不滅の奴隷
運命というものは、人間にとって鎖のようなものである。運命という決まった結果に繋がれた人間たちは、足掻き苦しみ、人生人としての生を全うするものだ。人生は選択肢の連続だというが、その選択肢も運命の中では選択肢ではない、なぜならば選択肢の中で選択するものは、導き出すものは運命の中では決定しているのだから。生まれた時の場所も環境も、それからの人生の中での体験も全ては運命の中では決定事項なのである。
そして今回の主人公のこの少年、不破創路はその運命というものに翻弄されていく。この少年の運命も、物語も最初から決まっていたのかもしれない。これから体験することは最初から決まっていたのかもしれない。彼も運命という鎖に繋がれた人間の一人なのだから。
七月二十五日
ゆらゆらと陽炎がたち揺れる景色を教室の窓から眺める少年。不破は高校生活二年目の夏休み前最後の授業を受けていた。明日からのスケジュールを考えていたが、窓から見える景色を思い出し、外出することは得策ではないことに気付いた。そして隣の席に向けて、「なぁ、明日から夏休みだけどさ予定とか決めてる?」
「決めようとしたんだけどよ、外があんなに暑いとなると家の中で過ごすのが一番じゃねぇか?」自分以外の考えを求めたが、想像通りの答えだった。どうしたものかと考えていたところで、「おい!不破!お前話し聞いているのか!!」歴史の先生からの激が飛んできた。明日からのスケジュールは決められそうになさそうだ。どうしたものかと考えながら、机に顔を落とし意識と共に歴史の授業は遠くの彼方へと暗闇に行ってしまった。
場面は変わり、一人の少女が駆け寄ってきた。彼女は、黄仙水花唯一の女友達であり、唯一の幼なじみである。
「ねぇねぇ!明日からの予定決めてる?私さ、買い物行きたいからさ付いてきてよ!」突然近づいて来たと思ったら、人の予定を聞いて答えを待たず明日の予定を決められてしまった。断ることなどできないのだ。なぜなら……
七月二十六日
インターホンの音で目を覚まし、自分の部屋の窓から玄関を見ると彼女はいた。ため息をつきながら外出の支度をし、外に出る。
「遅いよー、何してたの?まさか今まで寝てたの?」「ごめんごめん、なんか奢るから許してくれよ。」といつものやりとりをしながら目的地へ。
ショッピングモールで彼女の買い物に付き合い、ひと段落がつきフードコーナーへ。「何味のアイス?ちょっと頂戴よー」「なんでだよ、アイス奢ってやったんだからそれで我慢しろよー。それにお前の一口でかいんだよ!」「うっさい!いただき!!」一瞬の隙をつき不破のアイスを奪い取る。
「うーん!美味しい!!」体全体を使いながらおいしさを表そうとしている彼女を見ながら、残り少なくなったアイスを虚しく食べるのであった。
時間はあっという間に過ぎて、夜も近づいてきた帰り道。いつものように彼女の家まで送るため自宅に向かう道とは違う道を歩く。「いつも、ありがとね、送ってくれて。」「なんだよ突然、らしくないな。」いつもとは声色が違ってどことなく色気のような女性ならではの雰囲気の声だった。「ねぇ、創路はさ、彼女とか作る気ないの?」不破の鼓動は速くなる、心構えはしていた。いつかは来る瞬間。そう、彼女に告白する時を。不破は何年も前から彼女、黄仙水花を好きだったのだ。しかし、幼なじみからの恋は叶わないという都市伝説を聞いた時から躊躇してあと一歩の場面を何度も無駄にした。自分の思いを伝えることが出来ず、その後何度も後悔して自分の心の弱さに失望するのだった。だから……
(今回こそは!)
