(3)転生少女は、未来からの手紙をもらう
そう言って手渡された封筒を開くと、中から一枚の紙が現れた。
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【拝啓。8歳の私へ】
今の私は、田舎でのんびり暮らすのも悪くないと思っているでしょう。
魔法を上手く使って自給自足のスローライフ。贅沢ではないけれど、不自由のない暮らしに満足しているはずよね。
でも――それを続けた先で、私は一度、取り返しのつかない後悔をしたの。
とりあえず魔法学院に行きなさい。
そして、魔法学院図書館の禁書閲覧許可を得なさい。
魔法学院の図書館は非常に充実していて、貴重な文献が多数収蔵されているの。その中に、私がどうしても必要としている情報が眠っているはず。それを見るためには、魔法学院の卒業者でなければ閲覧できないのよ。
……というわけで、禁書閲覧権を得るために頑張って。
PS.
あなたは自分が思っているよりも、ずっと目立ちたがり屋で図太い性格をしているわ。
by あなたより、ちょっと未来の私より
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「……なんだこれ?」
手紙を読み終え、思わず呟いてしまった。
要するに――本を読みたいから魔法学院に入れ、ということらしい。
「何が書いてあったのですか?」
「えっと……その……」
私は王子たちに手紙の内容を説明した。
すると、全員がなんとも言えない表情になる。
「たしかに、魔法学院の図書館に保管されている禁書は、厳しい閲覧制限がかかっています。王家の人間であっても、自由に閲覧することはできませんが……」
うーん。
そこまで読みたいなら、無理やり潜り込めばよかったんじゃないの、未来の私。
話を聞く限り、それくらいのことは平然とやりそうだけど。
「でも、よかったです。先生なら禁書閲覧許可くらい、簡単に手に入れられますよね」
「え? どうやって……?」
「それは、先生が先生だからです。未来の先生は、決して無責任なことを言わない人でした」
にこにこと笑う王子。
その表情からは、迷いなど微塵も感じられない。
未来の私は、一体どうやってここまで王子様の信頼を勝ち取ったのだろう。
そんなことを考えていると、王子は真剣な眼差しで私を見据え、はっきりと告げた。
「もちろん、今の先生――いえ、クロエ嬢の意思も尊重したいと思っています。しかし、未来の先生の意思も理解していただけたらと思うのです。どうか、お願いできませんか?」
……この王子様、本当に誠実な人だ。
ここまでされてしまうと、断るのは正直つらい。
それに、この手紙が本当に未来からのものなら、これは私が私自身に課した目標でもある。
だったら――やるしかないか。
「……わかりました。ただし、一つ約束してください」
「はい。何でしょうか?」
「なるべく目立たないように生活させてください。ご覧の通り、私の容姿はこの王国では珍しいです。しかも、平民が魔法学院に入るだけでも注目されるでしょう? できる限り、静かに過ごしたいんです」
「……わかりました。善処します」
「ありがとうございます。それと、先生と呼ぶのはやめてください」
「それは、なぜですか?」
「今の私は、あなたの先生ではありません。あなたの先生は未来の私です。私のことは、クロエと呼んでください」
「承知しました。たしかに先生は未来の貴方ですね。では、今の貴方のことはクロエ嬢とお呼びします」
本当は「クロエ」で十分なんだけどなぁ……。
「それでは、明日出発ということで。本日はこのまま泊まっていきます。旅の準備などは、すべて私たちが行いますのでご安心ください」
「ま、待ってください! いくらなんでも急すぎます!!」
荷物は自分で整理したいし、近所の人たちにも挨拶をしておきたい。
さすがに早すぎる。
必死に抗議した結果、一か月後に私一人で王都へ向かう ということで折り合いがついた。
まったく、王子様と小旅行なんて冗談じゃない。
こうして、私の悠々自適なスローライフは終わりを告げたのだった。
――いったい、何をさせたいんだ。未来の私。 そして、何を変えようとしているんだ。




