決意
『…う~ん こうじゃなくて、こうかな? おぉ!凄い高~い』
「う……」
あまりの五月蝿さに目を覚ました。白い天井が見える。病院かと思ったが違った。革製のソファに寝かされていたからだ。俺は五月蝿さの原因である少女を見る。ソファに寄り掛かるようにしてテーブルで何か遊んでいた。
「ゆっ、ちゃん?」
俺は居ても立ってもいられず、名前を呼んでいた。名前を呼ばれた少女はゆっくりと振り返る。振り返るのを待っている事が出来ず上体を起こす。少し視界が揺れるがそんな事は関係ない。
『あ、起きた? ひーくん』
振り返った少女はそう言って微笑んだ。もう戻れない昔に戻れたようで少し心地よかった。目の前に居る少女は間違えなく死んだゆっちゃんそのものだ。腰まである茶色の髪にぱっちりとした瞳。まだ幼さが残る顔はもし、ゆっちゃんが生きていたらこう成長するだろうと思って悲しくなった。
「…本当にゆっちゃん だよな?」
『え~?ユキ以外にどのユキが居るの ひーくん』
それにしてもまだ信じられない。死んだ筈の少女が目の前に現れたんだ。しかも成長した姿で。嬉しい反面、悲しさもある。幽霊になって現れるという事はこの世に未練があるという事。俺を呪う為に俺の前に現れたのかもしれない。
「…………その、ゆっちゃんは何で俺の所に?俺じゃなくても その 丸井の所でも良いだろ」
『ま~丸井?誰かな』
ゆっちゃんは本当に分からないのか首を傾げている。でも確かに昔はあだ名で呼びあってたから名字なんて知らないのも無理はない。
「…丸井はほら み、みかんだ よ」
そのあだ名で呼んだのは久しぶり過ぎて懐かしさを越えて恥ずかしくなる。でもこれでようやく分かったのか、あぁ!と声を挙げていた。
『あーちゃんかぁ! でもひーくん何で昔みたいに呼ばないの? そんなの悲しすぎるよ』
ゆっちゃんの言葉にどう返事したら良いのか分からない。ゆっちゃんが死んでから皆と遊ぶ機会が減って中学は皆、バラバラだった。それからいつしかあだ名でなく名字で呼びあうようになった。
「………皆、変わったんだ。お前が死んで もう俺らは昔みたいに仲良しじゃないんだ」
せっかくまたゆっちゃんに会えたのにこんな事言うなんて酷すぎるよな俺。ゆっちゃんが大好きだったあの関係を俺は守れなかった。悔しさで自分の太股を何度も叩く。こをんな痛み、ゆっちゃんに比べたらなんて事ない。
『ひーくん』
名前を呼ぶと同時に立ち上がるゆっちゃん。ゆっちゃんの瞳には涙が溜まっていた。
『…ユキ、分かったの。ユキが何で幽霊になってひーくんの前に現れたのか……それはね、皆を仲良しにさせる為なんだよ』
きっとこれは奇跡なんだ。ゆっちゃんと一緒なら不思議と出来そうな気がした。