(13)転生少女は、新しい居場所に胸を高鳴らせる
春の暖かな日差しが降り注ぐ日。
いよいよ明日は入学式だ。それに先立ち、今日は入寮のため魔法学院へ向かう。
私は、自分のために新しく仕立てられた制服に身を包んだ。
淡い菫色を基調とした女子用の制服で、由緒ある魔法学院のものだけあり、素材も仕立ても申し分ない。襟や袖口には金糸の刺繍が施され、シンプルながらも品位が漂うデザインだ。
正直、八歳の私が着ると若干背伸びしている感は否めない。
はっきり言えば、コスプレしている小学生に見えなくもないが……まあ、これから成長するのだから問題ないだろう。
こうして真新しい制服に袖を通すと、自然と心が引き締まる。
「お似合いですよ」
「ありがとう。セシアも一緒に来てくれて助かるよ」
「これが私の役目ですので」
セシアは微笑みながら、私の後に続く。
魔法学院では、学生一人につき一名まで従者の同伴が許されている。使用人専用の宿舎も用意されているため、セシアも一緒に滞在できるのだ。彼女がいてくれるだけで、心強さがまるで違う。
「とても似合っているよ」
「アルフレッド公爵様、ありがとうございます」
「学院生活を楽しむといい。一つ上のクラスにはフィオナもいる。何かあれば、すぐに相談しなさい」
屋敷を出る際、アルフレッド公爵が見送ってくれた。
フィオナお姉ちゃんはすでに寮へ向かっているはずだ。学院で会う機会もきっとあるだろう。
私とセシアが馬車に乗り込むと、御者が鞭を入れる。
馬車は静かに動き出した。
窓越しに見える景色は、徐々に変わっていく。
王都の街並みが遠ざかり、緑豊かな郊外へ。森に囲まれた小道をしばらく進むと、突如として巨大な建物群が視界に飛び込んできた。
魔法学院だ。
漆黒の石材で建てられた荘厳な建物が連なり、その中心には天を突くような塔が聳え立っている。学生寮の多くも、この広大な敷地内に配置されている。
私たちの乗った馬車は正門をくぐり、やがて一つの建物の前で停車した。
周囲には、同じように入寮手続きに訪れた学生たちの姿が見える。
皆、緊張した面持ちだ。
私自身も多少は緊張している――が、前世の記憶による経験値のおかげで、どうにか平静を保てている……はず。
「ここが、新しいおうちね……」
「こちらは寮棟『翡翠館』と呼ばれております。主に上流貴族や成績優秀者向けの住居です」
「え゛!? わ、私がここでいいの!?」
「問題ありません。クロエ様は現在エルヴェール公爵家のご令嬢ですし、成績面でも申し分ないでしょう」
セシアは淡々と答える。
理屈は分かるが、元平民としてはどうしても恐縮してしまう。
案内の指示に従い、セシアと共に廊下を進む。
広い廊下には等間隔にランプが灯され、薄暗がりでも見通しが良い。途中、同じ新入生と思しき生徒たちとすれ違い、軽く挨拶を交わすが、見知った顔はいなかった。
「クロエ様のお部屋はこちらです」
案内係が扉の前で立ち止まり、鍵を手渡してくる。
扉を開けた瞬間、目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。
「わぁ……」
一人部屋とは思えないほど広い。
必要な家具はすべて備え付けられ、床には柔らかな絨毯。窓際には机と椅子が置かれ、学習環境も整っている。さらに奥にはベッドルームがあり、完全にプライベートな空間が確保されていた。
「むぅ……こんなに広い部屋、初めてかも」
「八歳のクロエ様には、少々広すぎますね……」
セシアが苦笑交じりに言う。
確かに、幼女が暮らすには広すぎる。下手をすると、夜は少し寂しくなるかもしれない。
「この部屋でしたら使用人専用宿舎も近いですし、できる限り側でお仕えします」
「ほんと? よろしくね。セシアが近くにいると安心するよ」
「お任せくださいませ」
セシアは軽く膝を折り、礼を取った。
前世の記憶があっても、平民出身の私にとって学園生活は未知の連続だ。貴族社会の暗黙のルールなど、分からないことばかりなのだから。
「お荷物はすでに使用人が運んでおります。明日は入学式ですので、今夜は早めにお休みください」
「うん、分かってる。明日から新生活の始まりだね」
窓の外には、夕焼けに染まる空が広がっていた。
明日の入学式を思うと、胸が自然と高鳴ってくる。




