051「ケチャップ作り」
「アナスタシア、たしか君は採ってきたトマトを使って『貴族用ポテトフライ』を作ると言ってたな」
「はい。以前のように試食会を開こうと思っています」
「よろしい。ではすぐに行って準備しなさい」
「あの⋯⋯試食は前みたいに子供達もみんなで行っても大丈夫ですか?」
「構わん。試食用にと食材は準備してあると言っただろう? 当然それは子供達のも含まれている。ポテトフライ販売では子供達は皆頑張っていた。その頑張りに対する労いの意味も込めている⋯⋯⋯⋯楽しみなさい」
「ワォ! 孤児院長最高っ!! ありがとうございますっっ!!!!」
そう言ってアナスタシアがビュンと風のように孤児院長室から飛び出して行った。
「テ、テンション高かったですねぇ」
「はぁ⋯⋯まったくだ」
マイルスが苦笑いしながら呟くと、クロフォードは深いため息混じりの返事を返す。
「それにしても『赤い悪魔』と恐れられているトマトを使った『けちゃっぷ』⋯⋯か。一体どういうものなんだろうな」
「彼女の話だと『万能食材』だと言っていた。正直『じゃがいも』だけでも汎用性の高い食材だというのにこの『けちゃっぷ』もまた汎用性の高いものと言っていたな⋯⋯」
「マ、マジかよ⋯⋯。それが本当ならアナスタシアってまさに莫大な利益を生む『金の卵』みたいなもんじゃないか」
「だから言ったろ? 彼女が『預言の聖女』じゃなくてもかなり危険であると」
「ああ。お前が実家やうちの親父に声を掛けるだけのことはあるわ。しかもこれでもし『神の御力』が発現して『預言の聖女』であることが確定でもしたら⋯⋯」
「ああ。《《王族》》や《《教会》》も警戒しないといけなくなるだろう」
クロフォードとマイルスが、アナスタシアが元気よく飛び出して行った扉を見つめながら無言になる。
「アナスタシアがもし本当に『預言の聖女』なら彼女に害を及ぼす愚か者は誰であろうと私は許さない。マイルス⋯⋯ついてきてくれるか?」
「うえぇ〜お前それ超危ない発言だぞ〜⋯⋯なんてな? いまさら水臭いぜ、クロ。たしかに主従関係のある家同士だがでも俺はそれ以上にお前のその《《ネジの外れっぷり》》が気に入ってるって言ったろ?『ついてきてくれるか?』なんて愚問だぜ!」
カラカラ笑いながら即答するマイルス。
「フッ⋯⋯そうだな」
そんなマイルスに少し柔和な笑みを向けるクロフォードだった。
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「はい、みんな集合ー!」
食堂にやってきたアナスタシアはすぐに皆に収集をかける。
「あっ! アナスタシアだ」
「どうしたどうした?」
「何かあんのー?」
アナスタシアの声を聞いて皆がぞろぞろ集まってくる。
「はい。皆さんおはようございますっ!!」
「「「「「お、おはようございます⋯⋯」」」」」
アナスタシアの異様なハイテンションに付いていけていない孤児院の皆さん。
しかしそんなのお構いなしにアナスタシアは嬉々として話を切り出す。
「えー本日は! さっき私たちが南門の森で採ってきた『トマト』を使って試食会を開催しまーす! イエーイ! ドンドンドン、パフーパフー!!」
「「「「「い、いえーい⋯⋯!(大困惑)」」」」」
アナスタシアが首を上下にシャウトしながら聞いたことのないワードに困惑する子供達⋯⋯しかしこれまで何度もアナスタシアの『奇行』を目の当たりにした子供達は困惑しながらも何とか『ハイテンション in アナスタシア』に必死に食らいついていく。
「えーと、アナスタシア⋯⋯」
「ヴィラ。発言は挙手でお願いします」
「もうっ! 面倒臭いわね!⋯⋯⋯⋯はい!」
