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TS転生者の生存戦略〜Transsexual Reincarnation's Survival Strategy〜  作者: mitsuzo
第一章「孤児院の少女編」

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032「嵐の前の静けさ」



——『ポテトフライ販売開始当日 朝』


「ふぁ⋯⋯」


 朝——いつもより少し早めの起床。


 というのも、今日からいよいよポテトフライの販売が開始するということで期待と不安が入り混じった変なテンションだったからか、いつもより早めに目が覚めてしまったのだ。


 もう眠れそうにないので、俺は外に出て顔を洗いに行った。


 バシャバシャ⋯⋯。


「ふぅ〜」


 粗末なタオルで顔を拭きながら意識がだんだんと覚醒していく。


「お客さん⋯⋯いっぱい来てくれるかなぁ」


 今日はポテトフライの販売日——正直、味には自信がある。ていうか『ポテトフライ』は『異世界現代知識チート商品ランキングトップ3』に入る『鉄板商品』であり『約束された勝利の剣』である⋯⋯⋯⋯はずなのだが、


「うう⋯⋯でも実際販売するってなったら不安しかないよぉ」


 領都の4つすべての城門付近の平民街で試供品も配った⋯⋯3日しか試供品配布していないにも関わらず試供品を受け取った人たちが販売前にすでに孤児院に押し寄せていた⋯⋯これだけの反響があったのだ、絶対大丈夫なはずなのだが⋯⋯しかしいまだ不安は拭えない。


「俺って昔(前世)から期待と不安があるとき不安が勝るんだよな〜」


 そう、前世の俺も今のアナスタシアの俺もこの思考のクセは変わっていない。


 ちなみにこの考え方は俺の根本にある「できるだけ最悪を想定して考えたほうが、後々ショックが軽くて済む」というネガティブ思考が原因である。要は「石橋を叩いて渡るチキン野郎」ってことだ。


「はぁ〜、こればっかりは転生しても変わらないな〜」


 せっかく待ちに待ったポテトフライの販売日だというのに、自分からテンション下げるようなことを考え嫌気が差す。⋯⋯そんな時だった。


「おはよう、アナ」

「リッツ!」



********************



「どうしたのリッツ? こんなに朝早く」

「いやぁなんか緊張して早く起きちゃったんだよー。てかお前もだろ」

「うん。そんなとこ」


 そういってリッツは顔を洗うと俺が座っている長イスに腰掛けると特に喋ることなく空を見上げていた。


 朝の涼しい風が頬を撫でる。


 特に喋らなくても変な気まずさはなく、むしろこの静寂の心地良さにずっと身を委ねたかった⋯⋯⋯⋯しかしそれは無情にも長くは続かなかった。


「⋯⋯アナ」

「何?」

「何かお前変わったよな」

「⋯⋯リッツ」

「あ、いや、誤解すんなよ。良い意味で言ったんだぞ。病気が治ってから前よりも明るくなったし、よく喋るようになったって⋯⋯!」

「ありがと」

「お、俺だけじゃないぞ。みんな言ってる!」

「うん」


 俺は笑顔でリッツの話に耳を傾ける。リッツはあたふたしながらも俺に誤解されないよう必死に説明してくれた。なんだか可愛い。


「前と違って、アナが自分から皆に話しかけるようになって本当良かったよ」

「リッツ⋯⋯」

「俺以外とも喋るようになって友達が増えたのは良いことだとは思うけど、でも⋯⋯でもちょっと⋯⋯寂しいかな(ボソ)」

「え? 何?」

「い、いや! 何でもないっ!!」


 なんだ? マジでなんて言ったんだリッツ? 俺は鈍感主人公になんてなるつもりはないぞ!⋯⋯などとアホなことを考えていると、


「ふぁ⋯⋯あんたたち早いわね」

「「シエラ!」」


 と、後ろからシエラに声をかけられた。しかもシエラだけじゃなく、


「おはー!」

「おはよー!」


 と、さらに子供達がやってきて気づけば全員が起きてきていた。


「こんな朝っぱらからみんなして何やってんのよ⋯⋯」

「いやそれヴィラも一緒じゃねーか」

「リ、リッツっ?! お、おはよう⋯⋯」

「ヴィラまでこんな朝早く起きるとか、今日のポテトフライ販売大丈夫かぁ?」

「うっさいわねー、バカラッセル! あんたは一生寝ときなさい」

「いや死ねってことぉ!!!!」


 ヴィラとラッセルのやり取りに皆が爆笑する。


「それにしても、まさかみんなが早起きするなんてね」

「だって今日からポテトフライを売るんだーって考えたら、嬉しいのと不安とでなんか訳わかんなくなっちゃってさ。そしたら朝パッと目が覚めちゃったんだよねー」

「わたしもー」

「ぼ、僕なんて昨日から緊張してあまり寝れなかったよ⋯⋯」

「俺もそんな感じだわ」


 子供たちも全員俺と同じく期待と不安であまり眠れなかったり朝早く目が覚めてしまったとのことだった。


 俺はそんなみんなの話を聞いたおかげで、さっきまで不安でいっぱいだった胸がいつの間にか晴れていることに気づいた。


 そうだ、一人じゃない。みんないるんだ。


「みんな⋯⋯ありがとう。ポテトフライいっぱい売りましょうね!」

「まかせろ。アナ!」

「もちろんよ!」

「おう!」

「当たり前じゃない!」

「売るぞー!」

「売るのだー!」

「ぼ、僕、がんばるよ!」

「はい!」

「が、がんばります!」


 皆の心が一つになった瞬間だった。


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