(16)転生少女は、雷霆の公女の妹である
午後にはオリエンテーションがあり、学院施設の案内や講義システムの説明が行われる予定だ。
これから四年間に及ぶ学園生活が始まる――その実感が、ようやく胸の奥に湧き上がってきた。
緑のローブに身を包み、広大な講堂を後にする。
外へ出ると、どこまでも澄み渡る青空が広がっていた。
真新しい制服とローブを身にまとった新入生たちが、次々と講堂から出てくる光景は実に壮観だ。
「クロエ! こっちよ!」
聞き慣れた声に振り向く。
講堂の出口付近に、群青色のローブをまとった人影が見えた。春の陽光を浴びて、鮮やかな藍色の布地がきらめいている。
「フィオナお姉ちゃん!」
人混みをかき分けて駆け寄ると、フィオナお姉ちゃんは満面の笑みで両手を広げた。
緑のローブが多い中、その群青色はひときわ目を引く。
深みのある青は一つ上の学年の証――枝垂れ(カデュエル)クラスの象徴だ。
「入学おめでとう! さっそく会えてよかったわ!!」
温かな抱擁に包まれる。
肩をポンポンと叩かれながら、私の緑のローブをじっくりと眺められた。
「うん! 無事に入学できて安心したよ。それに、そのローブとっても綺麗だね。群青色、すごく似合ってる」
「ありがとう! 私も無事進級できてよかったわ。クロエと同じ緑のローブだったら、お姉ちゃんとしてちょっと恥ずかしいもの」
「むぅ……別に恥ずかしくないと思うけど……」
「そうね! 同じ色のローブで一緒に授業を受けるのも楽しそうだったかも!」
そう言って、フィオナお姉ちゃんはウィンクする。
再会を喜んでいると、周囲の空気が変わったことに気づいた。
ざわざわとした小さな波紋が、私たちを中心に広がっていく。
「おい、あれって【雷霆の公女】フィオナじゃないか?」
「本当だ……上級生も出場する大会で無双したって噂の……」
「え? じゃあ、あのちっこい子がエンシェントだっていう?」
「あんな子が、四属性を使えるのかよ……?」
ひそひそとした囁きが、次第に大きくなっていく。
振り返ると、多くの視線がこちらに集中していた。
緑のローブの新入生だけでなく、群青色のローブを着た上級生の姿も混じっている。
どうやらフィオナお姉ちゃんは、学園内でも相当な有名人らしい。
――うっ。
なるべく目立たないように、なんて思っていたけど……これは無理そうだ。
周囲が騒然としている中、フィオナお姉ちゃんはまったく気にする様子がない。
むしろ胸を張り、堂々と周囲を見渡している。
その態度があまりにも自然で、こうした状況が彼女にとっては日常茶飯事なのだと理解させられる。
「ふふーん! 私の可愛い妹が注目を集めるのは当然よね!」
自信満々に言い放つフィオナお姉ちゃんに、呆れ半分、安心半分の気持ちになる。
……そうだよね。
お貴族様なら、この程度の視線は気にならないのだろう。
「でも……みんな、こっち見てる……」
小さく呟きつつも、やはり視線が気になって仕方ない。
注目を浴びるという経験は、前世も含めてほとんどなかった。
子供の頃も特別目立つタイプではなかったし、前世ではごく普通の会社員。
注目されるどころか、むしろ忘れられる側の人間だったくらいだ。
「いいじゃない。そのうち慣れるわよ」
フィオナお姉ちゃんは、どこか楽しそうに微笑む。
……うーん。
本音を言えば、目立ちたくはないんだけどなぁ。
とはいえ、すでにこれだけ注目を集めてしまった以上、下手に逃げ回るのもかえって怪しまれそうだ。
私は諦めて、肩の力を抜くことにした。
「ところで、この後はどうするの?」
「一度教室に集まって、担任の先生からお話があるみたい」
「わかったわ! じゃあ終わった頃に、また会いましょうね」
別れ際まで周囲の視線は集まっていたが、フィオナお姉ちゃんは最後まで動じることはなかった。
むしろ、どこか誇らしげですらある。
……そういう姿勢、少しは見習わないとな。




