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転生少女は、未来からの手紙をもらう  作者: あどん


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(4)転生少女は、王都へ旅立つ

王子が去った後、私はぼんやりとした頭で、この状況を整理していた。


未来のわたしが、過去にやってきた理由。

どうやら、図書館の禁書を閲覧するためらしい。

でも……。


話を聞きながら思っていたが、それなら未来の自分が直接見ればよかったんじゃないか?

三年もこの時代に滞在していたんでしょう?

時間の壁を超えるような凄い魔法を使えるなら、結界があっても簡単に破れそうだし、合法非合法を含めて他にもいくらでも方法がありそうだ。

それなのに、わざわざ今のわたしに託す必要、ある?


王子の教育係をしていたという点も気になる。

禁書を見たいだけなら、王子と親しくなる必要はない。

そもそも禁書を閲覧する権限は王家にもないと言っていたし、それなのに教育係を買って出た理由が分からない。


うーん……。


王子に魔法を教えたことに、どんな意味があったんだろう。


「もし王子を育てるのが目的なら……」


王子が立派な国王になることで、将来的に私が何か利益を得る可能性もある。

あるいは、王子が国王にならないと不都合な未来が待っているとか。

それとも、もっと別の……。


――いやいや。考えすぎか。


単に未来の私が暇を持て余して、遊びに来ただけかもしれないし。


「まあいいか。なるようにしかならないわよね」


そもそも情報が少なすぎて、何も判断できない。

とりあえず「禁書を読む」という目的を達成できれば、何かわかるかもしれない。

王子も協力してくれるらしいし、それなりに楽しんでみよう。


未来の私曰く、私は目立ちたがり屋で図太い性格らしいし……。


……うーん。

やっぱり誰かと間違ってない?


