038「差別化と付加価値(1)」
「まず『差別化』ですが、これは『平民用のポテトフライ』と『お貴族様用のポテトフライ』を分けて売る⋯⋯ということです」
「ん? 身分ごとに分けて売るだと?」
「はい。ただその場合、『お貴族様用』にはポテトフライ以外に『何か』を付け足して売る必要があると思いますが⋯⋯」
「なるほど。言いたいことはわかった。要は『貴族用ポテトフライ』を豪華にした内容で売るということだな?」
「はい。その『何か』はまだちょっと浮かんでいませんが⋯⋯。でも、可能性があるものを《《いろいろ》》と調べてみる予定です」
「⋯⋯ほう? 《《いろいろ》》か」
孤児院長が少しほくそ笑みながら俺を見る。その瞳は何というか子供であるはずの俺の言動を疑うどころか信頼しているように見える。いやそれどころか『何かを期待している』⋯⋯そんな瞳だ。
少なくとも、孤児院長が俺に対して口にはしていないが『子供扱い』していないのは明らかだ。
実際、この世界に無い知識を9歳の子がいろいろ喋ってさらには結果を出しているんだ⋯⋯そりゃ、子供扱いしないのも納得がいく。
むしろ『気持ち悪い』とか『悪魔憑き』などといわれて、嫌悪されたり、排除されたりしていないだけマシだと思う。
それに俺としても孤児院長には『子供扱い』されない今の関係性のほうが正直ありがたい。
だって、この世界で生きていくために俺は前世の『現代知識チート』を利用していくわけだし、そうなれば子供扱いされて話を聞いてくれないほうがよっぽど困るのだ。
この世界で生きていくには『お金』と『地位』が必要だ。そして、それらを得るのに一番の近道⋯⋯キーパーソンは『孤児院長』だ。
孤児院長に「アナスタシアは使える」と思わせることが現時点での俺の『最善手』。なので、俺は孤児院長の反応を気にせず『俺がいかに有用か』をさらにアピールしていく。
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「⋯⋯考えているのは『貴族用ポテトフライ』にはポテトフライに合う『トッピング』を付けたいと思っています」
「トッピング⋯⋯?」
そう。今回『貴族用ポテトフライ』に俺はトッピングを添えることを考えていた。そしてそのトッピングというのが定番中の定番⋯⋯『ケチャップ』だ。
となると、『トマト』がこの世界に存在するのかどうかなのだが、ぶっちゃけ『勝算』は大いにあると思っている。なんせ、じゃがいもがあるのだ、トマトがあっても不思議じゃないし、むしろあって然るべきとさえ思っている。
「はい。実はポテトフライは『塩味』以外にも合うトッピングはいくつもありまして⋯⋯」
「いくつも⋯⋯だと!?」
「はい。ただ、そのトッピングに使えるものがこの世界に⋯⋯あ、いや、この周辺にあるかどうかがまだわからないので、まずはそれを探したいと思っています」
「そ、そうか」
「?」
んん? なんか孤児院長の様子が? 俺、なんか変なこと言ったか?
「⋯⋯コホン。ちなみに、君が探そうとしている食材とは何かね?」
「え? あ、はい。『トマト』なんですけど⋯⋯」
「ト、トマトっ?! 君はまたそんなことを⋯⋯!」
「え? え? 何? 何なんですかっ?!」
え、何よっ?! 何で孤児院長がそんなリアクションすんの!
「トマトはじゃがいも同様『毒がある』と言われている植物だ。別名『赤い悪魔』と呼ばれている」
「え? ええええっ!?」
いや、『赤い悪魔』って⋯⋯! あ、そういやトマトって中世時代に『悪魔の実』って恐れられていたんだっけ?
そっかー、この世界でも似たような誤解を受けているのかぁ。トマト⋯⋯じゃがいもと同様不憫なやつ。
「あ、でも、トマトはあるんですね?」
「ああ。ただトマトはあの赤い色や形から『赤い悪魔』と恐れられているし、『じゃがいも』と違って家畜の飼料としても使っていないのでどこも栽培などしていないぞ」
「何ですとっ!」
そりゃそうか。『赤い悪魔』なんて言われているくらいだし。
「ってことは、トマトは森に自生しているものしかないってことですか?」
「ああ、そうだ。⋯⋯いやちょっと待て、アナスタシア!」
「はい?」
「き、君はそのトマトをまさか⋯⋯孤児院で栽培するつもりか?!」
「はい、当然ですが?(ニッコリ)」
俺は孤児院長に満面の笑みで返事を返す。孤児院長が頭を抱える。
「⋯⋯はぁぁ、君の発想は本当に予想だにしないな」
「え?」
「何でもない。⋯⋯それで? トマトは本当に食べられるのかね?」
「はい。しかもじゃがいもと違って『毒』もありませんし」
「何っ?! ど、毒が無いのか!」
「はい、無いですよ?」
「なんと⋯⋯信じられん」
「⋯⋯」
そっかー。孤児院長のリアクションを見る感じ、トマトはじゃがいも以上に敬遠されていたんだなぁ。
「ちなみに、トマトはじゃがいもと同様いろいろな料理で使える万能食材なんですよ」
「何っ!?」
「しかもそのまま生でも食べられます」
「な⋯⋯っ!」
孤児院長がついに固まってしまった。こんな動揺する孤児院長を見るのは初めてだったので感無量である。
さて、そんなわけでこの世界に『トマト』があることはわかった。森に自生しているということなので明日にでも森に行って探してきてみよう。




