不良
少し気になるので近くで見てみる事にした。喧嘩をしているのは花屋の前。あそこは老人夫婦が切り盛りしている店だ。店の前には見るからに不良な高校生二人と一人の女子高校生だった。
「おい、最後の一本 買ってやるって言ってんだろうが。早くよこせよ」
不良は見るからに苛立った様子で女子高校生が持つ花を指差す。だが女子高校生は負けていない、花を抱き締めている。よっぽど花が好きなのだろう。
「…では貴方たちに問います。何故、この花を買おうと思うのですか?」
女子高校生はお嬢様のような気品溢れる言葉を使って質問する。すると不良二人はバカにするかのように大声で笑い始めた。
「んなもん、買ってすぐ切り刻むんだよ」
「酷い!」
不良たちの言葉に女子高校生は涙を堪えている様子だった。花にそこまで愛着がある訳ではないがこれは酷いと思う。
「もう良いよ、杏ちゃん」
女子高校生の隣にいた老人夫婦がそう声を掛ける。このままではあの不良たちに花が渡ってしまう……って何言ってるんだ俺は。
「…ダメです!私は花を粗末にする人は許せません」
許せません……どこかで聞いた事があるフレーズだがまぁ、あまり目立ちたくなかったが仕方ないな。俺は携帯電話片手に人溜まりの中を掻き分けて女子高校生の隣に着いた。女子高校生は勿論、不良二人も「誰だこいつ?」みたいに見られているが気にしない。
「あんたら、恥ずかしくないの?(俺も人の事 言えないが)警察呼んだから捕まりたくなかったら逃げた方が良いんじゃない」
そう言って携帯を見せると不良二人は捨て台詞を言って慌てて逃げ出した。パチパチと拍手が鳴る中、俺も内心ではホッとしていた。
「あの…ありがとうございました」
女子高校生が頭を下げる。ふわりと甘い匂いが漂ってくるがこれが香水という物なのか?
「いや、これぐらい大丈夫だ。っと もうこんな時間かよ!じゃあ急いでるから また」
「また」って何だよと思いながら家路を急ぐが腕を掴まれてしまった。少しドキドキしながら振り向くと女子高校生も顔を赤くさせていた。
「待って下さい。な、名前を」
名前?そんな事を知ってどうなると言いたいが流石に女子相手に言えない。帰るには大人しく言うしかなさそうだ。
「俺は安藤 陽太、じゃあな」
「えっ!」
女子高校生は驚いているようだが名前教えたから良いよな?というか本当に急がないとまずい。俺は逃げるようにして立ち去った。
「………あ」
「おーい、文さん孝二さん大丈夫か?」
あら、あの人は確か
「ん?……おぉ、あんたは杏ちゃんか!いや、今日は陽太君にも会うし懐かしいな」
「……陽太君………ひっくん?」