表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

転生ヒロインがどう考えてもガチ独裁者な件について

掲載日:2026/04/07

「リリアーヌこそが、この腐りきった学園の、いや、国の救世主だ!」


 目の前で、この国の第一王子が熱狂的に叫んでいる。

 その隣で、リリアーヌ様は慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。彼女の足元には、数日前まで学園の頂点に君臨していた公爵令嬢が、まるでゴミ屑のように地面に伏している。

 ……おかしい。

 つい一ヶ月前まで、リリアーヌ様は「高飛車な悪役令嬢にいじめられる、健気で無害な平民出身の少女」だったはずだ。


「……リリアーヌ様、その方はもう十分に反省していますわ。そろそろ……」


 私が震えながら進言すると、リリアーヌ様はゆっくりとこちらを振り向いた。その瞳は、春の陽だまりのように温かい。けれど、その奥には底知れない冷徹な「意志」が渦巻いていた。


「あら、これは慈悲深い言葉ですこと。でも、必要ありませんわ。不純物は、健全な土壌を維持するために取り除かねばなりません。それが……『全体最適』というものです」


 ――リリアーヌ様が転入してきた当初、学園は荒れていた。

 名門ゆえの腐敗、横暴な悪役令嬢によるカースト支配。誰もが閉塞感を感じていた。

 そんな中、平民出身の彼女は「愛と平和」を説いて現れた。

 最初は、誰もが彼女を「健気ないじめられっ子」だと思っていた。

 だが、彼女が始めた『学園最適化計画』が、すべてを変えた。

 まず彼女は、放課後の「強制労働」と化していた居残り掃除を、独自の効率化で一掃した。


「みんな、私に付いてきて。効率的な清掃は、心の清浄に繋がりますわ!」


 彼女の指示通りに動くだけで、学園は見違えるほど美しくなった。これは生徒たちにとって、リリアーヌが起こした「目に見える実績」となった。

 次に彼女は、『リリアーヌ・ユーゲント(生徒相互扶助会)』を組織した。

 お揃いの制服の着こなし、揃いの挨拶、そして放課後の集団レクリエーション。

 孤独だった生徒たちは「居場所」を与えられ、熱狂的に彼女を支持した。

 そして極めつけは、あの「中庭の演説」だ。

 悪役令嬢に突き飛ばされた彼女は、泥を払うこともせず、壇上に上がって震える声で叫んだ。


「私は、私を貶める彼女を憎みません! 私が悲しいのは、この学園に『不一致』があることです! 学園を一つに! 我々の意志を一つに!」


 泣きながらの訴えに、生徒たちは拳を突き上げて応えた。その熱狂は、第一王子をも飲み込んだ。

 ……その時、私は震えが止まらなくなった。

 彼女のやり方は、あまりにも「あの日」の歴史の教科書で見た光景と重なる。

 広場を埋め尽くす群衆、感情を揺さぶるジェスチャー、そして「敵」を明確に設定することで生まれる異常な団結力。

 慈愛に満ちた笑みのまま、彼女の唇が音もなく動く。


(――全会一致こそが、至高ですわ)


 この人、ただの乙女ゲームの転生ヒロインなんかじゃない。

 中身は、一国を恐怖と熱狂で支配した、前世がガチの独裁者だ。




 それからの学園は、白か黒かになった。

 かつて君臨していた公爵令嬢は、全生徒による「糾弾集会」にかけられ、一晩で居場所を失った。


「彼女もまた、不適合なピースだっただけ。適切な場所へ『再配置』されるべきですわ」


 リリアーヌ様の優しい声と共に、公爵令嬢は学園から物理的に消えた。殺されたわけではない。流石にね。

 そして、彼女の演説に拍手を送らなかった私もまた、「適性検査」の対象になったのである。

 「みんなの笑顔のために」と称した彼女の演説は、瞬く間に学園を、そして王子を魅了した。彼女に反対する者は「全体の幸福を阻害する敵」として、社会的に、あるいは物理的に消えていく。


