054「神の御力(1)」
ケチャップ作りとそのケチャップを加えた『貴族用ポテトフライ』の試食会は大成功に終わった。
また孤児院長の無茶ぶりという名の無茶ぶり(比喩なし)である10人分用のケチャップ作りは結局就寝時間近くまでかかった。
ちなみに10人分のケチャップ作りは午後の遅い時間から始めたこともあったためヴィラやシエラらにお願いするのは何となく憚れたため、マイルスさんと他の2人の世話人とで行った。
作業が終わったのが就寝前ということもあり子供達は皆すでに寝ている。
追加の作業でただでさえ疲れていた俺は寝ようと寝床へ向かおうとしたとき、
「あ⋯⋯トマトの種植え⋯⋯するんだった」
ということを思い出した。
正直「面倒くせぇぇ」と思ったが、しかし、厨房でケチャップ作りの際、種植えするつもりで種を集めていたこともあったため、どうしても今日中に終わらせたいという気持ちが俺の怠惰を上回った。
そんなわけで⋯⋯、
「うっし! もうひと頑張りよ、アナスタシアっ!!」
と、自分を鼓舞させた俺はトマトの種を入れた袋を持って畑へと向かった。
「ん? アナスタシア?」
——孤児院長が俺に気づいて後ろからついてきたのを気づかないままに。
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「この辺でいいかな」
畑に着いた俺は、じゃがいもが植えられている場所から1メートルほど離れたすでに耕した土に1センチほどの穴を開けそこに1〜3粒ほど種を蒔いて土を薄くかぶせていく。
ちなみに現在のじゃがいも畑は昨日種芋を蒔いたばかりなのでただ土があるだけである。
「ふぅ〜、これで最後っと!」
トマトの種を蒔き終えた俺は疲れた体に鞭を入れながら今日中に種蒔きを終わらせた自分を誇った。
「うわぁ⋯⋯綺麗」
種蒔きを終えた土の上でふと上を見上げると前世でも見たこともないような満天の星空が目に飛び込んできた。
「そっか。地球と違って夜は電気がほとんどないから⋯⋯」
地球の街灯のような光を出す魔道具もあるようだが、それは貴族街周辺にしかなく故に平民街は基本夜になると真っ暗になる。
まー飲み屋や娼館などは電気がついているがそれでもそう多くはないので前世の日本の歓楽街に比べれば真っ暗といっても過言ではない。
「あ、そうだ!」
俺はせっかくのこの絶景の星空を寝っ転がって見ようと近くにあったじゃがいもを入れるのに使っていた麻袋を2枚ほど持ってきてトマトの種を蒔いた横で麻袋を敷いてゴロンと寝っ転がる。
「はぁ⋯⋯本当にすごい星空だな」
目の前に広がる夜空にうっとりしながらふと俺はこれまでのことを振り返った。
「地球で引きこもりだった俺がこうして異世界に転生⋯⋯しかも美少女にTS転生するとはなぁ」
そんなこれまでのことを改めて振り返った俺にはふとした疑問があった。
「はて? 前世の俺って死んだのだろうか?」
そう、俺は30歳の誕生日でいつもの『祈祷(002話参照)』をしたタイミングでこの世界に転生した。
なので、トラックに轢かれてもなければ過労死をしたわけでもない。
「ということは転生じゃなくて転移⋯⋯てこと?」
ただ『転移』であれば『前世の俺の体ごと』転生しているはず。
でも実際はアナスタシアの体に転生した感じになっている。
「やっぱ、よくわからないな」
この世界で目を覚ました当初も一度考えたことがあったが結局今回も答えは出てこなかった。
まーそもそも転生か転移かなんてわかったところで大きな変化はないだろうと思っていることもあるため、俺は「ま、どっちでもいいや」とそこで思考を放棄した。
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「⋯⋯それにしてもちょっとくらいチートとかないのかよぉ」
これもまた目を覚ました当初に思っていたこと。そして思い出すたびに「ぐぬぬ」と愚痴をこぼしたい気持ちが溢れ出る。
「孤児院長が言ってた『預言の聖女』ってやつだけど、もしそれが本当に俺なら何かしらの力があるってことだと思うんだけど⋯⋯」
だがしかし、そんな力などある気配は微塵もない。
「聖女⋯⋯か。聖女といえばよくある能力だと『治癒能力』とか『結界』とかそんなところか?」
そう考えたとき、ふと「これまでそんなの試したことなかったな」と思い出す俺。
「でもな〜、別に病気やケガをしているわけでもないから試そうにも試せないしなぁ。それに『結界』とかもなんかよくわからないし⋯⋯」
と綺麗な夜空を見上げながらボーッと取り留めのない思考を口にする。
「いや待てよ? 聖女の能力あるあるでいったら『植物の成長促進』みたいなのもあったよな⋯⋯」
そんなことを思い出した俺は寝転がっていた体を起こし、先ほどトマトの種を蒔いた場所へと行き、そこでしゃがんで両手を土につける。
「たしかこう、畑に手を置いて詠唱するんだっけ⋯⋯」
しかし、当然そんな詠唱など知らない俺。
「まー無詠唱でやる作品もあったから必ずしも詠唱は必要ないかも?」
ということで俺は詠唱ではなく心の中でこう願った。
(トマトよ、トマトよ、トマトさん。いますぐ収穫できるくらい大きくな〜れ!⋯⋯なんつって)
そう告げた瞬間、頭の上に青白い何かがズォォと体に入ってきた。
「えっ! な、何⋯⋯?!」
俺は突然のことにプチパニックになるも何となく「土から手を離してはいけない」と感じ、何事かと思いながらもそのままの体勢を維持する。すると⋯⋯、
⋯⋯、
⋯⋯、
⋯⋯、
⋯⋯にょき!
「っ?!」




