(24)転生少女は、初討伐を済ませる
森に入ってしばらく歩くと、木々の間からちょこちょこと小さな影が見えた。
あれが魔物か?
慎重に近づいてみると――緑色の小動物のような生き物が二匹、草をかじっている。体長は二十センチほどだろうか。丸っこくて、なんだか可愛らしい。
……って、これリスだ。
教科書で読んだ知識を思い出す。
この世界の生物分類は、地球と基本的には大きく変わらない。猫や犬、鳥や魚といった普通の動物も存在する。
しかし、決定的に異なる点が二つある。
――『魔獣』と『魔物』の存在だ。
『魔獣』は、通常の動物が魔力汚染などによって変異・凶暴化した存在である。身体は巨大化し、攻撃性が極端に高まる。
たとえば狼が魔獣化すれば、巨大な個体が群れを成し、農村を襲うといった事態も起こり得る。
一方、『魔物』は根本的に起源が異なる。
彼らは自然発生的に生まれる謎の存在で、その姿形は実に多様だ。植物のようなものから、完全に異形としか言いようのないものまで存在し、「生物」と呼んでいいのか疑問視されることさえある。
そして最大の特徴は――討伐した際に『魔石』へと変化すること。
魔獣を倒せば死骸が残り、肉や皮、牙などを素材として回収できる。
だが魔物は違う。致命傷を与えられた瞬間、肉体は塵となって消滅し、代わりに『魔石』と呼ばれる結晶を残すのだ。
色や大きさは魔物の種類や強さによって異なるが、例外はない。
場合によっては『落とし物』と呼ばれる、いわゆるドロップアイテムを残すこともある。
(……魔物は倒すと魔石化する。死体は残らない)
そして、魔物を見分ける簡単な方法がある。
それは、額に存在する魔力結晶――いわゆる『核』だ。
今、目の前にいるこの小動物には……ない。
「……うん、やっぱり普通のリスだな」
しかも可愛いし、大人しい。
放っておこう。
さらに奥へ進むと、森の雰囲気が少し変わってきた。湿気が増し、苔むした倒木が目立つようになる。
その時――
カサリ。
草が擦れる音がした。
茂みの陰から、細長い耳がひょっこりと覗く。
あれは……?
警戒しながら近づくと、その正体が見えた。
二本足で立つ小柄な生き物。尖った耳に、ぎょろりとした赤い瞳。全身は黒褐色の毛に覆われ、頭には緑色の小さな角が生えている。背丈は六十センチほどだろうか。
「……ゴブリン?」
ゲームやファンタジー作品ではお馴染みの亜人種。
だが、目の前の個体は想像以上に凶悪な顔つきをしていた。口元はニヤついているように見え、鋭い牙が覗いている。
距離を保ちつつ、冷静に観察する。
――額の核。
間違いない。魔物だ。
……まだ、こっちに気づいていない?
不意打ち、いいよね?
これで一体目!
魔力を込め、杖を――『アーカーシャ』を、静かに取り出す。
握った瞬間、魔力の流れが自然と整えられる感覚が伝わってきた。
そして構える。
「風牙!」
呪文と同時に、アーカーシャが淡く輝いた。
魔力が無駄なく収束し、杖先から放たれた空気の刃が弧を描く。
狙いは完璧だった。
ゴブリンを両断。
「グギャッ!」
短い悲鳴と共に、緑色の体液が飛び散る。
だが次の瞬間――砕けた肉体は塵となり、風に溶けるように消え去った。
その場に残ったのは、ピンポン玉ほどの赤い魔石だけ。
「……なるほど。これが魔物か」
興味深く拾い上げる。
確かに、これは動物の死体ではない。地球では絶対にありえない生態系だ。
魔物は自然界の異分子。
神や高位存在が創り出したとも言われているが、真相を知る者はいない。
ふぅ……初討伐、完了。
人型だったからもっと躊躇するかと思ったけど、意外と平気だった。
……でも、ゴブリンって群れで行動するんじゃなかったっけ?
そう思った瞬間、少し離れた茂みから同じような影が二つ現れた。
やっぱり仲間がいたか。
……って、四つ? 五つ?
結構いるな。でも焦らない。
これで、10体討伐の道筋が見えてきた。
よし、今出てきたやつから全部やっちゃおう!
「よーし! 派手に行くぞ!」
そう叫んで、杖を地面に突き立てる。
アーカーシャを起点に魔力が広がり、土埃が舞い上がった。
風属性の竜巻を発生させ、敵を絡め取る。
竜巻に巻き上げられるゴブリンたち。
ぎゃーぎゃーと騒ぐ声が響く。
そこへ、炎魔法でトドメを刺す。炎が彼らを包み込み、灰燼へと還す。
バシュッ、バシュッと魔法が決まるたび、魔石が落ちる。
ぽん、ぽん、ぽーん。
気がつけば、あっという間に10体達成。
「……まだいけそうだけど」
さすがに調子に乗るのはよくない。
油断は禁物だ。
少し休憩しよう。
腰掛けられる場所を探していると――
パンッ!
乾いた音と共に、強烈な閃光が走った。
「……え?」
緊急連絡用の信号弾!?
かなり近い……。
芽吹き(ブライニス)クラスの新入生としては、逃げるのが正解だろう。
でも――。




