百獣の王が負けたらしい
オレは百獣の王、ライオンだ。
弱肉強食のこのサバンナにおいてオレに勝る者はいない。
しかし、あるときそんなオレに勝負挑んできたやつがいた。
そいつの名はニンゲンというらしい。
おろかなやつだ、爪も牙もない分際でこのオレに挑もうとは……
いいだろう、オレにとってはこいつもまた餌に過ぎないのだからな。
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オレは敗れた。
最強のはずのこのオレが。
人間たちが取り出した「ますいじゅう」なる筒によって。
オレは現在、「どうぶつえん」なる鋼鉄の檻の中にいる。
敗れたオレは、これまでオレがそうしてきたように、やつらの餌となるのだと思っていたのだが……
打倒した相手を殺さず、しかも餌まで与えようとは、俺には理解できない考えだ。
ここでの生活は非常に楽だ。
食事は決められた時間にやってくる。
だがしかし、解せんことが一つある。
このまえ、ニンゲンの子供が「あ、ライオンさんだ!」などと言いながら、オレのことを指さしてきたのだ。
馬鹿にされている!
これは百獣の王として、見過ごすわけにはいかん。
そう思ったオレは、威嚇の咆哮をあげた。
ふっ……懐かしい、サバンナにいたころは、ライバルのチーターや野蛮なハイエナ共もこれを聞けば逃げ出したものだ。
ましてや、ニンゲンの小娘など……
と、思ったが、なんとやつはオレの咆哮を聞いても、「わー、すっごーい!」などと言って怖がるどころか喜びはしゃぎおったのだ。
「分からん……ニンゲン、おそるべし!」
そして、オレは今日もやってくるであろうニンゲンの子供たちを、どう怖がらせるか考えるのである。