その時だった。彼女が目の前から消えたのだ。訳がわからなかった。視界から彼女の存在は消えてしまった。周りを確認するとそこには血塗れの軽自動車があった。自分の視界にあるその光景を認めるわけにはいかなかった。彼女が轢かれたなんて信じるわけにはいかなかった。
目の前が真っ暗になった。色鮮やかだったものが漆黒に染まってしまった。
気づいた時には、病院にいた。水花の両親は泣き崩れていた。その光景を見て、なぜ自分ではないのか、なんで水花なんだ、申し訳なかった水花の両親になんて言葉をかければいいのかわからなかった。
水花は即死だった。救急車が来たときには死んでいたのだ。そして軽自動車を運転していた人間は心不全で死んでいた。怒りをぶつける相手もいない。この悲しみも、恨みも、どこにぶつければいいのか、だが、そんなことはどうでもよかった。水花は死んでしまったのだ。想い人はいなくなってしまった。そしてある思いが頭に浮かんだ。思考はそれだけに使っていた。
馬鹿馬鹿しいかもしれない、無理だとわかっている。不可能だと、絶対に叶わない願いということを。
過去に戻りたい。
彼女の死を受け止めることはできない。だから過去に戻りたい。過去に戻れるなら、やり直せるなら、書き換えれるのなら、覆せるのなら、無かったことにできるのなら!生きている中で初めて不破が決意した瞬間だったのかもしれない。
「なんだってやってやる」小さく言葉にした。
目を閉じ、彼女との思い出を振り返りながら彼女の表情やしぐさが不破に力を与えた。目に見えないが確かに力を与えられた感触があった。
少年は、立ち上がり己の決意を想いを確認し今一度、宣言するのだった。
「アイツを、水花を救えるのなら俺は、何だってやってやる!!」
少年の咆哮と共に、
目の前が真っ白になった。
七月二十五日
ゆらゆらと陽炎がたち揺れる景色を教室の窓から眺め……
「あれ?」頭が疑問で埋め尽くされた。自分の記憶が正しければこの光景は昨日見たはずのものだった。不破創路は過去に戻っていたのだ。はっ、と思いついて黄仙水花の席を確認する。
そこには黄仙水花が存在していた。彼女を確認した途端、自然と涙が頬を伝っていた。「おい不破、何泣いてんだよ。」隣の席からの声で、自分が涙を流していることに気付いた。「はぁ?泣いてねぇよ、目にゴミが入っただけだ!それに泣くような悲しいことなんてねぇよ。それより嬉しいことがあったんだ。」「なんだよ?」という問いかけに、彼女の座っている席の方向を向いて、涙を拭って笑顔で、
「夏休みが始まるだろ?」
「おい!不破!お前話し聞いているのか!!」歴史の先生からの激が飛んできた。忘れていた、今の授業が私語に厳しい、歴史の授業だということに。
(昨日と同じこと言ってる!本当に過去に戻ったのか!)まさか授業中の私語の注意からタイムスリップを感じるとは思わなかった。
黒板を見ると昨日見たものと、全く同じことが板書されていた。
そこで不破は気づいた、(俺は記憶してる、過去に戻っていることを覚えてる!これなら水花を救える!)
希望の光が見えた。黄仙水花を救える喜び、一筋の光だ。
地獄のような絶望的光景が広がる世界に垂らされた蜘蛛の糸のような一筋の光を不破は握ったのだ。
不破にとって、神様はいるのかも知れないと思った瞬間だった。
七月二十六日
黄仙水花が目の前で事故にあった日。不破はあの時の光景を思い出し眠れなかった。それは前回つまり体験上一回目の七月二十五日のように歴史の授業中に居眠りをしてしまったせいなのかもしれない。別に理由があるとしたら今日が七月二十六日だからであろう。
不破は外出の支度をする。前回と同じように、黄仙からの申し出で買い物に行くのだ、不破の体験上一回目の七月二十六日のように、ショッピングモールに行き、買い物に付き合い、フードコートでアイスを食べ、そして、帰り道で事故に遭う。事故を防ぐため。