「はい、ヴィラさん!」
文句は言うもののちゃんとアナスタシアに合わせてくれるヴィラ。
「トマトで一体何作るっていうの?」
「よ・く・ぞ・! よくぞ聞いてくれましたヴィラさん!」
「うざい!」
「えー今回はこのトマトを使って⋯⋯⋯⋯『ケチャップ』を作りたいと思います!」
「けちゃっぷ?」
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「ケチャップっていうのはざっくり言うとトマトをすりつぶして煮詰めてペースト状にしたものです。これを貴族用に販売する『貴族用ポテトフライ』に添えます」
「えーと⋯⋯それってつまり、ポテトフライにケチャップというものをかけて食べるみたいな感じ?」
「そう! さすがシエラ! 10点っ!!」
「あ、ありがと⋯⋯(じゅ、10点??)」
「というわけで、この採ってきたトマトの調理は私、シエラ、ヴィラそしてファラでやります!」
「ぼ、僕も⋯⋯いいの?!」
「もちろん! ファラは元々調理班でしょ? ちゃんと作り方覚えてね」
「う、うん。頑張るっ!」
ファラの屈託のない笑顔と元気な返事に頬を緩めるアナスタシア。
「他の子達は孤児院内の掃除をお願いね。調理で抜けた人の分までやってもらうことになるから大変だと思うけど⋯⋯」
「そのくらい大したことないぜ、アナ! むしろ俺らは体を動かすのが得意だからな!」
「そうそうリッツの言う通りだぜ!」
「ラッセルの言う通りだぜー!」
「だぜー!」
「べ、別に、僕は、体動かすの得意じゃないけど⋯⋯頑張るよ」
「わ、私も頑張ります!」
と、リッツを皮切りに子供達から「問題ない」とアナスタシアたち調理班を励ます勢いで声を上げてくれた。
「ありがとう、みんな! それじゃあ⋯⋯⋯⋯作業開始よ!」
「「「「「おおっ!!!!」」」」」
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厨房へとやって来た俺は調理班にケチャップ作りの工程をざっと説明。
「ということで、まずは全員で採ってきたトマトの『へた取り』を行います。で、それが終わったらトマトをドロドロになるまで煮詰めます。その間ににんにくと玉ねぎを細かく微塵切りするよー」
「「「「「りょーかーい!」」」」」
そうして、トマトの『へた取り』をスタートしたが、その際別で『にんにくと玉ねぎのみじん切り班』と分けて並行で作業を開始。
俺は『へた取り班』でもくもくとへた取りを行った。いや〜俺ってこういう自分のペースで作業するのが好きなんだよな〜。
そんなへた取りが終わった後、早速トマトを煮詰めるということで鍋に火をかけることに。その際、一緒の『へた取り班』のヴィラが現代のガスコンロのような形の『調理用魔道具』に手を当て自身の魔力を込めるとボッと火が点いた。
「おおお〜!」
ヴィラが調理用魔道具に魔力を込めて火を点けたのを見て思わず感心の声を上げる俺。
「いや『おおお〜』って⋯⋯あ、そっか。アナは魔力が作れない体になって⋯⋯⋯⋯ごめん」
ヴィラが感心する俺にいつものように「その程度で何驚いてんのよ」と絡もうとしたが、俺が魔力を作れない体になったことを思い出したようで今にも泣き出しそうな顔で謝ってきた。
「い、いや、大丈夫だから! 問題ないから! だからそんな顔しないで、ヴィラ!」
「で、でも⋯⋯」
「本当に大丈夫だから! だって私が魔力を扱えなくてもヴィラや他の子たちがやってくれるでしょ?」
「も、もちろんよ!」
「フフ、ありがとう。頼りにしてるね?」
「ふ、ふん! まかせなさいっての!」
いつものツンデレヴィラちゃんに戻ってくれた。




