058「フィアライト侯爵家再び(2)」
「ところでアナスタシアちゃん、今日はケチャップはどのくらい持ってきているのかな?」
カイゼルさんがそんなことを聞いてきた。
恐らく自分でもケチャップをいろいろ試したいと思っているのだろう。
前回会った時カイゼルさんが食通であることはわかっていたのでちゃんとその分も用意していた。抜かりはない。
「はい。今回ケチャップの入ったこの瓶は今お渡ししたもの含めて10個ほど用意致しました」
と言って俺はケチャップの入った残りの瓶をテーブルに出す。
「おお!」
その瓶を見てテンションが爆上がりするカイゼルさん。
「この瓶にはケチャップが100グラム入っておりますので現在ここには合計1キロのケチャップがあります。貴族用ポテトフライに添えるケチャップは1箱に付き大さじ2杯の40グラムを想定しております」
「40グラム? それって少なくないかい?」
カイゼルさんが40グラムという数字に眉をひそめる。
「はい、少ないです。ですがそれが《《狙い》》です」
「⋯⋯《《狙い》》?」
「はい。ケチャップをあえてちょっと物足りない分の量にすることでケチャップ自体の付加価値を上げるのが狙いです」
「付加価値?」
「はい。そうすることでケチャップに対しての《《購買意欲》》を刺激することができるかな〜と」
「っ?! な、なるほど⋯⋯。ケチャップをあえて少なく用意することでケチャップ自体の興味を上げさせるというわけか⋯⋯」
「ア、アナスタシアちゃん⋯⋯本当に9歳?」
俺の話を聞いたカイゼルさんは驚きながらも俺の言っていることを完全に理解した様子。またセリーナさんは9歳である俺の発言にポカーンと終始驚きと戸惑いの表情を浮かべていた。
あ、中身は元30歳の独身クソニートです。
「とりあえず1キロは用意してあるので販売分をどれだけにするかはカイゼルさんにおまかせ致します」
「ありがとう! ぜひそうさせてもらうよ!」
カイゼルさん、うっきうきである。
まー貴族用ポテトフライはフィアライト商会での販売となるので販売方法はカイゼルさんに一任しており、そういったこともあるためカイゼルさんには気持ちよく販売して欲しいと思っている
あともっと言えば彼の『食通趣味』を活かしたケチャップの商品開発も進めてくれればという打算もある。
計算通り(きりっ)。
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その後、カイゼルさんとじゃがいもとトマトの製造についての話を進めていく。
「さて、じゃがいもとケチャップの今後についてだがアナスタシアちゃんはどうしたいと思っているかい?」
「私としてはできるだけ早くじゃがいもとケチャップの量産体制を作れればと思っています」
「量産体制⋯⋯つまり工場を用意したいということかな?」
「はい。ですが⋯⋯」
「ん?」
「まだどれだけ売れるかわからないものを今すぐ量産するというのはさすがに無理なのは承知しています。ですのでしばらくはこのままでいいのかなと」
「⋯⋯なるほど」
本音としては、すぐにでも量産体制を築いたほうがいいと思っている。なぜなら前世の知識でポテトフライもケチャップも《《当たる》》とわかっているから。
しかし、そんなことを説明するなどできるわけがない。当たり前だ。
となれば実績を出すしかないのである。誰だって儲かるかどうかわからないものに資金を投入するなんてしないだろう?
「ただ、ケチャップについては調味料としての用途があるため手作業でもある程度の量は確保できるかと思っています。それも踏まえて販売用としてまずは今回のこの100グラムの瓶詰めで販売してみてはいかがでしょうか?」
「「なるほど!」」
カイゼルさんとセリーナさんにケチャップの販売方法の提案をしてみた。二人の反応は良さそうだ。
手応えを感じた俺はさらにケチャップの特性についての話を畳み掛ける。
「またケチャップは防腐作用のある塩や酢が入っているので瓶詰めであれば開封後1ヶ月くらいは持つかと思いますが⋯⋯」
「えっ?! 1ヶ月も! す、すごい⋯⋯!」
そこで感嘆の声を上げたのはセリーナさん。
「あ、でも、できれば1週間くらいで使い切るほうが安全かと思います。特に商品として販売するなら、えっと⋯⋯例えば容器に『消費期限』という『安全に食べるための目安』を書くのもいいかと思います」
「しょ、消費期限っ!? なんと画期的な⋯⋯」
カイゼルさんが『消費期限』の有用さに驚いた様子。
「こ、これが9歳の少女の発想だと!? やはりアナスタシアちゃんは⋯⋯(ボソ)」
この時、カイゼルさんの俺を見る目の色が鋭いものに変わったのだがこの時の俺は気づかないでいた。




