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転生少女は、未来からの手紙をもらう  作者: あどん


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(2)転生少女は、王子に会う

その日も、いつも通りに畑の世話をしていた時だった。


ゴトゴトゴト……重厚な蹄鉄の響きが、遠くから近づいてくる。振り返ると、村道に砂埃を巻き上げながら一台の立派な馬車が走ってきた。青銅の装飾が施された四頭立ての豪華な馬車で、御者は赤い制服を着ている。明らかにただ事ではない。


(まさか貴族? それとも軍の人間? こんな小さな村に一体……)


そう思っているうちに、馬車は私の家の前でピタリと止まった。漆黒の扉が開き、中から姿を現したのは――


月光のような金髪に、澄んだ青い瞳。絹のシャツに緋色のマントを羽織った、完璧な姿勢の少年だった。年の頃は十四、五歳といったところだろうか。


彼は私の姿を認めると、畑の中を悠然と歩いてくる。近づくにつれ、その顔立ちがあまりにも整いすぎていて、思わず息を呑む。まるで彫刻家が神に祈りながら削り出したかのような造形美。しかし、その表情には妙な緊張感があった。


「……あの」


少年は突然立ち止まり、私の顔をじっと見つめた。


「ああっ! 先生!! 本当に先生だ!」


先生?

周りを見渡すが、私以外に人はいない。私のことだろうか? そう思いながら首を傾げていると、その少年は私の前に跪き、こう言った。


「先生。お迎えにあがりました」

「??? え……えっと?」


頭の中で警鐘が鳴り響く。なぜ、こんな上級貴族と思しき少年が私なんかに跪いているのか、理解できない。そもそも「先生」とは誰のことだろう。私は教師経験なんてまったくない。


「あの、どちら様でしょうか? わたくしに教えられることなど、何も……」


とりあえず丁寧に対応しようとする。子供相手にいきなり切り捨てるような貴族は少ないそうだが……難癖をつけて突然連行するくらいはするらしい。できるだけ関わらない方がいいと聞いていた。どう言えば穏便に帰ってもらえるだろうか?


言葉を探していると、後ろに控えていた騎士の一人が、諭すように口を開いた。


「殿下。クロエ様が仰っていたことが本当でしたら、こちらのクロエ様とは初対面のはずです。まずはお名前を名乗られてはいかがでしょうか?」

「あぁ、そうか。先生に会えたのが嬉しくて、ついね。失礼しました」


少年は姿勢を正し、穏やかに名乗る。


「私はこの国の第一王子、ライゼル・ファム・ガリアと申します。突然押しかけてしまい申し訳ありません。しかし、先生と出会えたことに感謝いたします」


ええ!?

王子? 第一王子って言った!?

王族だったの!?


どうしていいかわからずオロオロしていると、王子はニコリと笑った。


「少し長い話になりますので、よろしければ座って話しませんか?」

「は……はひぃ……」


断れるはずもなく、私は渋々、家の中へ招き入れたのだった。


ーーー


「お粗末な家で申し訳ありませんが……」


私が恐る恐る差し出した木の椅子に、王子ライゼルが腰掛ける。その仕草さえ絵になる王子。私はテーブル越しに向かい合ったが、緊張で足が震えそうだった。


「そんなことは、まったく気になりませんよ」


王子は周囲を見渡すこともなく、真っ直ぐ私を見つめる。


「では、なぜ貴方が私の先生なのか、改めてお話ししますね」


王子はにこやかに話し始めた。


「未来の貴方が、私の魔法の先生なのです」

「???……はい?」


未来の私? 魔法の先生?

意味が分からない。


王子はカップを置き、目を輝かせて続けた。


「三年前の夏の夜――私にとって忘れられない日でした。当時、私は十二歳でしたが、眠れない夜があり、屋敷の外に出たんです。すると空に一筋の光が走り、目の前で弾けました。驚いていると、そこに現れたのが貴方だったのです!」

「え……私が?」

「そうです! ああ、失礼。『貴方』ですが、『貴方ではない』と言えばいいのでしょうか。もっと未来の貴方です。貴方は時空魔法を使い、この時代に現れたのです」

「時空魔法……?」

「はい。時間遡行や空間転移などが可能な魔法だそうです。先生がご自身で創り上げた魔法だと仰っていました」

「私が……魔法を創った?」


聞いたこともない話に戸惑っていると、王子はさらに続ける。


「まあ、それを知ったのは、ずいぶん後のことですが……とにかく、その時の私は、あまりの出来事に言葉を失いました。でも、すぐに先生はこう言ったのです。『わけあって、お前に魔法を教えてやる。断ることは許さない』と」

「はあ……」

「私は構いませんでした。その頃の私は、誰が先生になろうと関係ないと思っていましたから。しかし、突然現れた正体不明の人物が私の魔法の先生になることに、周囲は納得できず、相当揉めました」

「それは……そうでしょうねぇ……」


素性の分からない人物が王子の教育係になるなど、揉めないはずがない。


「しかし先生は実力で黙らせました。凄かったですよ! 雷を呼び寄せたり、嵐を起こしたり……!」

「そ、そうですか……」


冷や汗が止まらない。

未来の私、いったい何をしているの。


「最終的には父上が認めてくれたのです。それから先生は、色々と教えてくださいました。魔法や魔術理論はもちろん、剣術や戦略についても。どれも今まで教わってきたものとは、次元が違いすぎました。最初は厳しいばかりだと思っていましたが、徐々に打ち解けていきました。時には一緒に遊んだりもしましたし、訓練も楽しかったですよ」

