(22)転生少女は、無意識にやりすぎる
午後の魔法実技の授業が始まった。
場所は学院内の練習場だ。
学院の敷地内には複数の訓練場が存在し、生徒は自由に使用できるようになっている。ただし、授業で使用するのは主に専用の練習場だ。今日は記念すべき、初めての魔法実技でもある。
グラウンドの中央にはメリッサ先生が立ち、生徒たちはその周囲に散らばって待機していた。
「皆さん。午前中の講義を踏まえて、これから実際に魔法を使ってもらいます」
その言葉に、生徒たちの間に緊張が走る。
……けれど私は、意外と平気だった。
未来の私から「あなたは意外と図太い」と言われていたけど、どうやら本当らしい。
えっへん。
「それでは、魔力球を作る練習をしましょう。まず――クロエさん。前に出てきてください」
唐突な指名に、心臓がドキッと跳ねた。
一斉に集まる視線。うぅ……さすがに注目されるのは苦手だ。
「は、はい……」
恐る恐る前に出ると、メリッサ先生が小声で囁いた。
「クロエさん。あなたの実力なら、皆さんのお手本になります。あまり気負わず、やってみてください」
「わかりました!」
魔力球は試験でも作ったし、問題ない。
ゆっくりと意識を集中し、体内の魔力を循環させる。
魔力を一点に集め、圧縮する。
赤、青、緑、黄――四色の輝きが手のひらに灯る。
そのまま四つの球体を形作るイメージを膨らませる。
……できた。
片手で掴める程度の大きさ。歪みのない、完璧な球形だ。
眩いほどの光彩を放っている。
「すごいです! さすがエンシェント!」
「綺麗! まるで宝石みたい!」
「魔力球って、あんなに綺麗に作れるんだ……」
「私も、あんなふうに出してみたい……!」
アリサさんをはじめ、女子たちから黄色い声援が飛ぶ。
照れくさいけど……正直、嬉しい。
えへへ。喜んでもらえてよかった。
「クロエさん、上出来です。とても安定していますね。皆さんも、このくらいの大きさと形を目標にしてください」
先生はパン、と手を叩いた。
「午前中の授業、覚えていますか?魔法を使うために必要な要素を三つ、説明しましたね」
「意思、制御、魔力量です!」
男子生徒の一人が挙手して答える。
メリッサ先生は満足そうに頷いた。
「その通りです。意思が弱ければ、球体は歪みます。制御が甘ければ、大きさが安定しません。魔力量が足りなければ、維持できません」
つまり、この三つが揃ってこそ、魔法は安定する。
魔力球は基礎を学ぶのに最適、というわけか。なるほどなぁ。
「では、各自練習を始めてください」
合図と同時に、生徒たちは一斉に魔力球の生成に取り組み始めた。
さすが入学試験を突破してきただけあり、生成自体は皆スムーズだ。
けれど、出来栄えは様々だった。
歪なもの、小さすぎるもの、色が安定しないもの――上手くできる人もいれば、苦戦している人もいる。
全員が、ひとまず魔力球を作り上げた、その瞬間。
――パンッ!!
何かが弾けるような音が響き、悲鳴が上がった。
音のした方を見ると、そこには――
いたずらが成功した子供のような笑顔を浮かべる、メリッサ先生。
……今の、ただの拍手じゃなかったよね?
音量的に、完全に魔法で強化してたよね?
「はいはい。この程度で魔力球を維持できなくなるようでは、とても実戦など無理ですよ」
見ると、多くの生徒が驚いて魔力球を消してしまっている。
「皆さん、もっと集中してください」
……ちなみに私は、平気だった。
このくらいで魔法が乱れるほど、私の精神はやわじゃない。
「クロエさん。さすがですね。魔力球を作るとき、何を考えていますか?」
「え゛!?」
「ですから、魔力球を作るときに何を考えていますか?」
「えっと……あの……その……」
困った。
正直に言うと、何も考えていない。
ただ『こういうのが欲しいな』って思ったら、できてるだけで……。
「……あまり、よく考えていません……」
正直に答えた。
だって、本当にそうなんだもん。
するとメリッサ先生は、にっこりと微笑んだ。
「いいですね。それは究極の境地です」
生徒たちを見回しながら、先生は続ける。
「皆さん。何か動作をするとき、その一つ一つを意識していますか?たとえば物を持ち上げるとき、手を伸ばして、掴んで、力を入れて……そんなことを逐一考えていますか?」
「あ……言われてみれば、意識していませんね」
「そうでしょう。日常の動作は、無意識に行っているものです」
なるほど……。
「つまり、何も意識せず、自然にできている状態。それが理想なのです」
――ああっ!
確かにそうだ。
歩くときに「右足、左足」なんて考えない。勝手に体が動く。
魔力球も同じ。
『作りたい』と思った瞬間、もうできている。
私は無意識のうちに、それをやっていただけなんだ。
「最終的には、息をするように魔力を生成できることを目指しましょう。ですが、その前に――」
メリッサ先生が、パン!と手を叩いた。
「少し驚いたくらいで、魔法を乱さない訓練をしましょうね」
「「「「「……はい」」」」」
こうして午後の魔法実技は、
魔力球の練習と――先生の軽い(?)イタズラに耐える時間となったのだった。




