050「マイルス・レッドフォード」
「ただいまー!」
森から孤児院へ戻ってきた俺たち。ラッセルが元気よく「ただいま」と言って中に入ると食堂にいた子供達が「おかえりなさーい!」と私たちのいる玄関へと走ってきた。
「アナスタシア、どうだった?」
「うん、いっぱい採れたよ!」
シエラがいの一番に俺に聞いてきたのはもちろんトマトのことだ。俺は笑顔で返事をし、そのままテーブルにトマトを出す。
「これが⋯⋯トマト」
「え? シエラは見るの初めて?」
「う、うん。名前だけは聞いたことあるけど見るのは初めてなの。それにしても⋯⋯本当に真っ赤な実なのね。『赤い悪魔』って言われるのもわかるわ」
「「「「「えっ?! 赤い悪魔!」」」」」
シエラの言葉に他の子供達が「えー怖いー」「大丈夫なの?」と不安な言葉を漏らしてきた。
「み、みんな心配しないで! これもじゃがいもと一緒で毒があると怖がられているけどちゃんと食べられるものだよ!」
そういって俺がすぐに皆に『安全な食べ物であること』を説明。すると皆も「よかったー」と不安を払拭してくれた。すると横でシエラが表情と仕草で「ごめん」と謝ってくる。本音では「本当だよ」と思いつつも「大丈夫だよ」とシエラに心配ないとジェスチェーで返した。そんなことをしていると、
「あ! アナ、そういえばさっき孤児院長が森から戻ってきたら孤児院長室に来るよう言ってたぞ」
とボンズが孤児院長の言伝を教えてくれた。
「わかったー」
俺がそれを聞いてすぐに孤児院長室へ向かおうとすると、
「アナスタシア。私と一緒に行こう」
とマイルスさんが声をかけてきた。話を聞くとどうやらマイルスさんも孤児院長に森から戻ったら部屋に来るよう言われていたらしい。ということで二人で孤児院長室へと向かった。
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「ただいま戻りましたー」
「ご苦労だった」
孤児院長室に入った俺とマイルスさんはすぐにソファへ腰掛けるよう言われる。
「アナスタシア⋯⋯ここに呼んだのは実は君に話しておきたいことがあったからだ」
「話しておきたいこと?」
「そうだ。まだ話していなかったと思い出してな。実はここにいるマイルスだが⋯⋯⋯⋯彼も貴族だ」
「え?」
俺が孤児院長の言葉に反応すると横に座るマイルスさんが、
「そうだ。私はマイルス・レッドフォード。レッドフォード伯爵家の者だ」
マイルスさんが何やら「どうだ驚いたか?」みたいな顔をしてそう言ってきた⋯⋯が、
「あ、やっぱり?」
と俺がすんなりと受け入れるような返事を返すと、
「え? 何その反応?」
とマイルスさんが怪訝な表情を浮かべる。
「いやまぁ、多少は驚きましたけど、でも普段見ているマイルスさんの言葉遣いや所作は庶民にしてはだいぶ洗練されすぎていたのでもしかして⋯⋯とは思っていたので。ただ『伯爵家』という身分には驚きましたけど」
「そうだったんだ⋯⋯。ちゃんと隠せてると思ったんだけどなぁ〜」
とマイルスさんが俺の言葉に軽くショックを受けていると、
「マイルス。もう少し練習が必要のようだな」
「うぐっ⋯⋯」
孤児院長からダメ出しを食らった。
どんまい、マイルスさん。
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その後、孤児院長からマイルスさんとの関係性を教えてもらった。
「えっ! じゃあマイルスさんのレッドフォード伯爵家って孤児院長のフィアライト侯爵家とは主従関係のようなものなんですか?!」
「ああ、そうだ。歴史は結構古いぞ」
話によると、現在マイルスさんは孤児院長の護衛を兼ねた側近のような関係性らしく、しかもそれは孤児院長とマイルスさんだけの話ではなく、これまでの⋯⋯つまり二人の父親やそのさらに上のお祖父さん、さらにその上の⋯⋯と連綿と受け継がれてきた主従関係とのことだった。
「すごい! そんな歴史のある関係だっただなんて。こっちのほうがビックリです!」
「え、そこで驚くの?」
俺がそのままの感想を告げるとマイルスさんが何やらショックを受けたようで「何か思っていたのと違う〜」という顔をしていた。マイルスさん的には「自分は貴族だ」と言ったときに俺に驚いて欲しかったようだが、しかし俺からすれば二人の関係性や両家の主従関係の歴史の長さに一番驚いた。
「まーそういうわけだ。ちなみに先日フィアライト侯爵家に行ったことや契約を結んだことも当然知っている」
孤児院長の説明に俺はコクリと首肯する。まー俺的にも「そりゃ、そうでしょうね」と特に驚くことはない。
「よろしい。ただし、この私やマイルスの正体を知っている者は孤児院では君以外に誰もいない。なので、孤児院では私にもマイルスにもいつもどおりに接するように」
「わかりました」
「まーそんなわけで改めてよろしくな。アナスタシア」
「はい、よろしくお願いいたします」
こうして、《《貴族としての》》マイルスさんとの初邂逅を終えた。




