036「お貴族様メイド、襲来(2)」
「孤児院長!」
俺は孤児院長の出現にホッと胸を撫で下ろす。
マイルスさんが孤児院長は貴族だと言っていたので、いくらこの街の領主であるフィアライト侯爵家のメイドだとしてもある程度対応できるはずだ⋯⋯そう思っていたのだが、
「ク、クロフォード様っ!? ど、どど、どうしてここに⋯⋯!」
「え?」
メイドが孤児院長に対し、真っ青な顔を浮かべながらまるで孤児院長の機嫌を伺うかのような素振りを見せる。俺はそんな孤児院長に対するメイドの反応があまりに想像の斜め上だったので唖然とした。
だって、おかしくね? いくら孤児院長が貴族だとしても領主の家に仕えるメイドならそれなりの身分⋯⋯最低でも貴族だと思うんだけど? それをここまで孤児院長に対して謙る反応を見せるなんて。
もしかして、このメイドさん領主の家に仕えているけど身分としては『平民』なのだろうか? いや、でもこのメイドさんから平民然は感じられない。むしろ高貴な家の出のようにしか見えない。
まさか、孤児院長って領主の屋敷に仕えるメイドさんよりも身分が上の貴族ってこと⋯⋯?
そんな孤児院長の身分について一人戦々恐々としている俺の横では、メイドさんと孤児院長が話を続けていた。
「どうしてここに、だと? ここは私の職場なのだが?」
「あ、いえ、その⋯⋯」
「それで君はここで何をしている?」
「そ、その⋯⋯ご当主様に屋敷と商会の使用人らに労いの品をということでポテトフライの購入を頼まれたものでして⋯⋯」
「はぁぁぁ⋯⋯。まったく《《あの方》》はいつも行動が性急過ぎて困る。少しはこっちの身にもなってもらいたい」
「も、申し訳ございません」
「いや、別に『ニーナ』に言っているのではない。気にするな」
「は、はい⋯⋯」
さっきまでの『歳上お姉さん系美人メイド(銀髪ケモ耳搭載)』はどこへやら。借りてきた猫のようにすっかり大人しくなってしまった。
それにしてもメイドの名前を知っているってことは孤児院長とメイドさんはどうやら知り合いらしい。
あと彼女のことを『ニーナ』と呼び捨てにしたり二人のやり取りを見ても、間違いなく孤児院長のほうが彼女より身分が上だろうことはわかった。
孤児院長って一体何者なんだろう?
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「お待たせしました」
俺はとりあえずメイドさんの相手を孤児院長にまかせて、厨房へポテトフライの進捗を確認をしに行った。すると、ちょうど30袋分のポテトフライが完成していたので、それを木箱に並べてすぐにメイドさんに持って行った。
「あら? 意外に早いんですね。ありがとうございます」
俺が戻ると、さっきまでのメイドさんが孤児院長に怯える空気は無くなっていた。
「では、わたくしこれで失礼致します。クロフォード様それでは」
「うむ。領主様にはよろしく伝えておいてくれ」
「かしこまりました。それと⋯⋯アナスタシアちゃん」
「は、はい!」
「今度またお会いできること、心より楽しみにしておりますわ」
「? あ、ありがとう⋯⋯ございます」
「では、失礼致します」
そういって、メイドさんは帰って行った。
ようやく領主様の屋敷に仕えるメイドさんが帰ったということで、お客さんも含め、その場にいる全員がハァァと大きく息を吐いた。
そんな緊張感から解放された食堂では、ポテトフライを購入するお客さんと子供達のやり取りといった賑わいが戻る。そんな中、
「アナスタシア⋯⋯」
孤児院長が声をかけてきた。おそらくさっきのお貴族様のメイドについての話だろう。
「さっきのメイドさんのお話ですか?」
俺は先読みして孤児院長に確認を取る。しかし、
「それもあるが他にもいろいろある。なので、話は今日の販売が終わってからにする」
「わ、わかりました」
あれ? メイドさんの話だけじゃないの?
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今日の販売が終了した。
売り上げはなんと銀貨226枚。今日だけで113袋売れた。
子供達や世話人らは凄い売れたと手放しに喜んでいた。もちろん本来であれば喜ばしいことではあるが、しかし在庫がすでに100袋切ったというのは俺的にはかなりの『由々しき問題』であった。
もちろん、今回はお貴族様の大量注文というイレギュラーが今回の売り上げの要因だが、しかし、問題なのはこれが「本当にイレギュラーなのか?」ということ。
「今日はあのメイドさんが帰ったあと、同じようなお貴族様の大量注文はなかったけど⋯⋯」
しかし、いずれ貴族に知られれば今日と同じことが起きる可能性は非常に高いと思う。つまり今回のことがもはや『イレギュラー』じゃなくなるということだ。
「もしかしたら、孤児院長の話って領主のメイドさんの話だけじゃなく、他のお貴族様への対応についての話かも⋯⋯」
そんなことを思いながら俺は孤児院長室の扉を叩く。
結果的に、孤児院長の話は俺の予想とピタリと一致していた。