彼は考えていた。どうすれば彼女を救えるのか。これは推測だが、昨日の彼女の申し出を断っても、彼女が一人で買い物に行き、前回と同じ行動をしたとすると同じ結果が残ると考え、不破は申し出を受け入れた。
不破は彼女が待つであろう不破の家の玄関で彼女を前もって待つことにした。いつものように彼女を待たせるのは気が引けたからだ。だが、いつものやりとりができなかったのは少し寂しい気もした。
前回の七月二十六日のように、買い物の荷物持ちとして付き合い、ひと段落つきフードコートへ向かい、アイスの店へ行き前回と同じように黄仙の大きな一口攻撃により大部分のアイスを失い。体全体を使い美味しさを表現している黄仙を他所に虚しく不破はアイスを食べる。
前回と全く同じ事をしているが、不破は嬉しかった。彼女は存在している。隣にいる、笑ってる、一緒に思い出を共有している。
いつもはその場その場で精一杯で、感じなかったが大切な人と過ごすことはこんなにも素晴らしいものだったのかと痛感した。
帰り道、
「少し遠回りして帰らないか?」「どうしたの急に?」突然の提案に不自然さを感じた水花は不破の顔を覗く。目が少し合った瞬間、顔を逸らす不破。
「いや、もう少し水花と話したいし……いいだろ?買い物付き合ったし……」「ふぅん、いいけど?でも創路、顔色なんか悪いよ?大丈夫?」「夏バテかなー?アハハハ」自分は上手く笑えてるだろうか?この帰り道の場面に時が進むにつれて、あの光景がフラッシュバックされチラつく絶望の瞬間。
あの事故が起こった道を行かずに、少し遠回りの道を使い水花の家に着けば未来は変わるはず。不破はその事で頭がいっぱいだった遠くから彼女のなんでもない会話が聞こえる。それだけで不破の心は崩れずにいれた。
しかし、
彼女は、黄仙水花は死んだ。
一瞬の出来事だった。並んで歩いていた彼女が不破を追い越し、振り向き、「ねぇ?聞いてる?私の話。」「聞いてるよ。」と、会話を続けようとした時だった。彼女は軽自動車に轢かれたのだ。前回と同じ軽自動車に……
不破はこの瞬間を知っている。今過ぎ去ろうとするこの瞬間をこの時を。不破の心を突き刺すこの光景。
なぜなんだ?なぜ道を変えて前回とは違う道を選んだはずなのに、結果が同じなのだ?自問自答を繰り返すことしか不破にはできなかった。病院の椅子に座り込み、絶望するしかなかった、彼女を救うため願って過去に戻ったはずなのに、結果は変わらなかった。
そして再びの発光。
七月二十五日
ゆらゆらと陽炎がたち揺れる景色を教室の……
「過去に戻ったのか?」そう、不破は過去に戻ったのだ。
そして不破はこの過去に戻り、黄仙水花を救えない結果を幾千億の絶望を体験するのだった。
何千何億回もの過去から救われない結果のループを繰り返し、不破の自我は壊れつつあった。眼には光が消えかけ、少しずつ顔から生気が減り、頭の中には彼女を救うにはどうすればいいのかという疑問で埋め尽くされていた。
明日の予定を、黄仙水花とたて、家に帰宅した不破。
夜、自分の部屋のベットに横たわり、考えていた。
数えきれないループの中でわかったことがある。黄仙水花は、必ず同じ軽自動車に轢かれて死亡する、そして軽自動車の運転手も死亡する。帰り道の道を変えても同じ時刻になると轢かれて死亡する。
「どうすれば、助けれるんだよ。なんで同じ結果しか出ないんだ。まるで……」言いたくなかった。言葉にしたくなかった。そんな悲しいことがあっていいものなのか?不破は感じ取っていた。何千何億という体験の中で少しずつだったが、確実に感じ取っていたのだ。同じ結果しか起こらないということの意味を。だが、感じ取って理解することは絶対に拒否しなければならないと自然と理解している。それを理解してしまったら自分は、いや、彼女は……
救われない。
「まるで…こうなる事が運命のようじゃねぇか…」そう呟くと、視界が闇に囚われていくのを感じた。
運命、人間の意志に関わらず、身に降り注ぐ幸福と絶望。巡ってくる幸運や不運。人間の意志を越えて幸福や不幸を与える力。そう人間の意志など踏みにじってくるのだ。
