(10)転生少女は、やりすぎたと反省している(たぶん)
「ふぅ……何とか終わった〜」
「おつかれさまでした」
私は大きく伸びをして、安堵の溜息をついた。
試験終了まで待っていてくれたセシアが、いつものように穏やかな微笑みを向けてくる。
「いやー、校舎の壁に穴を開けちゃってさぁ……」
「どうしたら、そのような事態になるのですか?」
「ちょっとやりすぎちゃった。てへ」
「『てへ』で済む話ではないと思いますが」
「うぅ……弁償しなきゃだよね」
「試験中の事故であれば、学院側が対応するでしょう。仮に必要があれば、公爵家が支払うことになるかと」
「また迷惑かけちゃった……」
「迷惑だなどと、思われてはいないでしょう。どうしても気に病まれるのでしたら、フィオナお嬢様とご一緒にお風呂にでも入られては?」
「そんなんでいいの!?」
うーん……まあ、考えても仕方ないか。
そんな話をしながら校門をくぐり、表通りへ出ると、カイルくんとアリサさんが待っていてくれた。互いの健闘を称え合う。
「クロエ様の魔法、すごかったです!! 合格間違いなしですわよね。ね? カイル!」
「クロエ嬢は推薦枠だから、どのみち合格だよ。まあ、あれなら推薦枠じゃなくても通ったと思うけどね」
「いえ……私の場合、筆記の方が怪しかったので、推薦枠で良かったです……」
「僕は実技の方が怪しかったから、推薦枠で助かったよ。でも、これからが大変だなぁ……」
ん?
大変? 入学が決まっているのに?
「え? どういうこと?」
「入学してからの話だよ。実力をつけないと進級もできないし、最悪、退学になることもあるんだ」
げっ!?
そうなんだ……。禁書閲覧許可を得るためにも、魔法学院の卒業は必須なのに。入学前から不安しかない。
「そういうアリサは、試験大丈夫だったの?」
「もちろんですわ! ご覧になっていなかったの? ウィッチであることを示しましたもの。問題ありません」
「そっちの心配じゃないよ。僕が言ってるのは筆記の方」
「も、もちろん大丈夫ですわよ! カイルが教えてくださったのですもの」
「ホントに?」
「ホントですわよ!」
胸を張るアリサさんだが、どこか視線が泳いでいる。
……もしかして、勉強が苦手なタイプ?
カイルくんは「はあ……」と深く溜息をついた。
「魔法学院は実技重視だけど、筆記も無視できないからね……」
「……」
「アリサ?」
「は、はい?」
「不合格だったら、また来年だよ」
「うう……」
アリサさんは見る見るうちに顔色を失った。
この二人、案外いいコンビなのかもしれない。
そんなやり取りをしていると、ギルバート・ドンケルハイマー男爵が目の前を通り過ぎた。
こちらに気づいた瞬間、ギョッと目を見開き、まるで化け物を見るような視線を向けてくる。そして顔をしかめると、足早に立ち去っていった。
……ほっ。
妙に絡まれるよりは、無視してくれた方がありがたい。
ただ、その後ろにいた取り巻きの人たちから、恨みがましい視線を感じたけれど……気にしない、気にしない。
「僕たちは一度、領地へ戻ります。クロエ嬢とは、一か月後にまたお会いすることになるでしょう」
「私も、きっと合格していますわ! 一か月後、お会いしましょう!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
二人と別れを告げ、私は馬車に乗り込んだ。
帰ったらフィオナお姉ちゃんに結果を報告しなきゃ。きっと喜んでくれるはず。
……でも、今日はさすがに疲れた。
馬車の揺れが心地よく、頭の中がゆっくりと揺さぶられる。眠気に抗いながら、必死に瞼を持ち上げていたが――。
一か月後は入学式。
そして、寮生活の始まりだ。
そう思ったところで、限界が来た。
私はセシアの方へ体重を預けるように、ゆっくりと崩れ落ちる。柔らかなローブに顔を埋めると、安心感に包まれた。ほのかに甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる。
「おやすみなさいませ」
耳元で囁かれる声。
――ああ……フィオナお姉様に、報告するの忘れちゃうかも……。
そんなことを考えながら、私の意識は静かに、深い闇へと沈んでいった。