こうして私は、旅立ちの準備を始めることにした。


ーーー


一か月後。

私は王都に到着していた。


仰々しくされるのが嫌だった私は、王家からの迎えを全力で断り、乗合馬車でやってきた。

馬車に揺られること四日間。お尻が痛くなり、やっぱり迎えを頼むべきだったかと後悔し始めた頃、ようやく到着したのだ。


「これが……王都……」


灰色の石畳が整然と敷かれた広い通り。

両脇には三階建て以上の立派な建物が隙間なく並び、尖塔や華麗な装飾を施された教会や商店が目を引く。

人々は色鮮やかな衣装をまとい、馬車や荷車がひっきりなしに行き交っている。


異世界に転生してきたとはいえ、ずっと田舎暮らしだった私は、改めて前世とはまったく別の世界に来たのだと実感した。


「うわぁ……人がいっぱい……お店もたくさん……!」


こんなに人がいたんだ、この世界……。


初めて見る都会の景色に圧倒されながら、私はきょろきょろと周囲を見回す。

どう見てもお上りさんだ。


旅人スタイルと言えば聞こえはいいが、実際は自分の身長ほどもある大きな鞄を背負い、フード付きのマントで顔を隠しているだけだ。

手には魔法使い御用達の『杖』に見える『枝』。


……うん。ちょっと怪しいかもしれない。


でも仕方がない。

王国は治安がいいし、乗合馬車を利用すれば滅多なことは起きない。


とはいえ、八歳の女の子が一人旅をするのは危険だ。

小綺麗な格好をしていれば、良からぬ輩に目を付けられることもある。


私は杖を握る手に、少し力を込めた。


この杖は護身用というより、ステータスシンボルだ。

別に杖がなくても攻撃魔法の一つや二つ使えるけど、持っていれば「魔法が使えます」と周囲に分かりやすく示せる。

そうすれば、大抵の人間は敬遠する。


少なくとも田舎では、それで十分だった。


「まずは……宿を探さないとね」


出発直前、王子から届いた手紙には、王都で泊まる宿の名前と簡単な地図が同封されていた。

『銀鷲亭』。いかにも高級そうな名前だ。


手紙によると、王子が手配してくれた宿らしい。

私としては素泊まりの安宿で十分だったんだけど。


宿はすぐに見つかった。

大通りの中でも一番賑やかな地区にあり、看板には大きく『銀鷲亭』と書かれている。


……やっぱり高級そう。


入口には警備員らしき男性が二人立っていて、私を見るなり顔を見合わせ、小さく笑った。


なんだよ、失礼だな――と思ったけれど、自分の身なりを思い返して納得する。

軽く会釈して中へ入った。


受付では若い女性が、にこやかに迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」

「えっと……クロエです。こちらで、これを渡せと言われたのですが……」


私は鞄を床に置き、中から手紙を取り出した。


それを見た瞬間、受付の女性の顔色が変わった。

そして慌てた様子で奥の部屋へ駆け込んでいく。


しばらくして戻ってきた彼女は、深々と頭を下げた。


「クロエ様ですね。大変失礼いたしました。すぐにお部屋へご案内いたします」

「はい」


やがて別の女性が現れ、丁寧な所作で案内を始めてくれた。

廊下を進む途中、他の客の姿も見かけたが、皆一様に裕福そうで品がある。


……完全に場違いだ。


「こちらがお客様のお部屋になります」

「ありがとうございます」


扉を開けた瞬間、思わず息を呑んだ。


豪華絢爛――まさにその一言。

キングサイズのベッドに、真っ白なシーツ。

柔らかそうな枕に、凝ったデザインの調度品。

窓からは王都の街並みが一望できた。


「素敵なお部屋ですね」

「恐れ入ります。何かございましたら、お気軽にお申し付けくださいませ」


女性が退出し、私は部屋を見渡して大きく息をついた。


「ふぅ……疲れた……」


荷物を置き、一息ついた私は、まずお風呂に入ることにした。


さすが王都の一流宿。

お風呂が付いている。


一般家庭では、冷たい水で身体を拭く程度が普通で、湯船に浸かる習慣は貴族くらいしかないらしい。


ちなみに我が家にはお風呂があった。

土魔法で作った湯船に水魔法で水を張り、火魔法で温めるという力技だったけど。


さて、念願のお風呂タイムだ。


備え付けの石に触れるだけで温かいお湯が出るという、画期的な設備。

仕組みが気になるところだけど、今はそれどころじゃない。


桶で身体を洗い、湯船に浸かる。


「あー……生き返るぅ♪」


極楽浄土とは、このことだ。


思わず大きな溜息が出るほど、気持ちがいい。

やはりお風呂は最高だ。日本人のDNAなのだろう。これがあるかないかで生活の質が大きく変わると言っても過言ではない。


お風呂から上がり、清潔な服に着替えると、ようやく人心地ついた気がした。

とりあえず明日以降の予定を考えつつ、今夜は早めに休もう――そう思った矢先、ノックの音が響いた。


「どちらさまですか?」

「クロエ様。夜分遅くに申し訳ございません」

「どうぞ」


扉を開けると、先ほど案内してくれた女性が立っていた。

その手にはトレーがあり、食事が載せられている。


「夕飯をお持ちしました」

「あっ……ありがとうございます」


そういえば、まともに何も食べていなかった。

朝に乗合馬車の中で食べた、パンに肉が挟まったなんちゃってサンドイッチくらいだ。


女性が運んできた料理を見て、思わず目を見張る。

肉料理を中心に野菜もふんだんに使われ、彩りも豊かで食欲をそそる。

焼きたてらしいパンからは香ばしい匂いが漂い、スープも具沢山だ。


「こちらをお預かりしております」


そう言って手紙を渡された。

中を確認すると、王子からだった。


【親愛なるクロエ嬢へ。

無事に到着されたようで安心しました。

明朝九時に迎えを遣わせます。

よろしくお願いいたします。

ライゼル・ファム・ガリア】


「これはこれは……ご丁寧に」


短いながらも礼儀正しい文面だ。

王子なのに律儀な人だな、と思いつつ、無事に到着したことが伝わっているのに安心する。


この夕食も、きっと王子の配慮だろう。

せっかくだし、ありがたくいただくことにした。


美味しい料理に舌鼓を打ちながら、明日からの生活に思いを巡らせる。

どんな日々になるのだろうか。

できれば、楽しい毎日であってほしい。


そんなことを考えながら、私は床に就いた。

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