「はぁ……」

「先生のお陰で、私の魔法は劇的に上達したんです。あの時はまだ基礎的な魔法しか使えなかったのですが……それが今では、火属性と風属性、回復魔法まで使えるようになったんです!」


興奮気味に語る王子。

それに対してますます困惑する私を見て、思うところがあったのか、後ろに控えていた騎士たちも口を開いた。


「ひとつの属性が使えれば十分なのに、複数属性を使える人間はそうそういません」

「しかも、属性魔法とは別に回復魔法まで使える者となると、ほとんどいないんですよ」

「ほぇ~」

「失礼ですが、先生は今、いくつの属性を使えるのですか?」

「火、水、風、土ですね……」


そう答えると、「おおぉ!」と感嘆の声が上がった。

別に隠すことでもないのでそのまま教えただけなのに、なんだか気恥ずかしい……。


「すでに四属性を使えるとは、さすが先生です!! 先生はこれから四大属性魔法のほかに、光や闇、回復魔法、さらには古代魔法まで習得し、そして時空魔法を創造していくのですね!! ああ、素晴らしい!!」

「そ……そうなんですか?」


そう言われたところで、今の私はそこそこ魔法が使えるだけの、ただの子供だ。

私は曖昧に相槌を打ちながら、冷や汗をかくしかなかった。


「先生の素晴らしいご指導のお陰で、私はここまで成長することができました。感謝してもしきれません」


王子の瞳には、はっきりと尊敬の色が浮かんでいる。

本当にそう思っているのだろうということが伝わってきて、悪い気はしない。……しないのだけど。


同時に、不安にもなる。

未来の私、本当に大丈夫か?


「そんな先生ですが、つい先日、消えてしまったのです。『もう十分だろう』と言って」

「え? 消えた?」

「はい。先生は、自分の役割はここまでだと言っていました……きっと何か目的があってこの時代に来て、私に魔法を教えてくれたのでしょう。その際、先生は自分が百年後の未来から来たとも教えてくれました」

「百年!?」


いやいやいや。

さすがに百年後だと、死んでないか?

もしかして、とんでもないおばあちゃんだったとか?


「先生の見た目は四十歳くらいでしたよ。先生のことですから、不死の魔法を創造したとか、時空魔法の応用で若返ったのかもしれません。ともかく、先生が消えてしまったのは、何かの目的が果たされたからなのでしょう。そして最後に、先生はこう言ったのです。この時代の私は、きっと呑気に暮らしていると」

「呑気って……」


……まあ、確かに今はのんびりしてるけど。


「才能はあるのだから、王都の魔法学院に放り込んで鍛え上げてくれ、と」

「ちょっ、待ってください! 王都の魔法学院!? 王都の学校といえば、お貴族様ばかりが通っていると聞いていますが? 私は平民です! そんな学院、怖くて行けません!!」

「ふふふ……先生も、きっと自分ならそう言うだろうと仰っていました」


王子は嬉しそうに微笑んだ。

先生の予言が当たったことが、純粋に嬉しいのだろう。

……むう。なんだか誘導されている気がして、釈然としない。


「でも、安心してください。入学手続きは、すでに終わっていますので」

「はい!?」


待ってほしい。

私は何ひとつ了承していないのだけれど。


王子は何も問題ないと言わんばかりに、満足げに頷いている。


「ああ、お金のことなら心配いりません。貴方が素晴らしい才能を持っていることは、未来の貴方が証明しています。今はその才能を眠らせているだけです。そんな人材を放っておくなど、この国の損失です。ですから、入学に必要な費用は国が負担します」

「はぁっ!? なんでまた!?」

「特例措置として認められました。まあ実際のところは、『優秀な人材は保護すべきだ』という建前ですが……私の私財の一部も使いますので、ご安心を」


王家に借りを作るとか、まったく「ご安心」できる状況じゃないんですけど。


「た、たしかに未来の私は、あなたの先生なのかもしれません。でも、今の私は多少魔法が使えるだけの子供です。どうして、そこまでしてくださるのですか?」

「理由は単純です。先生の最後のお願いだからです」

「……」

「先生からのお願いは……まあ、たくさんありましたが」


たくさんあったんかい!

と思わずツッコミたくなったが、ぐっと堪える。


「それでも、最後のお願いです。私に、先生の願いを叶えさせてください」


王子は深く頭を下げてきた。


「え、えーと……話を聞く限り、その先生は私と随分性格が違うように思えるのですが。根本的に、人違いの可能性は?」

「それこそ、あり得ません」


王子が自信満々に答えると、後ろに控えていた騎士の一人が前に出てきた。


「私も、ここに来るまでは半信半疑でした。しかし、貴方を見た瞬間、クロエ様に間違いないと確信しました。この場所を指定したのもクロエ様でしたし、顔立ちにも面影があります。そして、その黒髪に黒い瞳――そうそうお目にかかれるものではありません」

「たしかに、この辺りの国では黒髪に黒目は珍しいと聞いていますが……」

「それに、我々は殿下のお話を信じております。殿下の真面目なご性格をご存じであれば、疑う者などおりません」

「そうですか……」


そう言われても、まったく実感がないんですけど……。


ここで断ったら、王子の面子は丸潰れだろう。

しかし、魔法学院といえば貴族だらけのはず。

貴族との付き合いが始まると思うと……正直、気が重い。


「あ、先生から手紙を預かっています。この時代の自分に、つまり貴方に渡すようにと」

「手紙ですか?」

「はい。こちらです」


そう言って手渡された封筒を開くと、中から一枚の紙が現れた。

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