037「お貴族様への対応策」
「アナスタシア⋯⋯座りなさい」
「⋯⋯失礼します」
部屋に入ると、さっさとソファに腰掛けるよう案内された。つまり、これは『話が長くなる』ということを意味している。
「さて、今日君をここに呼んだ理由はわかるか?」
「まぁ⋯⋯今朝の『お貴族様メイド襲来』の件ですよね」
「ああ、そうだ。ちなみに君は今日の一件をどう捉えている?」
早速、孤児院長がアイスブレイクもなく本題を切り出す。まぁ、初対面の相手でもなけりゃ取引相手でもないから別にいらないっちゃいらないけど。
でも、ほら改めて何かを話しする時とか会議に入る前って雑談から入るじゃん? 少なくとも自分はそんなイメージがあるからいきなり本題はちょっとドキッとしちゃうんだよね。
まーそれはいいとして⋯⋯。
「そうですね⋯⋯。まず領主様の屋敷のメイドさんが来たというのがビックリでしたね。私のイメージだと平民で流行っているものは下から上へ⋯⋯貴族だと男爵様とか子爵様から流行っていくと思ったので。それがいきなり《《ラスボス》》の領主様の関係者が購入に来るなんて⋯⋯」
「待て。『ラスボス』とはなんだ?」
「え? あ、あー⋯⋯えっと〜⋯⋯『すごい偉い人』とかそんな意味です」
「すごい偉い人⋯⋯か」
あぶねーあぶねー。
まー間違ってないよね。セーフセーフ。
「あと、今回のお貴族様の購入の仕方についても良い勉強になりました」
「ほう?」
「お金の感覚が平民と違うお貴族様なら『大量購入』なんて少し考えればわかることだったのに失念していました」
「なるほど。それは良い経験になったようだな。貴族は基本こういった平民で流行ったものは大量に購入するものだ。以後気をつけなさい」
「はい」
そうなんだよな〜。これは本当に勉強になったよ。
「それと、そのことで今後やっていくのにこのままだと厳しい⋯⋯ということがわかりました」
「ほう?」
「今私たちが用意できるポテトフライの原材料である『じゃがいも』は、孤児院の畑の収穫分と周辺で『家畜の餌』として栽培しているじゃがいも買取分で賄っていますが、しかし現状ポテトフライの売れ行きとじゃがいもの供給量が一致していない」
「そうだな」
「ポテトフライの販売を初めてまだ3日しか経っていないのに、すでに在庫のじゃがいもは半分を切っている⋯⋯。圧倒的なじゃがいもの供給不足は深刻かと」
「さもありなん」
「そうなると、さらにじゃがいもの買い付けをやってもらう必要がありますが、現状じゃがいもはまだ購入できそうですか?」
「それに関しては大丈夫だ。昨日用意したじゃがいもも南門付近の一部から少し買い上げた程度だからな。もっと必要であれば東門や北門など各門の街で買い付ければいい。最悪、領外に出て買い付けるのも可能だ」
「あ、そうなんですね」
なんだ。じゃがいもは不足しているわけじゃないんだ。これは良い誤算。
「ただ⋯⋯あまり派手にじゃがいもを買い占めるのは《《危ない》》がな」
「え? 危ない? あ! そ、そうか。派手にじゃがいもを買い占めると目敏い商人に気づかれる⋯⋯」
「そういうことだ。自領内であればまだうまく誤魔化せるが、他領にまで行ってじゃがいもを大量購入するのはかなり目立つだろう。理想は『自分たちでじゃがいも用の大規模栽培』を行うことだが⋯⋯」
「そこまでやると『回収』が難しくなる⋯⋯ですよね?」
「ああ、そうだ」
「ですよねぇぇ〜!」
そういって、俺はふにゃふにゃふにゃ〜と机に突っ伏す。
そうなんだよな〜。『自分たちでじゃがいもの大規模栽培をする』⋯⋯これは俺も考えたんだよ〜。でも、それをやっちゃうとコストがかかるわけで、そしたらそれは『商品価格』に転嫁されるわけで。そうなると平民が気軽に買えるような商品じゃなくなるわけで〜!
「コラ、アナスタシア。行儀が悪いぞ」
「アウチ!⋯⋯すみません」
コツンとゲンコツを軽くいただいた俺は姿勢を正す。
「一応、私的にはこのスフィンベルクの街で買い取れる範囲でポテトフライを販売するやり方でいいと思います。それで売り切れてしまうのはしょうがないかなと⋯⋯」
「うむ、そうだな。ま〜まだ始めたばかりだ、そんな焦ることもないだ⋯⋯」
「⋯⋯でも別の『策』もあります」
「何? 別の『策』?」
「はい。でも、そうなるとちょっと規模が大きくなって、そうなると孤児院だけでは難しくなるんです」
「それはつまり『貴族』の力が必要になる⋯⋯という話か?」
「さすが孤児院長! 話が早い!」
「馬鹿者。私を何だと思ってる」
「すみません。でも、そういうことです! お貴族様の協力があればさっき話した『じゃがいもの大規模栽培』をやっても価格に転嫁せず、今までと変わらない『銀貨2枚』でポテトフライを販売し続けることができると思います」
「何? 一体どうやって⋯⋯」
「要は、『差別化』と『付加価値』です!」
「『差別化』と『付加価値』⋯⋯だと? アナスタシア、君は一体何を考えている」
「ふふ〜ん、それはですね〜」
「⋯⋯」
ドヤ顔のアナスタシアに内心「チッ」と舌打ちするも、彼女の提案の全貌を聞き出すためツッコミを我慢する孤児院長でした。




