028「アナスタシア式学習塾(3)」
——3週間目
文字の読み書き授業では、主に単語の暗記をさせているがさすがに皆、飽きてきていた。ということで、昨夜考えた子供達のモチベーションアップ作戦を実行に移す。
「今日からは二人1組に分かれて暗記する単語を出し合ってください。その際自分の解答数はちゃんと記録しておいてくださいね。あとで集計して一番になった子には『ポテトフライ』を進呈します」
「「「「「やったぁぁーー!!!!」」」」」
俺の『ご褒美』を聞いた皆から黄色い声援が上がった。そう、以前作った『ポテトフライ』は子供達から人気があり、何度も「また作って」とおねだりされていたのだ。
ということで、ポテトフライを『エサ』に釣ってみました(釣れました)。
次に『計算の授業』だが、こちらはかなり順調にいっている。というのも、まず『数字書けない班』の最年少ファラとミネアが『掛け算九九暗記』に成功したのだ。
二人はまだ5歳だが、しかし計算だけでなく文字の読み書きも優秀で、今も年上の子達と一緒になって授業もついていけている。
その中でもミネアは特に優秀で特筆すべきは彼女の『計算の才能』で、正確さやスピードに関してはエース級のヴィラやシエラに迫るほどだった。
またファラに関してもミネアほどではないものの、他の年上の子達と比べても遜色ないほど優秀だった。
そんなわけで、めでたく全員が『1桁100マス計算』『掛け算九九暗記』を習得したので、今日から全員に『筆算』を教えることとなった。
筆算とは『計算過程の可視化』なので、この筆算の仕組みについては特に丁寧に何度も説明した。
皆、『筆算』は初めてだったので最初は戸惑っていたものの、次第に理解していくと「これすごく便利!」と言い出しのめり込むように練習問題を解いていった。
今はまだ慣れてもらうことを優先に『1桁〜2桁の足し算引き算の筆算問題』だけをやってもらっているが、いずれは各個人の理解度によっては『掛け算』や『割り算』の筆算問題まで教える予定だ。
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——4週間目
ここまで『文字の読み書き授業』と『計算の授業』を行ってきたが、孤児院の子供達が予想以上に優秀だったおかげで、全員が『基本的な文字の読み書きと計算』ができるようになっていた。
実際、世話人頭のマイルスさんに子供達の実力を贔屓目なく確認してもらったので間違いない。ちなみに、
「こ、これ、平民どころか同い年の貴族の子達⋯⋯いや現在通っている魔法学院の生徒たちと同レベルかあるいは⋯⋯」
と、マイルスさんがボソッと誰にも聞こえないような声で呟いていたが、しかしこの時俺はマイルスさんのすぐ後ろにいたのでその呟きをバッチリキャッチしていた。
そんな俺の存在に気づいたマイルスさんがギョッとした顔を浮かべると「い、今のは聞かなかったことにしてくれないかな⋯⋯」とばつの悪そうな表情で懇願した。
そんなマイルスさんの振る舞いにふと考える。
(これってつまりマイルスさんの呟きは『本音』であること。そしてその本音から導き出される答えは、孤児院の子供達の学習レベルが想像以上に高いことを意味しているのではないか)
俺はそんなマイルスさんの呟きを聞いて、改めて自分の教育は間違っていなかったと実感すると同時にうまくいってよかったと心から安堵した。
その後、マイルスさんから「孤児院長が呼んでいる」ということで孤児院長室へ向かうと、案の定『ポテトフライの販売』についての話だった。
「君が以前言っていたポテトフライの紙袋を200袋用意した。いつから販売を開始するのかは君にまかせる」
孤児院長は俺が宣言通りほぼ1ヶ月で子供達に文字の読み書きや計算を習得させたことを高く評価してくれた。あと、紙袋が事前に用意されていたことについて聞くと、
「事前にマイルスから子供達の習得スピードを聞かされていたからな⋯⋯」
とのことだった。つまり、孤児院長はちゃんと子供達の進捗具合をマイルスさんを通して確認していたようだ。
前から思っていたけど孤児院長って大人子供関係なく面倒見良いよね。
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さて、孤児院長から『ポテトフライ販売』を一任された俺は、早速食堂に世話人と子供達を呼び出し、『ポテトフライの販売開始時期とそれまでに準備するもの』について会議を開いた。
ちなみに勉強会をここ1ヶ月ほどやってきたが、そのことで子供達との関係性にちょっと変化があった。というのも、実は最近俺が中心になって物事を進めることに対して誰も文句を言わなくなったのだ。
むしろ「俺が主導するのが普通」という空気さえ出来上がっている。
まぁ一応今でもヴィラはツンデレ絡みをしてくるが、前みたいな棘のある言い方をすることは無くなったし、なんだかんだでちゃんと話を聞いてくれる。ぶっちゃけ最近では俺がヴィラをいじることが多い。
いやぁ、ヴィラって生粋のツンデレお嬢様キャラだからからかいがいがあるんだよねぇ。しかも反応もめっちゃ可愛いし(ムフッ)。
そんな感じで俺の声掛けで皆がすぐに食堂に集まってくれたので早速会議をスタートさせた。まー実際は会議というより『ポテトフライ販売計画』について皆で情報を共有するって感じだ。
「みんな今まで勉強頑張ってくれてありがとう。おかげ様でほぼ1ヶ月でポテトフライの販売に漕ぎ着けることができました!」
俺が皆に心からのお礼を伝えると拍手で応えてくれた。
「ポテトフライの入れ物である紙袋は孤児院長が200袋用意してくれました。なので、まず目標はこの200袋の完売を目指します。そのために、まず最初の1週間は『試供品』を平民街に出て配っていきます。試供品というのは⋯⋯」
と、俺は皆に『ポテトフライをこうして販売していく』という『俺の考え』を皆に共有してもらった。細かい部分は実際に販売が開始してからでも遅くはない。大事なのは『販売イメージの共有』なのだ。
そうして、準備を始めた俺たちは1週間後——ついにポテトフライの試供品配布の日を迎えた。




