エイデン・フィンレイ――水面下で抗う
エイデン・フィンレイ
水鏡のように静かな水面の下で、激流が渦巻く。
そんな感覚が、彼の胸中に広がっていた。
「魔力球の維持には、魔力制御の基礎力が如実に表れます」
午後の実技授業で告げられたメリッサ先生の言葉は、教室全体に張り詰めた緊張をもたらした。
――パン!
突如として炸裂した破裂音。
正体を探るより早く、目の前で生徒たちが次々と魔力球を消失させていく光景が広がる。
音に驚いたわけではない。
精神に干渉する術式――いや、単純な音爆か。
これも試験の一環というわけだ。
私は反射的に水属性の膜を展開し、衝撃を受け流した。鼓膜がわずかに震えただけで済む。
だが周囲を見渡すと、クラスの三分の一がすでに魔力球を失っていた。
(甘いな……)
自分は水属性。本来、防御と安定性に長けた属性だ。
この程度の不意打ちに耐えられないわけがない。
ふと視線を向ける。
クロエ・エルヴェール。
彼女は悠然と佇み、周囲には四色の魔力球がなおも安定して浮遊していた。
隣では、アリサ・フォン・ヴィントシュタットも同様に魔力球を維持している。
伯爵家の娘――やはり鍛え方が違う。
……いや、それだけではない。
(それでも、僕は負けてはならない)
学年主席。
今年のブライニスは逸材揃いだと噂される中で、その座を掴み取ったことは、確かな誇りだったはずだ。
だが入学から日を追うごとに、その称号は砂上の楼閣のように脆く感じられるようになっていた。
アリサ。
彼女もまた、疑いようのない才能の持ち主だ。
二属性を操るウィッチ。
実戦的な判断力、咄嗟の対応力はすでに上級生に迫る。まだ十五歳だというのに、年齢相応の未熟さを努力と才能で補って余りある。
尊敬すべき存在だ。
だが――。
それすら凌駕する存在がいる。
クロエ・エルヴェール。
八歳という年齢で学園に入学した異端児。
四属性を操るエンシェント。
彼女を差し置いて、自分が主席に選ばれた理由は明白だ。
学力――それも当然だ。彼女はまだ八歳なのだから。
だからこそ、この点だけは譲れない。
……それでも。
実技を目にするたび、心は揺らぐ。
魔法理論も実技も、平然と自分を上回るその姿に、折れそうになる自分がいる。
首席として、あまりにも情けない。
――だが。
先生は言っていたではないか。
「属性の違いが、強さの決定的要因ではない」と。
重要なのは、自分の能力を最大限に引き出すこと。
自分には、自分だけの強みがあるはずだ。
(必ず、たどり着いてみせる)
自分の魔法の。
自分だけの、高みへ。