「あなたは、少し個性が強すぎるようですわね」


 ある日、リリアーヌ様は私にそう告げた。

 彼女の指す「個性」とは、彼女の思想に心酔しきれない私の「冷めた視線」のことだった。

 私は即座に「再教育対象」として、旧校舎の地下へと叩き込まれた。

 地下には、私と同じように「適合」できなかったはみ出し者たちがいた。

 元悪役令嬢、理屈っぽいオタク、規律を守れない不良。彼らは絶望の淵で、私を救世主のように見つめた。


「あんた……あの女の眼力に耐えて、真っ向から異を唱えたんだってな」

「いいえ、ただビビって固まってただけで……」

「謙遜するな! 俺たちを導いてくれ、『戦争の聖女』!」


 なぜか私は、彼らのリーダーに祭り上げられてしまった。

 私が「もう嫌だ、帰りたい」と泣けば、「現状に満足せず、理想の故郷を求める気高い魂の叫びだ!」と誤解される始末。

 そして今日。

 リリアーヌ様率いる「秩序軍」と、私が担ぎ上げられた「自由革命軍」が、校庭で対峙することになった。

 リリアーヌ様は軍服風のドレスに身を包み、王子が率いる親衛隊を従えて高らかに宣言する。


「親愛なる生徒諸君! 今日、我々は真の平和を手に入れるのです! 反抗勢力という名の病原菌を、根絶やしにすることによって!」


 その圧倒的なカリスマ性に、一般生徒たちが熱狂の声を上げる。

 対する我が軍は、今にも逃げ出しそうな私を、無理やり台座に乗せて最前線に押し出していた。


「なんで私がこんなことにぃぃ!! 私はただ、お菓子食べて昼寝して、モブとして平穏に生きたかっただけなのにぃぃ!!」


 私の魂の絶叫が、拡声魔法で国中に響き渡る。

 すると、あろうことか民衆の間に動揺が走った。


「見ろ……彼女は、あんなにボロボロになりながら、我々の『日常』のために泣いておられる……!」

「あんな少女に、あそこまで言わせるなんて……リリアーヌ様は、少しやりすぎなんじゃないか?」


 リリアーヌ様は、計算外の反応に初めて眉をひそめた。しかし、すぐにまた完璧な微笑を浮かべる。


「安心してください。その見苦しい足掻きも想定済みです。……あなたは私の完璧な帝国における、最後の『生贄』という役割を全うするのです」

「話が通じないどころか、もう脚本ができてる系独裁者だこれー!!」


 私が叫んだ瞬間、背後の地下住人たちが一斉に地面に膝をついた。

その視線は私ではなく、リリアーヌ様の後ろ――校門を突き破って現れた、隣国の「冷徹皇子」に向けられていた。

 彼はリリアーヌ様の「最適化」によって乙女ゲームから追放されたはずの、このゲームの隠し攻略対象だ。


「……遅くなったな、我が光よ。君がこの狂った学園を正すために、地下で牙を研いでいたことは聞き及んでいる」

「いえ、ただ寝てただけで……っていうか私とあなた初対面ですよね?」

「謙遜するな。君のその『涙』が、我らを動かしたのだ」


 彼は私の手を取り、リリアーヌ様を冷たく射抜いた。

 リリアーヌ様は、初めて計算が狂ったように瞳を揺らす。だが、その唇が歪に吊り上がった。


「あら……面白いですわ。私の『完璧な世界』を壊しに来るのが、唯一私を拒絶したあなただなんて。――ますます、壊したく(愛したく)なりましたわ」

「待って。リリアーヌ様、今『愛したい』って言った!? 公爵様、なんで私のために戦争一歩手前の軍勢連れてきたの!?」


 リリアーヌ様は、陶酔しきった目で私を見つめ、高らかに宣言する。


「全生徒、及び軍勢に告ぐ! これより、私の愛する『抵抗者』を奪い合う、聖戦デートを開始しますわ!!」


 ――神様。私、ただのモブとして平穏に生きたかっただけなんですけど!?

お読みいただきありがとうございました!

お楽しみいただけましたら評価感想などなどぜひよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