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卒業生と在校生

 卒業式の数日前に、同じ部活動の女子先輩とラグビー部の男子先輩がいる所に出くわした。






 私と真田君が付き合う事になったバス停なのだが、本数は少ないものの私の家の近くまで行く便がある事が分かったのだ。

 それ以来真田君が外部の練習場へ行かない日は、一緒に学校を出てそのバス停で見送ってもらうようになった。


 いつもは人がいないバス停なのだが珍しくこの日は先客がいた形だった。

 外からは見えないため、バス停の小屋の中へ入るまで気付かなかった。




 女子先輩は泣いていて、男子先輩は女子先輩の肩を抱いていた。




「すみません!」


と言い私達は慌てて小屋を離れ、少し距離を置いた所でバスを待つ事にした。


 少し都合が悪くなり、楽しくお喋りできる雰囲気ではなくなった。




 その女子先輩は幸の前のバレー女子部の主将だった人で、私の中学でも主将をしていた人だ。

 主将はセッターとして選抜に入った事もある実力者で、凄くしっかり者で強く優しく、常に気丈にしている先輩だった。


 最後の大会後も引退挨拶の時も、三年生皆が泣いている中淡々と引き継ぎをして、最後は笑顔で私達にエールを贈ってくれた。


 だが引退挨拶の日、その後私達はすぐ練習に入ったが、誰もいなくなった部室で仲の良い三年生エースの女子先輩に肩を支えられて泣いていた事を私は知っている。


 だから私はこの人の涙はいつも本物なのだろうと思った。


 その先輩が泣いていたのだ。




 私は心臓を誰かに捕まれたような気分になった。


 主将は卒業後札幌の大学へ行く事が決まっている。




 うちの学校は曲がりなりに進学校だが、この地域は大学が少ない。

 だから7割ほどの生徒の進路は県外となる。

 一番多いのは仙台次いで東京、近隣の国立大、それが県外へ出る7割のほとんどだ。


 札幌へ行く人はとても少ない。


 ふとあの男子先輩はどこへ行くのだろう。


 そう思った。




 横を見ると真田君がじっと前を見ていた。

 考え事をしているようで、話しかけては悪いような雰囲気だった。


 元々無口な彼と何も喋らず隣にいる事には慣れていて、その瞬間もまた貴重な時間だったため、私は何も言わずに隣に立っていた。


 思考力が無い私はこういう間違いの元、進路の話をするチャンスを逃していくのだ。




 バスが来て私は乗り込んだのだが、本来帰り道が同じはずの主将はバスに乗らなかった。




 おめでたい私は、一年も待たずに私達も進路が確定される事をすっかり忘れている。

 自分の道を中学の頃から「幼稚園か保育園の先生になる」と決めていたからなのかもしれない。

 そのための地元の短大へ推薦で行くために、バレーボールの強豪高校ではなく、推薦枠の多い進学校を選んだのだ。

 理系を選択したのも、得意科目で内申を上げるためだった。




 私は真田君とこのような話をした事がなかった。

 今思うと、とにかく彼の笑顔が見たいとか、好かれたいとか、そのような思いばかりで大事な話をほとんどして来なかったように感じる。






 卒業式の日


 式が終わるとどの部活動参加者も卒業生の元へ行き、花束や色紙などを渡す。


 私達バレー女子部ももちろんたくさんの花束を持って先輩達の元へ行った。


 先輩達は皆笑っていた。


 一人一人に花束と色紙を渡すと

「頑張れよー。」

と言って抱きしめてくれた。


 写真を撮っている人達もたくさんいた。


 幸が三年生エースの女子先輩から練習着を引き継ぎもらっていた。

 幸はその女子先輩を凄く慕っていたので、感極まって涙していた。

 私は三年生エースの女子先輩と笑っていた。


 そこへ主将がきた。


「この間はごめんね。」

と主将は笑顔で私の隣に立った。

 今日は笑顔だ良かったと心から思った。


 するとおもむろに上着を脱ぎながら

「前から思ってたんだけど、育と私似てるところあるよね。」

と言った。


 思考力無しの私が

「中学同じですしね。」

と本気で答えると、主将は笑った。


 主将は

「もっと我が儘になった方が良いよ。」

と言って脱いだブレザーを私に差し出した。


 私はとても喜んでそのブレザーを受け取った。

 何しろ中学高校と長きに渡りお世話になった主将のものだ。




 主将は

「泣きたい時は目一杯泣きな。怒りたい時は目一杯怒りな。辛い時は辛いって言いな。

 忘れないようにそれを着て残り一年頑張りなさい。」

と言った。




 それから

「私はそれができなくて卒業直前に泣いたしね。」

 と笑った。




 こうして私の上着はこの日から主将のブレザーになり、幸の練習着は三年生エースの女子先輩が着ていたものになった。


 見渡すと同じように先輩から何かしらをもらっている姿があちらこちらに見られた。


 一年生の頃は三年生の元へ行くのは気後れし、卒業式後もこのような光景を見る事はなかった。

 恐らく今卒業する先輩達もこうして卒業生から何かを引き継ぎ、また私達へ引き継ごうとしているのだろう。


 廊下や教室に二年生と三年生が集まるこの光景もまたきっと伝統なのだろう。




 中には男子の学生服のボタンを貰いに来た人達もいた。


 冷やかしの声や笑い声で溢れていた。


 胡散臭い表現なのだが、三年生の廊下の空気はキラキラしていた。

 本当にキラキラしていた。


 ふと視界に私が最初に付き合ってすぐに別れた男子先輩が目に入った。

 男子先輩は卒業式前に県のバレーボール協会から表彰された。

 素晴らしいプレーヤーなので、バレーボールで大学推薦を得たらしい。

 彼に酷い事をした私は、彼の高校生活が素晴らしいものであったなら良いなと思った。






 卒業生達は花束や色紙やプレゼントなどを手に在校生に見送られ、学校を後にした。


 皆の前途が幸多きものになりますようにと心から思った。






 各々先輩達の思いや思い出を引き継ぎ、私は主将の言葉とブレザーを胸に三年生になる。

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