは仲間が去る中部活動を続けている人達に活力を与えたと思う。


 またその中からカップルもいくつかできたりなど、話題にも事欠かなかった。




 こうして私達は勉強をそこそこに、部活動と学校生活と放課後を楽しんだ。




 私と真田君は春からまた一緒に帰るようになった。

 夏の大会が近付くとまた話す事が難しくなるのだが、それまでの間は時間が合う限り一緒に帰ろうと決めたのだ。


 真田君の口数は相変わらずだったのだが、一緒にいられる時間が大切だった。




 実は三年生になってから、真田君のファンが少し過激さを増し、通り過ぎ様に

「ブス」

などの言葉を私に言うようになっていた。


 相変わらず真田君には話さなかった。


 だから私は安心が欲しかった。






 春の大会が終わると、案の定私達は接する機会がかなり減った。

 そして昨年のように、また私の一方通行日記の手紙がはじまった。




 私の部活動の方も春の大会以降は怒涛だった。


 ついに私は膝を壊した。

 両膝の靭帯が伸びてしまったのだ。

 女子部の監督も男子部の監督も、様々な治療をする病院を紹介してくれたり連れて行ってくれたのだが、良い効果は得られなかった。


 もう今までのようには飛べなくなってしまった。

 おかげでチームの攻撃スタイルも変えなければならなくなった。


 私をレフトに残したまま、ライトとセンターをエースとした。

 エースでなければ飛ぶ回数は減る。

 それはチームメイトの申し出だった。


 全く飛べない訳では無いのだから、私の経験とサーブとレシーブの安定性を活かすべきという事だった。


 しかしこれにより、これまで対角エースだった子がセンターになる事でバックアタックの成功率を格段に上げなければならなく、これまであまりトスが集まらないライトの子が奮起しなければならなくなった。


 もちろん攻撃のスタイルが変わるとセッターの幸にも負担がかかる。


 恐らくこの件で一番頑張ったのは幸だと思う。


 大変不本意だが、本来私はスタメンを外れてピンチサーバーあたりが妥当なはずだった。

 そんな事を考えている時期に、幸が監督と喧嘩をしている姿を見た。


「チームの事が考えられないならキャプテンやめちまえ!」

と叫ばれたのに対し

「考えています!やめません!」

と叫び返していた。


 部活動の事はとかく何でも私に話してくれる幸が、この件だけは話さなかった。


 普通なら大会直前のこの時期にこれ程までに攻撃スタイルを変更する策はとらない。

 だから幸と監督の喧嘩の内容は想像がついた。


 私は心からありがたく思い、そして心から情けなく申し訳なく思った。

 初めて部室で一人で泣いた。

 私は膝が砕けても皆の気持ちに応えようと思った。




 私の一方通行日記にこの内容は書かれていなかった。

 お互い大変なのだから、気を煩わせるのは良くないと思ったのだ。




 私は主将の言葉をすっかり忘れている事に気付いていない。






 夏も近付いたある日、どうやら参加ができそうな今年の文化祭の準備を昼休みにしていた所に冴子ちゃんが来た。


 冴子ちゃんはあの辛そうな悲しそうな表情だった。


「最近どう?」

と聞かれたので、怪我をした事と、真田君に会えていない事と、最近暴言を吐かれる事を話した。


 テンションはあえて高く話した。

 明るく私も苦労していると話す事で、冴子ちゃんが辛そうにしている原因を私に話しやすくなるだろうかと考えたのだ。


 しかし冴子ちゃんの表情は一点を見つめて悲しそうなままだった。


 暫くして


「冴子ちゃん?」

 と私が声をかけると彼女は立ち上がって


「みんな大変なんだな。」

と言い残し立ち去ってしまった。




 私は間違えたのかもしれないと思った。

 私が苦労を話す事で冴子ちゃんは逆に話せなくなったのだろうか。

 山崎君と何かがあったのだろうか。

 それとも冴子ちゃんも私のように暴言を吐かれたり嫌がらせをされたりしているのだろうか。




 元々思考力は無いが、この時の私は後に何が起こるか全く想像ができなかった。






 色々な事がありすぎる三年生の夏がやってくる。

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