(20)転生少女は、魔法の源を知る
魔法学院での講義が始まった。
初日の午前は基礎科目である魔法理論の時間だ。教室には二十名ほどの生徒たちが静かに着席している。
教室に入ると、すでにアリサさんが席についていて、こちらに気づくと小さく手を振ってくれた。
「おはようございます!クロエ様!」
「だから『様』はやめてってば。私の方がずっと年下なんだし……」
「駄目です!クロエ様はエンシェントですし、それに公爵家のご令嬢でしょう? 私なんかよりずっと賢いです!」
熱弁するアリサさんに、私は苦笑いするしかない。
どうやら彼女の中で、私の評価がどんどん盛られているらしい。困る。
「とにかく普通に話そうよ。友達として、ね」
「はい!クロエ様!」
……うん。
もう友達ってことでいいと思うんだけど、そこは譲れないみたいだ。
「あら? もう仲良くなっているのね」
背後から凛とした声が響いた。
振り返ると、深紫の髪を整然と束ねたメリッサ先生が立っている。彼女が現れた瞬間、教室全体が静まり返った。
「おはようございます!メリッサ先生!」
「おはよう。皆さんの元気な姿を見られて嬉しいわ」
微笑みながら教壇へ向かう。その一挙手一投足に無駄がなく、空気が自然と引き締まる。
「さて、それでは魔法理論の授業を始めましょう。まずは復習を兼ねて、基本から確認します」
黒板に魔法系統図を描き始めるメリッサ先生。
火、水、土、風、雷、氷、闇、光――八つの属性が並ぶ。
「皆さんが主に扱うのは、火・水・土・風の四属性。これを『四大元素』と呼びます」
魔法使いは生まれながらに使える属性が決まっている。
多くは単属性か二属性。稀に三属性使える者が現れ、四属性すべてを扱える者は極めて少ない。
雷、氷、闇、光は希少属性とされ、その使い手はさらに限られる。
「では質問です。四大元素とは何でしょう?」
問いかけられた瞬間、アリサさんが勢いよく手を挙げた。
「はい! 四大元素とは、この世界を構成する根源的な物質のことです! 万物はこれらによって形成されているとされています!」
淀みのない回答に、教室から拍手が起こる。
アリサさんは少し誇らしげな表情だ。さすが伯爵家、きちんと勉強してきている。
「その通り。では次の質問です」
メリッサ先生は少し間を置いてから続けた。
「魔法の源とは、何だと思いますか?」
教室がざわつく。
次々に手が挙がり、意見が飛び交う。
「魔力です!」
「マナだと思います!」
「生命力じゃないでしょうか?」
様々な答えを聞き終えた後、メリッサ先生は静かに首を横に振った。
「それらはすべて正しく、そしてすべて不完全です」
黒板に大きく「意思」と書く。
「魔法の源は、現在の魔法学においても明確には解明されていません。ただ一つ確実に言えるのは、人の意志や感情が深く関わっているということです」
意志……?
「魔法は、使い手の思念に強く影響されます。強く『望む』気持ちがなければ、魔法は発動しません」
次に書かれたのは「制御」。
「また、魔力は精神状態にも左右されます。怒りや恐怖に支配されると、魔法の制御は著しく困難になります」
冷静さが重要、というわけだ。
精神の安定が、魔法の精度と威力を左右する。
続いて「魔力量」。
「魔力量とは、魔力の貯蔵量を指します。魔法を使えば減少し、強力な魔法ほど消費量も大きくなります」
「先生!質問です!」
一人の男子生徒が手を挙げた。
「はい、どうぞ」
「魔力量は、どうすれば増えるんですか?」
良いところを突く質問だ。
メリッサ先生は満足そうに頷いた。
「良い質問ですね。魔力量の増加方法は、完全には解明されていませんが、いくつか有力な仮説があります」
黒板に「魔力増加方法」と書き、その下に項目を並べていく。
「訓練」「装備」「薬」「実戦」。
「まず一つ目、『訓練』。魔力を効率的に使い続けることで、徐々に魔力量は増えるとされています」
生徒たちが一斉にメモを取り始める。
私も真剣に耳を傾けた。
「二つ目は『装備』。魔力を増幅する杖や、魔法の威力を上げる指輪などですね。ただし、これらは古代遺跡や地下迷宮から発掘されるものが多く、非常に高価です」
……そりゃそうだ。
オークションでも滅多に出回らない代物だ。
「三つ目は『薬』。魔力量を増やす魔法薬は現在も研究されていますが、効果は微々たるものです。偽物も多く、副作用の報告もあります」
ここで一度言葉を切り、はっきりと告げた。
「皆さんは、魔力増加薬に頼らないでください」
教室の空気が引き締まる。
「そして最後が――」
赤字で大きく丸を描きながら、メリッサ先生は言った。
「『実戦』です」
「モンスターと呼ばれる魔物との戦闘を経験することで、魔力量は増加します。特に強力な魔物との戦闘に勝利した場合、その増加量は大きいとされています。これが、現在もっとも有力視されている魔力増加方法です」
そこでメリッサ先生は一息ついた。
生徒たちが食い入るように話を聞いているのを見て、満足そうに微笑む。
「というわけで、来週から実戦訓練を開始します。もちろん、実際にモンスターを討伐してもらいます」
――えええっ!?
いきなり実戦!?
それはさすがに怖すぎる。周囲を見渡すと、他の生徒たちも同じように戸惑った表情を浮かべていた。
「ふふふ、安心してください。高位モンスターと戦わせるつもりはありません。皆さんでも十分に対処できる魔物を用意します」
その言葉に、教室の緊張が少しだけ和らぐ。
……とはいえ、実戦か。やっぱりちょっと怖い。
「ただし、参加できるのは教師陣が認めた生徒のみです。それ以外の生徒は見学になります」
再び教室がざわめいた。
どうせなら参加したいな……。
「午後からは実技の授業があります。皆さん、気を引き締めて臨んでくださいね」
そう言って、メリッサ先生は教室を後にした。
残された教室はざわついたまま、午後の時間を迎えることになった。




