(19)転生少女は、禁書庫への道のりを知る
週末、私は一人で魔法学院の中心部にある図書館へ向かった。
特に調べたいことがあったわけではない。ただ、できることなら禁書庫の入り口をこの目で見ておきたかったのだ。
実際に中へ入るのは無理でも、せめて場所だけでも確認しておきたい。
そんな軽い気持ちで来たのだが――
学院の図書館は、想像以上に巨大だった。
城と見紛うほどの建物には、見たこともないほど豪奢な装飾が施され、石造りの壁には精緻な彫刻が刻まれている。入口には重厚な木製の扉。その表面には複雑な魔法陣が浮かび上がるように彫られていた。
……お、おう。
これ、本当に図書館? 神殿とか宮殿じゃなくて?
入口付近をうろうろしていたら、警備員のおじさんの視線が鋭くなってきた。
やばい。完全に怪しまれてる。
慌てて扉を押し開け、中へと入る。
ひぃぃ……。
こんなことで警戒されるなんて……。
「し、失礼します……」
中へ足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
図書館の内部は想像以上に広く、天井は高く、円形状に広がっている。磨き上げられた大理石の床。高窓から差し込む柔らかな陽光が、空間全体を静かに照らしていた。
壁一面に並ぶ本棚には、ぎっしりと本が詰め込まれている。
圧倒されながら奥へ進むと、いくつもの通路が分岐しており、まるで迷路のようだ。
これだけ広いのに、人の気配は意外と少ない。
「……ここが受付かな」
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
声をかけてきたのは、カウンターの向こうにいた図書館員のお姉さんだった。
二十代半ばくらいだろうか。紺色の制服に身を包み、穏やかな目元をしている――が、どこか鋭い観察眼も感じさせる。
「あっ……その……禁書庫って、どこにあるんですか?」
思い切って聞いてみる。
お姉さんは一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「禁書庫、ですか。残念ですが、学生の方には開放されていないんです」
……まあ、ですよね。
「で、でも……入口だけでも見学できないかなって……」
「申し訳ありません。実は禁書庫は、私たち一般職員でも見たことがないんですよ」
……え?
つまり、場所自体を知っているのは本当に一握りの人間だけ、ということか。
禁書庫だから当然といえば当然だけど、図書館員なら少なくとも場所くらいは知っているものだと思っていた。
「そうなんですね……。わかりました。ありがとうございます」
落胆しながら頭を下げる。
こうなったら目的変更だ。普通に図書館を見て回ろう。
そんな私の様子を見て、お姉さんは優しく声をかけてくれた。
「代わりと言っては何ですが、学生用の資料室でしたら自由にご利用いただけます。よろしければご案内しますよ?」
「あ、はい! ぜひお願いします!」
内心ほっとしながら、お姉さんの後についていく。
案内された先は学生用のエリアらしく、先ほどの重厚なメインフロアとは雰囲気が違う。机や椅子が並び、勉強しやすそうな空間だ。
「こちらが学生用閲覧室です。本棚には、基礎から専門まで幅広い蔵書がありますよ」
なるほど。
図書館はいくつかのエリアに分かれていて、一般公開と非公開の区分があるらしい。
……よし。ここで情報収集だ。
「あの……禁書庫について書かれた本って、ありますか?」
「禁書庫、ですか? ええ……確かこちらに……」
お姉さんは棚の奥から一冊の本を取り出した。
『王立学院魔法図書館 編纂記録』
古い紋章が刻まれた表紙の本だった。
「こちらになります。持ち出しは禁止なので、この場でお願いしますね」
手渡された本は年季が入っていたが、保存状態は良い。
ページをめくると、図書館の歴史や重要人物の記録が並び――やがて、禁書庫に関する項目を見つけた。
禁書庫の起源は王国成立以前。
魔導王朝時代に建設されたとされ、現在の位置は極秘。一般職員ですら知らされていない。
管理者権限を持つのは、代々の王と一部の高位魔法使いのみ。
……へぇ。思った以上にヤバい場所だ。
さらに読み進めると、入室資格の条件が列挙されていた。
1.魔法学院で首席、またはそれに準じる成績
2.院長および三名以上の教授の推薦
3.「ウィザード」または「エンシェント」の認定
4.魔導審査委員会による人格評価
5.年齢制限:二十歳以上
※上記条件のうち三つ以上を満たす者。
※特別条項あり。
……二十歳以上!?
ええ!?
今の私、八歳なんだけど!? 当分無理じゃん!!
私は四属性を使えるからエンシェントの条件は満たしてる……はずだけど、正式な認定が必要なのかな。
他は……うーん。とりあえず覚えておこう。
さらにページをめくると、特記事項があった。
***特記事項***
禁書庫には未知言語で記された文献が多数存在する。
そのため、高度な言語解読能力が求められる。
特殊スキル《言語理解》を有する者は、特例として入室を認められる場合がある。
……言語理解スキル。
残念ながら、今の私にはない。
現時点で現実的なのは、エンシェントの正式認定くらいか。
……うん。完全に長期戦だな。
「どうでしたか? 何か参考になりました?」
「はい……とても参考になりました! ありがとうございます!」
本を返却すると、図書館員のお姉さんはにこやかに微笑んだ。
「また分からないことがあれば、いつでも聞いてくださいね」
「はい! ありがとうございました!」
そうして図書館を後にする。
外へ出る頃には、すっかり夕暮れ時になっていた。
橙色の夕陽が、学院の建物を優しく染めている。
……まあ、焦らず行こう。
とりあえず、今は学院生活を楽しむところからだよね。




