055「神の御力(2)」
(トマトよ、トマトよ、トマトさん。いますぐ収穫できるくらい大きくな〜れ!⋯⋯なんつって)
⋯⋯、
⋯⋯、
⋯⋯、
⋯⋯にょき!
「っ?!」
にょきにょき!
「え? え?」
にょきにょき、にょっき〜!
「いや、えええええええええええっ!?」
何ということでしょう〜、
トマトが芽吹くだけでなく〜、
にょきにょき成長するではありませんか〜。
ぶっちゃけ「『預言の聖女』って聖女属性なら植物成長とかあるのでは?」と思ったら本当にあった件。
いやマジでビビったー!
それにしても、
「俺、チート能力⋯⋯あったんだ⋯⋯」
ずっと夢見ていた魔法が存在する世界に転生。
なのに『魔力が作れない体』と知らされ魔法もチートも諦めていた昨日までの俺にまさかこんな力があっただなんて。
思わず胸の前で両拳をグッと握り、心の中で「よっしゃ!」と一人静かに歓喜の声を上げた。
「それにしても本当に植物がこんなスピードで成長するなんて⋯⋯。漫画やアニメでは観たことあったけど、でも実際生で見せられるとかなり衝撃的だったわ」
土から芽が出てうにょうにょにょきにょき。
葉をつけ実をつけスクスク成長するトマト。
軽いホラーである。
「ま、まあ、でも誰にも見られていなくてよかっ⋯⋯」
「よ、預言の⋯⋯聖女⋯⋯」
「っ?!」
バッと声の方に振り向くと、そこには目を点にして立ち尽くす孤児院長の姿があった。
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「こ、孤児院長っ?!」
な、なんで?
なんで孤児院長がここに?
「⋯⋯アナスタシア。これは一体なんだ?」
最初呆然として突っ立ったままの孤児院長だったが、すぐに我に返りいつもの眉間にシワ寄せ孤児院長に戻ると説明を求められた。
「さ、さあ⋯⋯?」
「《《さあ》》⋯⋯⋯⋯だと?」
ぎゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!
「痛い! 痛い! 痛い! 孤児院長ぉぉ痛いぃぃぃ!!!!」
孤児院長が両手で俺のほっぺをぎゅうぅとつねりうにゅぅと引き延ばす。
ていうかいつもよりほっぺを摘まむ強さも引っ張る時間の長さも増してる気がする。
「君がこの状況で『さあ?』⋯⋯などとふざけた返事をするからだ」
「ご、ごべんなさぁぁぁいぃぃ!!!!」
ひえぇぇ⋯⋯孤児院長がいつも以上にマジおこだったぁぁぁ!!
ということで、改めて事の真相を説明する。
「つまり君はこのトマトが目の前で成長したのは『すぐに収穫できるように』と願ったらこうなった⋯⋯と?」
「は、はい」
「バカな⋯⋯!」
孤児院長が俺の説明を聞いて絶句する。
「あ、あのぅ〜、これってやっぱり魔法なのでしょうか?」
「わからない⋯⋯が少なくともこのような自然の摂理に反するような現象を具現化できるのは魔法しかないだろう。とはいえこんな植物成長する魔法なぞ見たことも聞いたこともないがな」
「そ、そう⋯⋯なんですね」
孤児院長の話を聞く限り、どうやら俺がやらかした現象は『魔法』らしいがしかし少々特殊なようだ。
であれば、やはりこれは『チート能力』で間違いないのだろう。
「アナスタシア⋯⋯このことは私以外に誰か知っている者はいるか?」
「い、いえ! ていうかこんなこと今日が初めてです!」
「⋯⋯そうか」
孤児院長が俺の返事を聞くとすぐに思考の海へダイブしたのか動きが止まる。
そして1分ほどの沈黙の後、孤児院長が真剣な眼差しで話し始める。
「いいか、アナスタシア? 今の君の状況は極めて特殊であり、且つこのことが明るみに出ればその影響は計り知れない」
「⋯⋯え?」
「君のその力はおそらく『神の御力』だと思われる」
「か、神の⋯⋯御力⋯⋯?」
「『神の御力』⋯⋯その力を行使できるのは唯一『預言の聖女』だけだ」
「預言の⋯⋯聖女⋯⋯」
孤児院長のその言葉に「やはり」と合点がいく。
「『神の御力』とはまさに神の力そのもの。故に、その力はあまりに強大で、そしてそれは人間にとって『薬』にも『毒』にもなる」
ごくり⋯⋯。
孤児院長のあまりに鬼気迫る表情に思わず生唾を吞み込む俺。
「神の御力を使える唯一の存在⋯⋯『預言の聖女』。それは古今東西誰もが欲する偉大で、絶大で、そして⋯⋯あまりに《《魅惑的》》な存在。それが今の君だ」
「な⋯⋯?!」
想像以上に影響力凄すぎワロタ。
いや笑えねーわっ!?
ていうか、それって俺が『預言の聖女』だってバレたら命の危険or拉致監禁確定待ったなしじゃね?
諦めていたチート能力があったことでテンション爆上がりだったほんの数秒前の自分。それが今ではまぼろしであったかのように俺のテンションは世界恐慌もビックリの急降下大暴落のそれであった。




