057「フィアライト侯爵家再び(1)」
「「ようこそ、アナスタシアちゃん!」」
「ど、どうも、先日ぶり⋯⋯です」
俺らが住む領都スフィンベルクを治めるフィアライト侯爵家へやってきた。
領主のカイゼルさんと奥さんのセリーナさんに熱烈歓迎された。もはや『孫』のような歓迎ぶりである。
「ところで早速だが今日はアナスタシアちゃんに⋯⋯」
「父上。申し訳ありませんが今日はすぐに本題に入らせていただきます」
カイゼルさんが俺に構おうとしたタイミングでカイゼルさんの息子である孤児院長⋯⋯クロフォードさんが「させねーよ?」と言わんばかりの先手を打つ。
それは先日のように領主夫妻との話が長引けばアナスタシアが何かやらかすだろう『前提』での行動だった。
孤児院長の覚悟が伝わると同時に俺への信頼感ゼロがよく伝わった。ムキー!
「では、早速ですが⋯⋯」
先手を打って場の支配に成功した孤児院長が話を始める。
「先日、アナが話していた『ケチャップ』の件ですが⋯⋯」
「ケチャップ? ああ、たしか『赤い悪魔』と言われている⋯⋯」
「はい。『赤い悪魔』と呼ばれ恐れられている『トマト』。その食材で作られた加工品です。こちらになります」
そういって、孤児院長がカイゼルさんに『瓶詰め』したケチャップを出した。
「「おおっ?!」」
領主夫妻がケチャップを見て思わず声を上げる。
「ほ、本当に、真っ赤⋯⋯なのですね⋯⋯」
奥さんのセリーナさんがケチャップの鮮やかな赤を見て顔を青ざめる。
この世界ではトマトは『赤い悪魔』と呼ばれ恐れられているのだが、それはこの『鮮やかな赤』が血の色や悪魔を連想させるためらしい。
なのでセリーナさんの反応は至極一般的なのだ。
しかしそんな中、
「おお! これがケチャップ⋯⋯! 何とも鮮やかな赤じゃないか!!」
セリーナさんとは対照的にケチャップを見てテンションを上げたのはカイゼルさん。
「これはトマトをすり潰してペースト状にしただけ? いやこれは恐らく中に色々と調味料を入れているんだな? そういえば以前アナスタシアちゃんが砂糖を入れると言ってたがそれだけではないようだな。あとこれはバターのようにパンに塗って食べるのか? いやペースト状であれば料理に混ぜる使い方もできるのか⋯⋯」
カイゼルさんは恐れるどころかケチャップを食い入るように見てはその正体を暴こうとしたり、ケチャップの使用方法について色々と想像を膨らませていた。
さすが『食通』。実にたくましい!
「このトマトは以前伝えたとおり南門の森に群生していましたので、そこからいくつか採ってきて調理しました。あとその際に取れた『種』を孤児院の畑に蒔きました」
カイゼルさんがケチャップを食い入るように見ている横で孤児院長がざっとこれまでの説明をする。
「そして、このケチャップを添えたのがこちらの『貴族用ポテトフライ』になります」
そういって孤児院長が二人に見せたのは『幅30センチ・奥行き20センチ』の紙のプレートだった。
ちなみに大きさの目安は『13インチノートPCのM◯cbook』を参考にしました(案件じゃないよ)。
「「これは?」」
「これは貴族用ポテトフライで使用する紙のプレートとなります」
「「紙プレート?」」
そう、貴族用ポテトフライに関して俺と孤児院長はいろいろと考えた。というのもポテトフライだけなら紙袋に入れるだけでいいが、そこにケチャップを添えて売るとなるとそう単純な話ではなくなる。
というのも、前世のファーストフード店でよく使われていたケチャップを入れるあの『プラスチックの容器や蓋』が存在しないのだ。ていうか『プラスチック』自体存在していない。
そこで考えたのが『紙プレート』というものだった。
「これは文字通り、材質は『紙』で作った皿のようなものです」
「紙で作ったお皿ねぇ⋯⋯」
「ん? クロ、この二つの大小の窪みは何だ?」
カイゼルさんが早速紙プレートの形状についての質問をする。
「はい。この大きな窪みにはポテトフライを入れ、小さいこの窪みにはケチャップを入れます」
「む? ということは『貴族用ポテトフライ』はこの紙プレートのまま販売するということか?」
「はい、そうです。注文が入ってから調理し、出来上がったポテトフライを紙プレートに装ったあとケチャップを添え紙プレートにこの蓋をしてお渡しするという感じです」
と、孤児院長が実演しながら説明する。
「なるほど。これなら揚げたてのポテトフライが冷めることもなく、且つケチャップも溢さずに持って帰れるということか」
「これ良いと思うわ!」
孤児院長の説明を聞いた二人から色よい感触を示した。しかし、
「ただ貴族に売るとなると、この見た目では少し『華やかさ』が足りんな」
と、カイゼルさんから『貴族向け商品』という部分での指摘が入る。
しかしこれは孤児院長も俺も想定済みだ。
「ええ、承知しております。その上で一旦ベースの紙プレートをお見せした次第です。そこは父上のほうで色々と《《よしなに》》していただければと」
「フッ、なるほど。すでに想定済みだったか。わかった、装飾はまかせろ」
ということで『貴族用ポテトフライ』の販売方法含めた商談はあっさりと成立した。




