(18)転生少女は、静かに期待されてしまう
その後も自己紹介は続き、教室には次第に穏やかな空気が広がっていった。
最後の生徒が終わると、メリッサ先生が拍手を送る。
「皆さん、とても素晴らしい自己紹介でした。改めまして――今年度Aクラス担任のメリッサ・アッシュフォードです。一年間、よろしくお願いします」
その言葉に、教室いっぱいに大きな拍手が響いた。
厳しさの中に、生徒への確かな愛情が感じられる。
強さと柔らかさを併せ持った、不思議な魅力のある教師だと思った。
やがて解散となり、生徒たちは三々五々に教室を後にする。
私も荷物をまとめて帰ろうとした、その時――
「クロエ・エルヴェールさん」
呼び止められ、振り返る。
いつの間にか、教室には私とメリッサ先生の二人きりになっていた。
「入学おめでとう。あなたの入学試験の成績は、拝見しましたよ」
思わぬ言葉に、思わず目を瞬かせる。
「私は担当試験官ではありませんでしたが、“エンシェントが現れた”と聞いていました。まさか、それが八歳の少女だとは思いませんでしたけれど」
穏やかな笑みを浮かべながら、先生は続ける。
「でも、グリンダ校長が私を担任に指名した理由が分かりました。Aクラスは粒ぞろいですが……癖のある生徒も多いですから」
「私、癖ありますか?」
「ふふっ。そういうところが、ですね」
くすりと笑い、蒼い瞳を向ける。
「実技に関しては、私の方が教えを請う場面もあるかもしれません。いろいろ助けてもらうことになるでしょう。期待していますよ、クロエさん」
その視線に、期待と好奇心が入り混じっているのが分かる。
本来なら苦手なはずなのに、不思議と悪い気はしなかった。
「はい! 精一杯頑張ります。よろしくお願いします」
深く頭を下げると、メリッサ先生は微笑み、手を差し出してきた。
その手を握ると、しっかりとした温もりが伝わってくる。
――期待されている。
その言葉の重みが、じんわりと胸に広がっていく。
前世では、誰かに期待されることはほとんどなかった。任されるのは無難な仕事ばかりで、良くも悪くも「いてもいなくても変わらない存在」だったと思う。
だからだろうか。
こうして真正面から名前を呼ばれ、能力を見て、期待を向けられるのは――少し、怖い。
逃げ出したいほどではないけれど、背中がむず痒くて、落ち着かない。期待に応えられなかったらどうしよう、という不安が、嬉しさと同じくらいの速さで湧き上がってくる。
目立ちたくない。
静かに、平穏に、無難に、学院生活を送ろうと思っていたのに。
それでも――。
この世界で初めて、私自身を見てくれる大人がいる。
能力だけでなく、「クロエ・エルヴェール」という一人の生徒として。
そう思うと、不思議と胸の奥が温かくなった。
……うん。
少しくらいなら、頑張ってみてもいいかもしれない。




