056「神の御力(3)」
一通り、現状に絶望した俺のことなどまるで気にもしていないのか、孤児院長が「とりまそれもう一度やってみ?」みたいなことを言ってきた。
一応、孤児院長に「心がボロボロで辛いのですが⋯⋯」と訴えてみたところ、「別にいいけど自分の力知らないことってそれ一番のリスクやで?」的なことを言われた。
正論である。『ど』の付く正論である。
なるほど。これが『ぐう聖』というやつか。
「⋯⋯わかりました。では隣のじゃがいもで試してみます」
早々に分からせられたメスガキでもない俺は隣のじゃがいも畑に行き、さっきと同じように両手で土に触れじゃがいもの成長を願う。
(じゃがいも、じゃがいも、じゃがいもさん! いますぐ収穫できるくらい大きくな〜れ!)
すると、トマトと同じようににょきにょきにょき〜と芽が出て一気に花が開くまで成長を遂げた。
「圧巻⋯⋯だな」
「圧巻⋯⋯ですね」
目の前のじゃがいもの異常な成長スピードに孤児院長と俺はデジャブの如く呆然と佇む。
昨日までただの耕した土だけの光景だったこの場所は、今ではじゃがいもとトマトの花や実が立派に育っていた。
「これ⋯⋯どうしましょう?」
「フン、もはやどうすることもできまい? まったく君ってやつはどうしてこう毎度毎度毎度毎度不用意に突拍子も無いことを次々と⋯⋯」
「い、いやいやいや⋯⋯! これ不可抗力! まったくの不可抗力じゃないですかっ?!」
「黙りなさい。今回のことを抜きにしても君はあまりに不用意な発言といい、行動が多すぎる。もう少し『自重』という言葉をしっかり学ぶように!」
「そ、そんなぁ⋯⋯」
ま、まさか「自重しろ」などと言われるとは。
正直『俺なんかやっちゃいました系主人公』など目指していないし、何なら『否定派』である俺にとって孤児院長のその言葉は大変遺憾であった。
ち、ちくしょー!
その後、夜中ということもあったので俺たちは孤児院長室へと移動した。
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「さてアナスタシア、早速君の力の確認をしたいのだが⋯⋯」
「孤児院長、眠いでーす!」
「さもありなん」
どうやら俺だけでなく孤児院長も《《おねむ》》な様子。
実際明日は10時からではあるが午前中にフィアライト侯爵家に行かないといけないためそれなりの睡眠は必要⋯⋯という話になった。
「とはいえ、最優先事項として君の力の詳細を知る必要があるのだが、いかんせん今日は難しいということもわかる。ということでアナスタシア⋯⋯」
「はい?」
「君の話を聞いた限り、君の『願い』『祈り』のような行為がこの力のトリガーになっているのは間違いないだろう。さらにいえば『成長させたい対象の植物』を指定して言葉にするというのも必要と思われる」
「おお!」
すごい孤児院長! 俺のちょっとした説明でここまで把握しているとは!
「なので、正直明日フィアライト侯爵家に行ったところで神の御力が発動することはないだろう⋯⋯⋯⋯君がそこで願ったり祈ったりしなければな」
「はっはっは! そんなわけないじゃないですかー!」
おや? 何やらフラグが立ったような?
「おいアナスタシア⋯⋯」
「はい?」
「今なにかよからなぬことを考えなかったか?」
「い、いいえ! そんなことは⋯⋯!」
「本当か?」
「ほ、本当ですぅぅ! だってそんなことしても私にとってデメリットはあってもメリットは無いんですからぁ!!」
「⋯⋯ふむ、そうか。わかっているならよろしい」
ということで『明日フィアライト侯爵家で願いや祈るようなことは考えないこと』というのを確認しただけでお開きとなった。
いやていうかマジで俺だってそんなデメリットしかないイベントなんて起こす気ないのよ? マジで。
でもね? 世の中には『フラグ』という謎のイベント不可避現象があるわけで。
そして、それは地球でもこの異世界でも存在するわけで。
いや、こんなの孤児院長にどうやって説明せいっちゅーねん!
その夜——孤児院長のフラグに一人怯えた俺は浅い眠りのまま次の日を迎えるのであった。⋯⋯とほほ。




