026「アナスタシア式学習塾(1)」
「おはようございます!」
次の日、俺は食堂にて栄えある第一回目の授業を開始した。
——1時間目
「今日から授業を始めます。では、こちらの一覧表を見てください」
食堂なので子供達は長テーブルに向かい合わせで座っている。そして、子供達の目の前には事前に配ってあった『文字の一覧表』があり、その説明を始める。
「これは文字の一覧表です。全部で41文字あってこれを1文字1文字声に出しながら書いていってください。1文字につき3回書いて次に進んでくださいね」
「アナ〜」
「アナスタシア《《先生》》です!」
「ア、アナスタシア先生⋯⋯」
「はい、何でしょうファラ君!」
声をかけたのは『ファラ』という5歳の男の子。
「僕とミネアは5歳だけど授業に参加してもいいんですか?」
「大丈夫です。文字の勉強はただの暗記ですので難しくはありません。それに早い段階で勉強に触れたほうが絶対に良いのでぜひ参加してください」
「「わかりましたー」」
ファラとミネアが嬉しそうに返事をする。
「皆さん、スピードを気にしないでください。ていうか、むしろゆっくり丁寧に1文字を3回ずつ繰り返し書いてください」
「「「「「はい!」」」」」
「もう一度言います。ゆっくり丁寧にやってください。ここを忘れて『少しでも早く書いて終わらせる』なんてやり方をすると返って覚えるのが遅くなります。十分注意してください」
私は『ゆっくり丁寧に』が大事であることを繰り返し注意した。
「では、始めてください」
こうして、文字の読み書きの勉強がスタートした。
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——2時間目
「はい、次は計算の勉強をします」
まずはみんなが数字を書けるのかを聞いてみたがこれは半々だった。ということで、まずは『数字書ける班』と『数字書けない班』の2つにグループ分けをする。
「『数字書けない班』は、文字の勉強のときと同じように1から10まで数字を言いながら何度も書いて練習してください。ちなみに声を出しながら文字を読むのを『音読』というので覚えてくださいね」
そうして、『数字書けない班』に1から10までの数字を音読しながら紙に書いてもらう。その際世話人に手分けして『数字書けない班』の紙に1から10までの数字を書いてこれを手本に書くよう指示した。
「では『数字書ける班』ですが⋯⋯」
ということで、まずは俺が作った『1桁の足し算と引き算の練習問題』をみんなにやってもらった。すると、
「ヴィラ早ーい!」
「フフン、これくらい当然よ」
10問の練習問題を最初に解いたのはまさかのヴィラだった。
「うん、満点ね」
「当然よ。私、計算得意だもの」
「ヴィラはどうして計算ができるの?」
「世話人頭のマイルスさんに筋がいいからって教えてもらったのよ」
「へ〜、そうなんだ」
ヴィラは何というか一人では何もできない『お嬢様』のようなイメージがあったのでこれには驚いた。
その後、時間がかかったが何とか『数字書ける班』全員が10問の練習問題を解き終わる。ヴィラ以外に満点だった子はシエラとボンズくらいだった。ちなみにリッツは『数字書ける班』ではあるが練習問題は一番点数が悪かった。⋯⋯がんばれ、リッツ!
「それじゃあ特に計算が早かったヴィラは足し算引き算は大丈夫そうだから掛け算をやってもらいたいんだよね」
「か、掛け算!? そんなの習ったことないわよ!」
「え? そうなの?」
う〜ん、じゃあどうしよう⋯⋯。
「わかった。じゃあ『掛け算九九』をやってもらおうかな」
「え? 掛け算⋯⋯九九?」
そういって、俺は事前に作ってあった『九九の一覧表』を渡す。
「これは暗記になるんだけど、1から9までの数字の掛け算を表にしたものなの。これを全部覚えればお金の計算がすごくラクになるのよ」
「こ、これを、全部暗記っ?! そんなのできるわけないでしょ!」
「大丈夫、大丈夫。覚え方にコツがあるから」
「嘘おっしゃい!」
「本当だって」
「へ〜⋯⋯あ、そう? そこまでいうならあんたがやってみなさいよ?」
「え? 私が?」
おっと、ヴィラがニヤニヤしながら俺を煽ってきた。
うん。ここらで一つ《《かまして》》おこうかな。
「何、できないの? 散々人にやれって言っておきながら自分は⋯⋯」
「いいよ。じゃあいくね。いんいちが1、いんにが2、いんさんが3、いんよんが⋯⋯」
「⋯⋯え?」
俺はヴィラの驚く顔を横目に、九九をできる限りの最速で口ずさんでいく。
「さざんが9、さんし12、さんご15、さぶろく18⋯⋯」
「う、うそ⋯⋯? すごい⋯⋯」
「え? え?『さざんが9』って『3×3=9』ってこと? で、その次の『さんし12』が『3×4=12』⋯⋯ってすごい」
ヴィラ以外の他の子らも俺が口ずさむ言葉が掛け算に連動していることに気づいたようで、その子たちは俺が数字の倍数をスラスラと言っていくことに信じられないという表情を浮かべていた。
「くろく54、くしち63、くは72、くく81⋯⋯! はい、終了!」
「「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」」
シーン。
俺が九九を読み終えると、子供達だけでなく世話人や世話人頭のマイルスさんまで呆然としていた。
やはり、この世界に『掛け算九九』という概念はないようだ。
「ということで、こんな感じで『掛け算九九』を覚えてね、ヴィラ?」
「え? あ⋯⋯はい」
ヴィラがポカーンとしながら素直な返事を返した。
うん。ちょっと、ざまぁできた。




