佐伯 ユキ
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「え……どこだ、ここ」
これは夢だろう。そう思いながらも辺りを見回してみる。次第に霧が晴れ景色が見えるようになった。気が付けば外。しかも周りは沢山の墓がある事から墓地だと分かる。
「……あっ」
そして驚いた事に俺はゆっちゃんの墓の前に立っていたのだ。墓石にはくっきりと『佐伯 ユキ』と書かれていて墓の周りには白い花が沢山咲いていた。この花はユキが好きだった花だ。ゆっちゃんのお墓参りには何度か行った。だがその度にあの頃の後悔が襲い、倒れかけた事もあった。
「……ゆっちゃん」
夢だと分かっているが大好きなその幼馴染みの名前を言い出さずにはいられなかった。触れないかもしれないが墓に向かって手を伸ばしてみる。ひんやりとした冷たさが伝わる。こうしてみると夢とは思えない。
『…ひー君』
不意に俺を呼ぶ懐かしい声がした。この少し高く透き通るような声は……ゆっちゃんだ!
『ひー君』
次はハッキリと聞こえた。しかもその声は俺の真後ろから聞こえた。今すぐにでも振り返って謝りたい。でも体が言う事を聞かない。
『ひー君 こっち向いて』
更にゆっちゃんが言う。今にも消え入りそうな声で話し掛けてくる。このままじゃダメだ、ゆっちゃんに謝らないと。覚悟を決めてゆっくりと振り返る。いきなり顔は無理だ 目線を下にしよう。こうして半分振り返った所で足下が見えた。裸足だった。それからどんどん上へと目線を上げて行く。花柄のワンピースが見える。このワンピースは幼い頃、ゆっちゃんがよく着てた服だ。そしてとうとう顔まで来たという所で驚愕した。
「━━なっ!」
ゆっちゃんの顔は血だらけで生気の無く、変わり果てた姿をしていた。その光景に腰が抜けそうだった。
『ゆる…さない……ひー君だけ…助かって』
ゆっちゃんはまるでゾンビのようにゆっくりと俺に向かって歩き出す。やっぱりだ、やっぱり俺は幸せになっちゃいけないんだ。
ピピピピピピピピ…
不幸にも目覚まし時計で現実に戻された俺はベッドの上で目を覚ました。あの夢で汗をかいたらしく、Tシャツはベトベトだ。目を覚ましたついでに時間を確認する。もう昼間だった。
「はぁ………俺はどうしたら許して貰えるんだよ ゆっちゃん」
ゆっちゃんが死んだあの頃から俺はどうしたら許して貰えるか、償えるのか考えてきた。沢山考えたが思い付いたのは“幸せになるのを止める”だ。俺が幸せになったら俺のせいで死んだゆっちゃんはどうなる?一人で寂しい思いをするだろう。だから俺も一人になるんだ。
コン、コン
「陽太 起きてる?」
ドアのノック音と母さんの声が聞こえる。何と言うかタイミングが良すぎだ。
「起きてるよ 何?」
そう返事をすると母さんが入ってきた。何やらニコニコしているが嫌な予感がする。また買い物に行かせられたりするのか?
「あーちゃんと会ったなら家に連れて来れば良かったのに 陽太ったら。だから彼女も出来ないのよ」
ムッ。彼女は余計なお世話だ というかあーちゃんってどこかで聞いたような?あーちゃん、あーちゃん……あぁ、丸井か!丸井 亜美香であーちゃんだ。
「ていうか、なんで丸井と会った事 母さんが知ってるんだよ」
「それはね ほら 陽太宛に手紙よ。あーちゃんから」
丸井から手紙?母さんから受け取った手紙はノートの切れ端から作ったような歪な形をしている。表面には安藤 へ 丸井 亜美香よりと書かれていた。
「それじゃ、後で内容教えてね」
そう言い残して部屋を出て行った母さんは放っといて早速内容を確認してみた。
安藤へ
久しぶりにユキちゃんの妹に会ったわ。そしたら次の日曜がユキちゃんの命日らしいの
それで、お墓参りに行こうと思うんだけど安藤も行く?
連絡下さい。電話番号 ××××××××
丸井 亜美香より
とこんな事が書かれていた。手紙を読んだ後、俺はベッドに寝っ転がって考える。ゆっちゃんが死んでから既に六年が経つ。最近はお墓参りにも行かずに家の中にいる。良い機会かもしれない。俺はすぐ起き上がり手紙に書かれている電話番号に電話を掛けた。