不破は闇の中にいた、全てが漆黒なのだ。
「ここは?」周りを確認し、見渡し自分がどこにいるのか、ここはどこなのか疑問で頭が埋め尽くされていたところに。
「どうだね?ループしてみて?」声が聞こえてきた。頭の中に直接声をかけているみたいだった。さっきまで人のいる感覚がなかった所に人が立っていた。黒いスーツの中にワイシャツにネクタイを締め、まるでサラリーマンみたいだった。
「誰なんだ?アンタは?」「質問に対して質問で返すのは良くないと思うぞ?まぁ初対面だし、名を名乗るは筋ってもんか。」男は一人で納得して、「俺は時の番人だ。いや管理人かな?名前なんていうものはない。」「時の番人?管理人?」「少年、君に過去へ戻れる力を与えたのは私だ。」
「神様かなんかなのか?アンタは?」「神様か、いや私は全知全能ではないだから神ではない。私は時という概念のみの担当だ。」「さっき言っていた過去へ戻れる力を与えたのが本当にアンタなら、何で俺に与えた?」「うーん、分からん暇つぶしみたいなものだ。」
「時を操れるなら、あいつを助けてくれよ!!頼む!」「それはできない、直接私が干渉する事は許されていないんだ。」「じゃあどうすればいいんだよ俺は!!」
時の番人は冷たくこう告げた、「さっき少年が言っていたじゃないか、運命と……」
「俺には救えないってことなのか?」「運命だ、人の意志など関係ないのだ。必ず彼女は死ぬ。」「じゃあ何で、過去に戻る力を俺に与えたんだよ!!!くそったれがぁ!!」
「だが、少年君はその力で永遠に彼女と生きていけるじゃないか。ループし続ければ彼女と生きていけるじゃないか。」
「永遠とあいつの死を見るのはごめんだ。俺は変えてみせる。」「彼女の死は絶対だぞ?」それでも不破は諦めない。時を操るという人間の域を越えている彼の言っていることは本当の事かもしれない、それでも不破は認めるわけにはいかない。
「君は頑張ったよ。あのループの中で常人なら精神を崩壊させていただろう。」「どういうことだ。」「簡単なことだ、大切なものを何度も失う経験を君はしているんだよ。常人なら精神を病み諦める。」「まるで俺が人間じゃないみたいな事を言うな。」睨みながら言い放つ。
「いや、本当に感心しているんだ。君の意志は決意は本当に強い。」「当たり前だろ。大切なモンがかかってんだ。必死なんだよ。」「必死か、必ず死ぬか…縁起が悪いな。」と小さく呟いた。続けて「運ぶ命、運ばれる命か。」「さっきから何ぶつぶつ言ってんだ。」「やはり人間の命は、神によって操作されているのかもしれないな。」闇の空間で上も下もない世界で彼は、見上げながらそう告げた。
「少年、人間というものは運命に縛られているのだ、まるで鎖なんだ、人間は運命という鎖に縛られた奴隷なんだ。人生は選択肢の連続なんて言うが、その選択肢すら運命の中で決められている。時を戻したからといって運命は変わらない。道を変えたからといって結果は変わらない。」諭すように彼は言った。
「アンタは全知全能の神様じゃないんだろ。全てを知ってるようなことを言うんじゃねぇよ。」「少年、君は面白い…さっきまで死んでいた眼に光がさしてるよ。死んでいた心に火が灯っているよ。本当は今この場で力を返して貰おうと思っていたが、気が変わった君の力を見せてもらおう……」彼は笑顔でそう告げ、光と共に消えた。
気がつくと自分の部屋にいた。窓からは、満ちた月の光が不破を照らしていた。あの闇の空間から帰ってきた。過去へ戻る力とともに、黄仙水花の運命を変えるためにまだ誰も見ぬ世界へ
どうも最絵留五味です。
かなり前に書いたものです。どういった想いで書いたのかは忘れましたが。この作品ことは覚えていました。
皆さんにとって運命とはどういうものでしょうか?自分にとってはかなりマイナスのイメージがあります。それでも悲観せず生きて行かなければいけない世界だと私はおもいます。
またどこかで。




