039「差別化と付加価値(2)」
「で? 君はその『トマト』を使ってどうしようというのだね?」
孤児院長がトマトショックから立ち直ると、それをどうしたいのか尋ねてきた。
「ポテトフライに合うトッピングその筆頭⋯⋯『ケチャップ』です!」
「ケチャップ⋯⋯?」
ということで、俺はケチャップの調理法を説明する。
「⋯⋯なので、ケチャップを作るには砂糖が必要になるんですが、砂糖って高いでしょうか?」
「ああ、高い」
「ということは、甘いお菓子とかは高級品?」
「その通りだ。砂糖菓子を気軽に食べられるのは貴族くらいだ」
「なるほど。ちなみに⋯⋯」
そういって、俺は孤児院長に「『貴族用ポテトフライ』に添えるケチャップはこれくらいです」と説明した上で、
「100グラムのケチャップを作る場合、砂糖はこのスプーンの2杯ほど使うとしたら砂糖はいくらくらいになりますか?」
「そうだな。砂糖は100グラムで銀貨5枚くらいだ。このくらいのスプーンだと1杯15グラムといったところだから2杯だと30グラム⋯⋯。であれば、銀貨1.5から2枚といったところだな」
「なるほど。『平民用ポテトフライ』1袋分ということですね」
「ああ、そうだな」
「で、あれば、『貴族用ポテトフライ』は銀貨20枚⋯⋯大銀貨2枚で販売したいです」
「大銀貨2枚⋯⋯だと!」
「はい。つまり『平民用ポテトフライ』の10倍の価格設定です」
「むぅぅ、なるほど。一見高いように感じるがしかし⋯⋯⋯⋯なるほど。アナスタシア、もしかして君がさっき言っていた『付加価値』とはこのことか?(ニヤリ)」
「はい、そうです(ニヤリ)」
俺は孤児院長と一緒になってほくそ笑む。イメージは「越後屋、お主も悪よのぅ〜」だ!
「お貴族様であれば『貴族用ポテトフライ』の大銀貨2枚(銀貨20枚)という価格はそこまで高くないかと。いえむしろ安いかなくらいには思っています。理由は、まだ誰も食べたことのない『ケチャップ』をトッピングとして一緒に出しているからです」
「さもありなん。私としてもこの『ケチャップ』が美味しくてポテトフライに合うのであれば大銀貨2枚(銀貨20枚)でも安いと思うぞ。価格に関しては一度『ケチャップ』の試食をしてからだな」
「わかりました。ちなみにこの『貴族用ポテトフライ』のターゲットはお貴族様が基本ですが、実はもう1つターゲットにしている客層があります」
「何? ああ、なるほど⋯⋯『平民の富裕層』のことか?」
「そうです」
さすが孤児院長。察しが良い。
「私見では『平民の富裕層』ほど『貴族用ポテトフライ』が売れると思っています」
「なるほど。⋯⋯『プライド』か」
「そうです。平民の富裕層は『お貴族様と同じように見られたい』という願望が高いかなと。であれば、《《平民でも》》買える安価な『平民用ポテトフライ』よりも、もっと高価な『貴族用ポテトフライ』を買うのではないかと思っています。ある意味⋯⋯『貴族用ポテトフライ』の真のターゲットは『平民の富裕層』なのです!(どやぁ)」
俺は「決まった」とばかりにビシッと人差し指を天に突き上げる。
「なるほど。君の狙いはよくわかった。それは良いと思う。しかし、それを実現させるにはハードルが《《いくつもある》》のは理解しているか?」
「ハードル?」
「君は『貴族用ポテトフライ』を《《どこで》》売るんだ?」
「!」
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孤児院長の問い。
「君は『貴族用ポテトフライ』を《《どこで》》売るんだ?」
これが、今回の話の《《肝》》となる。
「はい。私は貴族街で売ることを考えています」
「っ?!」
俺の答えに孤児院長が目を見開く。
「⋯⋯何を考えてる?」
「え?」
「君の今の答え⋯⋯『貴族街で売る』だが、これは《《どこまでを見据えているんだ》》?」
「⋯⋯」
孤児院長も恐らくここが今回の話の《《肝》》だと気づいているようだ。
全容を話すべきか否か。
俺は考える。孤児院長はそれなりに身分が上の貴族であることは今朝の一件でわかったが、どれほどかはわからない。そんな孤児院長に全容を話しても大丈夫なのだろうか?
もしかしたら、俺の策を《《俺抜き》》で動かすかもしれない。なんせ、俺なんて《《ただの孤児》》なのだから。
でも、考え方によっちゃあ『チャンス』とも言える。孤児院長に『名を売る』というチャンスだ。
少しでも早く孤児院を出て一人でやっていきたいのなら孤児院長と親しくなるのが一番の近道。であれば、俺にできることは孤児院長を信じることだけ⋯⋯!
「私はポテトフライを領外⋯⋯できれば『国外』にまで販路を広げたいと考えています」
「⋯⋯やはりか」
「はい。当然それはポテトフライだけでなく今回作る『ケチャップ』はもちろん、これから生み出す商品も含めて⋯⋯です」
「っ!?」
孤児院長がまた目を見開いた。まーそりゃそうか。これだけの啖呵を切ったんだ⋯⋯⋯⋯『俺が他にも価値のある知識を持っている』と気づいただろう。
でも、それでいい。インパクトがあればあるほど孤児院長に対してアナスタシアの価値は上がる。
さあ、来い! 孤児院長はもう気づいている⋯⋯はず!
「なるほど。つまり君は『貴族と手を組んでポテトフライ事業を広げたい』と?」
ヒット!
「はい! まずは領内から。そして国中に広めて最後は国外です!」
俺は瞳をキラキラさせながらムフーと孤児院長に訴える。
孤児院長は眉間に皺寄せ頭を抱えた。




