052「貴族と平民と魔法と」
現在、厨房では全員でのトマトのへた取りが終わったため、ヴィラに前世のガスコンロのような形をした『調理用魔道具』に火をつけてもらい、へたを取ったトマトをドボドボと投入。
他にも孤児院には水道が通っていないため、水を使う場合井戸から汲み上げた水を桶に入れてそれを厨房に持っていって使うのだが、例えば貴族の家では『水が出てくる魔道具』なるものがあるらしく、それがあれば井戸からの水汲みも必要ないらしい。魔道具すげー。
他にも『光が灯る魔道具』や調理用魔道具とは違いちょっとした『火種を出す魔道具』など、生活の中には様々な魔道具が存在する。そういう世界だ。
だから俺が転生した時に体内魔力が作れない体⋯⋯『魔素核喪失症』になったとき、孤児院長や医者がショックを受けたのだ。
魔道具に囲まれた世界で『魔力が作れない体』になったということは、火を起こしたり水を出したりできる魔道具があっても使えないということ。
イメージ的には「便利な物が目の前にあってもそれを使う『資格』が無い人」みたいな感じ? いや違うか?
ちなみに孤児はもちろん平民は魔力量が少ないためこういった『魔道具』を使うことはできても魔法は使えないらしく、前世のファンタジー映画やアニメなどでよく観る『ファイヤーボール』を出したりできるのは貴族だけらしい。
ただ、『魔法』には2種類あって今言ったファイヤーボールとか打てるのは『魔法』と呼ばれ、火を起こしたり光を灯したり水を出したりするのは『生活魔法』と分けられている。
で、俺の場合は『魔力が作れない体』なので、魔法も生活魔法も使えなければ魔道具も使えないという『ひとりハードモード状態』といった感じだ。
異世界来て魔法使えないとか前世どんだけ徳積んでないんだよ俺。
ていうか前世で俺、別に人を騙したり傷つけたりなんてしたことないんですけど?
俺をこの世界に転生させた神様的な奴がいたら一言物申したいのだが?
ふんぬぅ!
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鍋にはペースト状になったトマトに玉ねぎ、砂糖、酢、あとオリーブオイルを少々入れるなどしてグツグツと煮立していく。
その横ではシエラとファラがポテトフライをどんどん揚げており、そのおかげで孤児院内にポテトフライの香ばしい匂いが広がっていくと食堂のほうから、
「おーい、まだかー! 掃除は終わったぞー!」
「おなかすいたー!」
「すいたー!」
と掃除が終わり暇と食欲を持て余した子供達のクレームが入ってきた。
「うるっさーい! もう少しだから静かにしろー!!」
そんなクレームに真っ向からツッコミを入れるのはシエラ。孤児院でポテトフライを食べるときによく見かける光景である。安定感さえある。
さてケチャップのほうはというともう少し煮立す必要があったのでヴィラが焦げないよう注意を払いながら木のヘラを使って混ぜ混ぜ。そんな特に忙しいでもない状況で俺は自然とヴィラといろいろ話をした。
「そういえばヴィラって『魔法』は使えるの?」
「魔法なんて孤児が使えるわけないじゃない。生活魔法くらいよ」
「すごーい! 見たーい!」
「見たーいって⋯⋯あんた《《またぁ》》?」
「お願い、お願い!」
そう、ヴィラの言う通り俺は当番でヴィラと厨房で一緒になる時は必ず『生活魔法』を見せてもらうようせがんでいた。ちなみに孤児院にはさっき紹介した『調理用魔道具』があるので別に生活魔法を使わなくても魔力さえあれば火を起こせるのだが、しかし俺的には手から火を直接出すのを見たいのだ。
「もぅ〜⋯⋯はい、これでいい?」
そういって右手の人差し指にボッと小さい火を出すヴィラ。さらにはジャーと水も出したり、ポッと小さな光も出してくれた。
ヴィラは俺が毎回生活魔法を使うのをせがむとブツブツ文句を言ってくるツンデレ語録を展開するが、しかし最後は必ず生活魔法を見せてくれる。生活魔法を使っているヴィラは楽しそうだ。
「ヴィラっていろいろな生活魔法を使うよね。得意なの?」
「ふふん、そうよ。私、生活魔法は得意なの!」
ヴィラが得意げな表情をしながら腕を組んで見下ろすように返事を返す。
「こんなに生活魔法がうまくてもやっぱり貴族の人が使う『魔法』は使えないんだ?」
「そりゃそうよ。だって貴族は私たち平民と違って魔力もいっぱいあるもの。私たち平民が魔法なんて使ったら1回で魔力切れおこして気絶するわよ」
「え? マジ?」
「マジ」
ええええ、そうなのぉー?!
魔法、怖っ!




